事件番号:JP2025-0016
裁定
- 申立人:
-
氏名(名称):エティソン リミテッド ライアビリティ カンパニー
住所:アメリカ合衆国 アイダホ州●(省略)● - 代理人:
-
弁理士 西村 雅子
弁理士 佐々木 香織 - 登録者:
-
氏名(名称):山本 悦生
住所:大阪府大阪市浪速区日本橋東2丁目7−26 ソルグランデ 1002 - 代理人:
- なし
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「CLICKFUNNELS.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「CLICKFUNNELS.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人は、 2014年頃から米国において「ClickFunnels」の商標で英語版のオンラインビジネス用のマーケティングツールとそのシステムを営業に使用し、 米国および日本を含む多数国で販売ないし提供してきた。 日本においては英語版で提供されてきたが、 日本語版を2025年11月に同ツールの提供を上市することを同2025年8月4日にインターネットで公表した。 登録者は、2025年8月6日に本件ドメイン名を登録した。
5 当事者の主張
A 申立人の主張
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
申立人は、2014年にアメリカ合衆国アイダホ州ボイシに設立されオンラインビジネス用のマーケティングツールをClickFunnelsの商標(以下「申立人商標」という)の下で運営する会社である。 本件ドメイン名は「CLICKFUNNELS.JP」であるところ、 日本を意味するトップレベルドメインである「.JP」を除いた「CLICKFUNNELS」は、 申立人の運営するClickFunnelsと同一である。
ClickFunnelsはオンラインビジネスに必要な機能を統合させたマーケティングツールの代表格であり、 世界No.1ファネルビルダーとも評され、 世界中の起業家から注目を集めている。 日本語版のローンチは2025年11月15日を予定しており、 これからの展開だが、日本においてもすでに多数の利用者がいる。 そのため、利用方法をまとめたウェブサイトも多数存在し、 「ClickFunnelsコース」として、 教育プログラムの提供が主に教育事業を行う株式会社ベネッセホールディングスと提携するオンライン学習プラットフォームUdemyにて行われ、 現在までに320,257名が学習した。
以上から、 本件ドメイン名は申立人が正当な利益を有する表示ClickFunnelsと同一である。
(2)登録者が、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
登録者はClickFunnelsに関係する者ではなく、 現在のところ、本件ドメイン名へのアクセスはできない。 また、登録者が「CLICKFUNNELS」に関するサービス等の提供を行っている事実は発見されないことから、 本件ドメイン名に関係する権利や正当な利益を有していない。
(3)登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
ClickFunnelsの日本語版の公式ローンチに際して、 2025年11月15日にイベント開催する予定で、 このチケット販売情報が少なくとも2025年8月4日には発表されている。 一方、本件ドメイン名は当該発表の直後2025年8月6日に登録され、 現在においてウェブページが存在しないことに照らすと、 日本での展開を見込んで先取りしたことが窺えるため、 不正の目的で登録されたことは明らかである。
(4)求める救済処置
申立人は、本件ドメイン名の登録について、 申立人の代理人である弁理士法人大島・西村・宮永商標特許事務所への移転の裁定を下すことを求める。 申立人は米国法人であり現時点では日本国内に住所を有しないため、 日本国内に所在する代理人を移転先として指定するものである。 なお、申立人は日本における事業展開を予定しており、 当該代理人への移転は一時的な措置である。
B 登録者の答弁
登録者は答弁書を提出していない。
6 争点および事実認定
A 登録者の不答弁の効果
(1) 本件において、登録者は、答弁書を提出していない。
(2)本手続には弁論主義は適用されないから、本件パネルは、 登録者が答弁書を提出しないという事実により申立人の主張事実等について擬制自白の拘束力が生じるものとすることはできず、 紛争処理方針及び手続規則の定める要件が充足されているか否かの判断を、 申立人の陳述、提出した証拠、条理等に基づいて行わなければならない、 というべきである(手続規則第15条(a)等)。 ただし、手続規則は、「もし登録者が答弁書を提出しないときには、 例外的な事情がない限り、 パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」と規定する(手続規則第5条(f))。 したがって、下記処理方針第4条a.の(i)ないし(ⅲ)の各号に関する申立人の主張・立証が明らかに不十分であると判断される例外的な事情がない限り、 申立人の主張に従い、本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが相当である。
(3)手続規則第15条(a)は、
パネルが紛争を裁定する際に使用すべき原則についてパネルに次のように指示する。
「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、
処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、
並びに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
そして、処理方針第4条a.は、
申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
B 処理方針第4条a.の各号についての本件パネルの判断
(1)申立人が権利又は正当な利益を有する商標
申立人提出に係る証拠から、 申立人が申立人商標の商標登録を有するかどうかは明らかではないが、 申立人においては、 2014年以来現在に至るまで申立人商標が米国のみならず我が国においても使用されている事実が認められる(甲第1ないし9号証)。 すなわち、本件商標を使用する申立人の営業は、 顧客が申立人の提供するシステムClickFunnelsのサーバーにアクセスして顧客のオンラインセールスのツールを作成し自己のウェブサイトを構築することのできるサービスを中心とするものであるが、 2022年1月時点で申立人商標のサービスの利用者は25万社を超えること(甲第1号証3頁末行)、 日本においては2025年11月に日本語版を上市するまでは英語版のみが提供されていたが、 その段階でも日本におけるアフィリエート称する事業者が申立人商標を用いてClickFunnelsのシステムを宣伝し顧客への説明を行い申立人のシステムの使用を勧誘していたこと(甲第3ないし6号証)、と りわけ我が国のベネッセ社が米国のUdemy社と提携して英語版ClickFunnelsの使用について学習するコースを提供しその受講者は320,257人に達すること(甲第7号証)、 申立人は日本語版を日本で2025年11月15日に正式に上市(ローンチ)することを企画し、 その旨を2025年8月4日に自己のウェブサイトで公表し、 そのイベントのチケットを8月3日から発売し(甲第2号証)、 それに先立ち「基礎講座」を同年8月7日を第1回として連続的に開催したこと(甲第9号証2頁)が認められる。 よって申立人は、申立人商標について正当な利益を有するものと認められる。
なお、申立人は、申立人商標の商標登録に触れていないが、 日本国内での商標登録を確立していないことから引用しなかったものと思われる。 当パネルが、JP-DRP解説Ⅱ1.(6)c.に従い簡易な手段で調査したところ、 申立人は米国において本件商標「ClickFunnes」について2014年に出願し2016年に登録された米国商標登録第4993984号の商標登録を有し、 さらにこの米国商標登録を基礎とした国際登録を日本、オーストラリア、 デンマーク、ドイツ、スペイン、フランス、英国、インド、イタリア、 フィリピンに行っていることが認められる。 ただし、日本における国際登録出願は、 2025年8月13日になされまだ登録に至っていない。 かかる米国商標登録等は申立人が申立人商標について正当な利益を有するとの上記認定を裏付けるものということができる。
(2)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
登録者の本件ドメイン名は、 「CLICKFUNNELS.JP」であり、 ローマ字大文字体で横書きされている。 そして、本件ドメイン名のうち、「JP」の部分はトップレベルドメインであって国別コードの日本を意味し、 使用主体が属する国を表示させるものにすぎないから、 本件ドメイン名において識別力を有する要部は、 セカンドレベルドメインである「CLICKFUNNELS」の部分であると認められる。
一方、申立人の有する、申立人商標の構成は、 冒頭のCと中間のFを大文字にし、 残りを小文字にしたローマ字で「ClickFunnels」との文字列を含んでいる。
そして、 ドメイン名が「商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似している」か否かの判断に当たっては、 当該ドメイン名の識別力のある部分と「商標その他表示」の識別力のある部分とを比較すべきである。
そこで、 本件ドメイン名の識別力を有する要部である「CLICKFUNNELS」の部分と、 申立人商標の文字列「ClickFunnels」の表示を比較すると、 両者は、いずれも「クリックファネルス」の呼称を生じるため、 称呼において同一である。 また、外観における両者の差異は、 冒頭と中間の以外のローマ字が大文字体か小文字体かという差異のみであるため外観において実質同一というべきレベルに類似している。 また、「CLICK」はパソコン等でマウスのボタンを押してすぐに離す動作であり「一動作で」という観念を有する英単語であり、 「FUNNELS」は英単語でビジネスにおいては「顧客が商品等を認知してから購入までのプロセスを漏斗の様に段階的に絞り込むマーケティングモデルを意味するもので、 両社は観念においても同一である。
したがって、本件ドメイン名と申立人商標とは、 全体として同一ないし混同を引き起こすほど類似している、というべきである。
(3)権利又は正当な利益
登録者は、個人であり、 本件ドメイン名に関わる商標権・屋号等の表示を所有している事実も、 申立人に在籍したことや申立人から登録者に対して商標の使用を許可したことも認められない。 また、登録者が本件ドメイン名を正当な目的で使用していたことも認められないから、 JP-DRP4条c.各項に該当する事実も認められない。 これらの事実からすれば、登録者は、 本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないというべきである。
なお、申立人は本件ドメイン名のメールアドレスにはアクセスできないから、 本件ドメイン名は使用されていないと主張している(甲第8号証)。 確かに、本件メイン名は使用されていないものと認められるが、 本パネルが、JP-DRP解説Ⅱ1.(6)c.に従い、 公開された資料(インターネット検査、 会社情報)により独自に簡易な調査を行ったところによれば、 登録者の電子メールアドレスのドメイン名「hatchsystem」は、 登録者が代表取締役であり唯一の取締役であるHatchSystem株式会社のドメイン名であり、 ここ会社のウェブサイトには、 2025年8月7日および2025年12月4日付けの「コンテンツメイクCLICK.FUNNES始動」という題名の下に「CLICK。FUNNELS(clickfunnels.jp)を2026年8月8日に正式ローンチ」という記載等があり、 一見登録者が自己の経営する会社で「本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用する準備」をしているかのようであるる。 しかしながら、 上記記載は「○○年〇月〇日に正式ローンチ」という文言が申立人の日本版ClickFunnelsの上市の2025年8月4日付け公表(甲第9号証)と極めて類似している表現によりビジネス用コンテンツのフォーマット化の顧客を勧誘するものであり、 「申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図」が認められる。 したがって、登録者の経営する企業の上記ウェブサイトの公表ないし宣伝は、 登録人が本件ドメイン名につき正当な利益を有しないという前記認定を妨げるものとは認められない。
(4)不正の目的での登録又は使用
申立人は、 オンラインで多数のユーザーに対してオンラインセールのツールの構築サービスを提供しており(甲第1ないし7号証)、 同サービスは、 日本を含む各国の市場で実質的な数の企業の支持を得ていること、 日本において日本語版を上市することを2025年8月4日に公表・宣伝し同7日にはセミナーを開催していることが認められる(甲第1ないし7および9号証)。 他方、本件ドメイン名は、 申立人の上記8月4日の直後であり同月7日に登録された。 したがって、登録者自身の使用は認められないものの、 申立人の日本でのClickFunnelsのビジネスの日本での展開を見込んでのなんらかのサイバースカット的不正の目的で登録したものと推認される。
なお、前述のように、当パネルの調査によれば、 登録者の経営する会社が将来行うかもしれないオンライン上で行うビジネスコンテンツの最適化サービスに使用するすることを公表ないし宣伝しており、 登録者は商業上の利得を得る目的で、 自己のウェブサイトでサービスの出所、 取引の提携について誤認混同を生ぜしめ、 インターネットユーザーを自己のウェブサイトに誘因する意図をもって同社のウェブサイトにおいて本件ドメイン名を表示して使用したことが窺われるので、 このことは、本項の上記認定を裏付けるものと考えるのが合理的である。
7 結論
以上の認定事実に照らして、本件パネルは、 登録者によって登録された本件ドメイン名「CLICKFUNNELS.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有しておらず、 本件ドメイン名が不正の目的で登録又は使用されているものと判断する。
申立人は、 申立人の代理人である弁理士法人大島・西村・宮永商標特許事務所への移転の裁定を下すことを求めているが、 処理方針4条i.は、「申立人がパネルに対して求めることのできる救済は、 登録者のドメイン名登録の取消請求または当該ドメイン名登録の申立人への移転請求に限られる。」と規定していることから、 申立人の申立ての趣旨は、申立人への移転を求めている趣旨であると理解する。
よって、処理方針第4条i.に従って、 本件ドメイン名「CLICKFUNNELS.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。
2026年1月27日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 熊倉 禎男
別記
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2025年11月17日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2025年11月14日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、 2025年11月18日にJPRSに登録情報を照会し、 2025年11月18日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、 2025年11月21日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2025年11月25日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、 2025年11月25日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2025年11月25日)、 答弁書提出期限(2025年12月23日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2025年12月24日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、 2026年1月6日に弁護士 熊倉 禎男を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2026年1月6日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2026年1月27日)を通知した。 パネルは、 2026年1月9日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2026年1月27日に審理を終了し、裁定を行った。