事件番号:JP2026-0001
裁定
- 申立人:
-
(氏名/名称)学校法人早稲田大学 理事長 田中 愛治
(住所)東京都新宿区●(省略)● - 代理人:
- 弁護士 野田 幸裕
- 登録者:
-
(氏名/名称)Domain Admin
(住所)東京都Shibuya-ku●(省略)●
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「WASEDA-HONJO.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「WASEDA-HONJO.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立書における申立人の「氏名/名称」の欄には、 「学校法人早稲田大学」と「理事長 田中 愛治」とが併記されている。 申立の理由では同法人を示すために「申立人」とし記載されていることに加えて、 一般に理事長とは、学校法人を代表するとともに、 学校法人の業務を決定する権限を有する者である。 このため、以下、申立人を同法人とみなして裁定する。
申立人は、総合大学及びその付属高校を経営している。 前者の名称として1902年から「早稲田大学」を使用しており、 後者の名称として1982年から「早稲田大学本庄高等学院」を使用している。 申立人は、これらの英語表記として「WASEDA UNIVERSITY」及び「Waseda University Honjo Senior High School」を使用している。 このうち、「早稲田大学」又は「WASEDA UNIVERSITY」等について申立人は商標権を有している(登録日2014年11月7日、 商標登録第5716362号、同第5716363号)。
本件ドメイン名は、2025年9月1日に登録された。
5 当事者の主張
a 申立人
申立人は、本件ドメイン名と同一のドメイン名(以下、 「旧ドメイン名」という。)である「WASEDA-HONJO.JP」を2025年7月31日まで有していたが、 申立人が旧ドメイン名を使用する権利を放棄したわずか1ヶ月後の同年9月1日に「Taka Enterprise ltd.」なる者が本件ドメイン名を登録した(甲2)。 その後、本件ドメインの登録者が「Domain Admin」に変更された。
本件ドメイン名は、 著名な早稲田大学を意味する「WASEDA」により強い出所識別機能があるため、 申立人の商品等表示又は登録商標と混同を引き起こすほどに類似する。 本件ドメイン名を実質的に管理する者「Taka Enterprise ltd.」は、日本知的財産仲裁センターから、 ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 かつ当該ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていると認定され、 当該ドメイン名の登録を申立人に移転せよとの裁定を繰り返し受けている(甲20・甲21)。 また、「Taka Enterprise ltd.」及び登録者は、 申立人がかつて製作し配信した申立人旧ホームページをそのままデッドコピーの上、 本件ドメイン名を利用したURL「http://waseda-honjo.JP」から配信した事実がある(甲8-1及び甲8-2)。 このため、登録者は本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
したがって、申立人は、 ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、 処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理にしたがって、裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
申立人は、 「早稲田大学」及び「早稲田大学本庄高等学院」を長年使用しており、 「早稲田大学」について商標権を有する。 そして、「早稲田大学」が著名であること及び「早稲田大学本庄高等学院」が広く知られていることが認められる(無効2019-890052に係る商標登録無効審判審決)。 そして、申立人は、「早稲田大学本庄高等学院」の英語表記「Waseda University Honjo Senior High School」を使用している。 したがって、申立人は商標その他表示「Waseda University Honjo Senior High School」(以下、 「申立人表示」という)について正当な利益を有していると認めることができる。
申立人表示のうち「University」及び「Senior High School」は、 学校の種類を表す語(英語表記)であるため自他識別力はない。 一方、「Waseda」及び「Honjo」は自他識別力を有するというべきである。 これは、学校の種類を表す語に組み合わせる語により学校名が特定可能であることに加えて、 「早稲田大学」の著名性及び「早稲田大学本庄高等学院」の周知性に基づくと、 「Waseda」及び「Honjo」によって同高等学院を認識できるためである。
本件ドメイン名のうち「.JP」の部分は、 多くのドメイン名に共通して用いられるトップレベルドメインであるため自他識別力はない。 「WASEDA-HONJO」のうち、「-」(ハイフン)は、 「WASEDA」と「HONJO」という二つの語を組み合わせた文字列と認識できるように区切る役割を持つにすぎず、 「-」が自他識別力を有するとはいえない。
以上からすると、申立人表示と本件ドメイン名とは、 自他識別力を有する「WASEDA」と「HONJO」の部分の綴りが共通している。 よって、 本件ドメイン名は申立人表示と混同を引き起こすほど類似しているというべきである。
(2)権利または正当な利益
登録者の名称は、「Domain Admin」及び「Taka Enterprise ltd.」のいずれについても、 本件ドメイン名「WASEDA-HONJO.JP」と一致していない。 また、登録者が本件ドメイン名と同一又は類似の文字列を含む日本の商標登録を有する事実はうかがえず、 申立人は登録者に本件ドメイン名の使用に関する許諾をした事実はない旨を主張している。 さらに、登録者が商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用している事実も見当たらない。
なお、申立人の主張に対して、 登録者は答弁書を提出しておらず本件ドメイン名を採用するに至った理由その他の権利または正当な利益を明らかにしていない。
以上を考慮すると、 登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと認められる。
(3)不正の目的での登録または使用
本件において、「早稲田大学本庄高等学院」の周知性等に基づくと、 「Waseda」及び「Honjo」によって同高等学院を認識できる点については(2)で認定したとおりである。 そうすると、これらの文字を含む本件ドメイン名は、 同高等学院を認識させることになる。 そして、 登録者が本件ドメイン名を登録した後に本件ドメイン名を利用したURL「http://waseda-honjo.JP」を表示したウェブサイト(以下、 「本件サイト」という)には、 申立人の周知な表示と同一の「早稲田大学本庄高等学院」及び申立人表示と同一の「Waseda University Honjo Senior High School」が表示されている(甲8-1及び甲8-2)。 また、本件サイトには、 高等学校による教育サービスが提供されていることをうかがわせるような写真や説明等が表示されている。 そうすると、登録者が本件ドメイン名を使用することにより、 本件サイトがあたかも申立人により提供されていると誤認混同を生ずる可能性が高く、 登録者はこのような誤認混同を生ぜしめることを意図していたというべきである。
ここで、現在のところ上記URLを表示したウェブサイト(以下、 「現サイト」という)には「早稲田大学本庄高等学院」等の表示はなく、 オンラインカジノに関する情報が表示されているが、 このことにより上記意図が否定されることはない。 むしろ、現サイトにはオンラインカジノの情報と共に他のウェブページへのリンクが複数貼られていることからすると、 登録者が現在において商業上の利得を得る目的を有すること及び現サイト(そのリンク先ページを含む)に誘引させる目的が推認できる。
したがって、登録者は、商業上の利得を得る目的で、 インターネット上のユーザーを、本件サイト、 現サイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 本件ドメイン名を使用しており、 これを目的に登録したというべきである。
以上により、 本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され、 使用されているというべきである。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「WASEDA-HONJO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針第4条iにしたがって、 ドメイン名「WASEDA-HONJO.JP」の登録を申立人に移転するものと し、主文のとおり裁定する。
2026年3月30日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 岡村 太一
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2026年1月22日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、 2026年1月22日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2026年1月22日にJPRSに登録情報を照会し、 2026年1月22日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メ-ルアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、 2026年1月26日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2026年1月29日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、 2026年1月29日に登録者に対し郵送及び電子メ-ルにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2026年1月29日)、 答弁書提出期限(2026年3月2日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあたりありません」として返送された。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2026年3月3日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、 1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2026年3月9日に弁理士 岡村 太一を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2026年3月9日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2026年3月30日)を通知した。 パネルは、 2026年3月9日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2026年3月30日に審理を終了し、裁定を行った。