事件番号:JP2026-0003
裁定
- 申立人:
-
(名称)株式会社東芝
(住所)神奈川県川崎市●(省略)● - 代理人:
- 弁護士 今井 浩人、弁護士 柿内 瑞絵、弁護士 屋嘉 まりあ
- 登録者:
-
(氏名)YOO BYEONGRYONG
(住所)Uiwang-si, Gyeonggi-do, South Korea [Contact details omitted]
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「TOSHIBA-CO.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。)は「TOSHIBA-CO.JP 」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人株式会社東芝は、その起源を1875年まで遡ることができる長い歴史を有する、世界的に著名な日本の総合電機メーカーである。
申立人は、日本特許庁において、2026年2月20日検索時点で「TOSHIBA」の文字を含む登録商標(デザイン化しているものも含む。)を158件(甲2)保有しており、称呼が「トーシバ」となるものを含めれば207件の登録商標を保有している(甲3)。平成20(2008)年12月5日には、商標第2657342号防護第01号として、「TOSHIBA」の文字からなる商標(以下「申立人商標」という。)が防護標章として登録されており(甲4)、申立人商標は日本国において著名である。
本件ドメイン名は、2024年4月10日に登録された。
5 当事者の主張
a 申立人
申立人の主張は以下のように、整理できる。
申立人は、「TOSHIBA」の文字からなる商標を、日本を含む世界中において多数登録し、日本においては防護標章としても登録されているから、同商標は著名商標である。
本件で問題となっているドメイン名「TOSHIBA-CO.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)との表示の要部は「TOSHIBA」部分であるから、本件ドメイン名の要部は申立人商標と同一であり、本件ドメイン名は申立人商標と混同を引き起こすほど類似する。
登録者は「YOO BYEONGRYONG」で、その氏名に「TOSHIBA」の表記は含まれておらず、本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用しているとはいえないから、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない。
本件ドメイン名は、2026年2月頃、申立人の認識している範囲で、少なくとも国内外の企業2社に送付された、見積依頼を偽装した標的型攻撃メールにおいて、送付元のメールアドレスとして使用された。当該メールは、受信者に対し、あたかも申立人またはその関連会社が業務として送信した正規の見積依頼であるかのように誤認させ、もって何かしらの商業上の利益を得る目的で作成・送信されたものであることは明らかであり、少なくとも、事業を混乱させることを主たる目的として、登録・使用されたものと評価するのが相当である。
よって、本件ドメイン名は、申立人商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者は本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
上記4において認定したとおり、申立人は日本において、申立人商標を含む、「TOSHIBA」の文字を含む登録商標を多数保有しており、申立人商標は申立人を示す表示として著名となっているから、申立人商標について正当な利益を有している。
本件ドメイン名は、「TOSHIBA」と「CO」の文字を「-(ハイフン)」でつないだ表示に、「.JP」を付した構成となっている。
このうち、「.JP」の部分は日本の国コードトップレベルドメインであって、常に登録で必要となるものであるから、「同一または混同を引き起こすほどの類似性」の要件(処理方針第4条a(i))を判断するに当たって考慮しないのが通常であるから、本件ドメイン名から「.JP」の部分を除いた部分である「TOSHIBA-CO」の部分について検討する。
「TOSHIBA-CO」の表示は、「-CO」が付されている点で、申立人商標と同一ではない。
しかし、「TOSHIBA」と「CO」の間に「-(ハイフン)」が付されていることにより、「TOSHIBA」と「CO」とが分離して観察されやすいところ、「TOSHIBA」表示は、前述のとおり著名な商標である申立人商標と全く同一であるのに対し、「CO」は「company」(会社)の省略語であると理解され、その識別力は弱い。とりわけ、「CO」の後ろに「.JP」の表示が付されることにより、日本国内の企業が多く使用する属性型JPドメイン「.CO.JP」を強く想起させる。そのため、「CO」の部分の識別力は極めて弱く、「TOSHIBA」表示の著名性と相まって、「TOSHIBA」表示部分が強い識別力を持つ。
よって、本件ドメイン表示のうち、識別力を強く発揮して認識される要部は「TOSHIBA」部分であり、本件ドメイン名の要部である「TOSHIBA」表示が申立人商標と同一であることは客観的に明らかである。
したがって、本件ドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を有する申立人商標と混同を引き起こすほど類似していると認められる。
(2)権利または正当な利益
本件ドメイン名の登録者は「YOO BYEONGRYONG」であり(甲1)、その氏名には、「TOSHIBA」の表記は含まれていない。
また、申立人によれば、登録者と申立人は一切関係性、関連性はないとのことであり、本件登録商標の使用を許諾した事実も認められない。
さらに、登録者が本件ドメイン名もしくはこれに対応する名称を自らの事業等に使用している事実は認められず、本件ドメイン名と一致する日本の登録商標を保有している事実もなく、登録者が本ドメイン名で一般的に認識されていたという事情も認められない。
登録者は答弁書を提出しておらず、一件記録を検討しても、処理方針第4条c(ⅰ)乃至(ⅲ)に該当するような登録者の本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益の存在を裏付ける事実や、権利又は正当な利益の不存在を否定する例外的な事情は認められない。
したがって、登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと認められる。
(3)不正の目的での登録または使用
申立人の提出する証拠(甲5)によれば、本件ドメイン名が、2026年2月頃、申立人の関連会社である東芝プラントシステム株式会社(以下「申立人関連会社」という。)の調達担当者を騙るメール(以下「本件メール」という。)の送信元メールアドレスおよびCc送信先メールアドレスのドメイン名として使用されたことが確認できる。本件メール本文には、英語で、申立人関連会社の従業員であることを示唆する記載、担当者名、具体的な新規プロジェクトの入札の提案依頼書の提出を求める旨の記載、及び、依頼に関連する入札提案書の見積依頼書をリンク先からダウンロードし、必要事項を依頼書に記入するように指示する記載等があり、リンクが張り付けられている。さらに、本件メールの署名欄や、本件メールに添付された契約書案等(甲6、甲7)には、申立人商標を含む申立人関連会社の社名、部署名や担当者名が記載されている。
しかしながら、申立人の主張によれば、そもそも「-CO」を含むメールアドレスは申立人関連会社には存在しないものであり、同社担当者から本件メールを送信した事実は存在しない。また、本件メールに記載されたようなプロジェクトが存在する事実も確認されておらず、さらに、署名欄の申立人商標を申立人が許諾したことも、添付された契約書案等を作成、承認した事実もない、とのことである。
これに対し、登録者は答弁書を提出していないため、登録者自身が本件ドメイン名を使用したメールアドレスを使用して本件メールを送付したのか否か、本件メールを送付した事情等について、何ら反論や立証はなされていない。
以上の事実関係からすれば、本件メールは、申立人商標と類似するドメイン名のメールアドレスを表示し、申立人商標を無断で使用することにより、受信者に対し、あたかも申立人または申立人関連会社が業務として送信した正規の見積依頼であるかのように誤認させ、もって何らかの商業上の利益を得る目的で作成・送信された、いわゆる「フィッシングメール」であると認定できる。
なお、登録者自身が本件メールの送信主体であるか否かは、証拠上明白ではないが、登録者から何ら反論がなされていないことに鑑みれば、登録者自身が行っているか、少なくともフィッシングメールである本件メール送信の事実を認識しながら放置していることが強く推認される。
フィッシングメールが送信されれば、表示を使用された側の事業に混乱が生ずることは明白であり、現に申立人も本件メールについて対応を余儀なくされていることに鑑みれば、本件ドメイン名を、自らの事業等に一切使用することなく、フィッシングメールの送付元メールアドレスのドメイン名として使用している本件は、処理方針第4条b(iii)に規定する、「登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、当該ドメイン名を登録しているとき」に該当する。
したがって、登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていると認められる。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「TOSHIBA-CO.JP」が申立人商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「TOSHIBA-CO.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。
2026年5月28日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 相良 由里子
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2026年3月19日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2026年3月23日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2026年3月23日にJPRSに登録情報を照会し、2026年3月23日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、2026年3月25日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2026年3月30日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2026年3月30日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2026年3月30日)、答弁書提出期限(2026年4月27日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
但し登録者宛電子メール送信分については一部が送信不能であり、登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあたりありません」として返送された。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2026年4月28日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2026年5月8日に相良 由里子を単独パネリストとして指名し、一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。
センターは、2026年5月8日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定予定日(2026年5月28日)を通知した。パネルは、2026年5月11日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2026年5月28日に審理を終了し、裁定を行った。