事件番号:JP2026-0005
裁定
- 申立人:
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(名称)Société Anonyme des Bains de Mer et du Cercle des Etrangers
à Monaco
(住所)モナコ公国 モナコ ●(省略)●([Contact details omitted], Monaco, Principauté de Monaco)
代理人 弁護士 古庄 俊哉 - 登録者:
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(名称)casinosmontecarlo.jp、casinomontecarlojapan.jp、
casinosmontecarlojapan.jp、montecarloresortjapan.jp、
montecarloresortaichi.jp、montecarloresortnagoya.jp
ことLawford Global Limited
(住所)英国領バージン諸島 トートーラ ロードタウン ●(省略)●
(登録上の住所)〒160-0023 東京都新宿区●(省略)●
代理人 弁理士 橋本 千賀子
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という 。) 及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
以下の各ドメイン名の登録を申立人に移転せよ。
- ① casinosmontecarlo.jp
- ② casinomontecarlojapan.jp
- ③ casinosmontecarlojapan.jp
- ④ montecarloresortjapan.jp
- ⑤ montecarloresortaichi.jp
- ⑥ montecarloresortnagoya.jp
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名は以下の6個である(以下合わせて、 「本件各ドメイン名」という 。)。
- ① casinosmontecarlo.jp
- ② casinomontecarlojapan.jp
- ③ casinosmontecarlojapan.jp
- ④ montecarloresortjapan.jp
- ⑤ montecarloresortaichi.jp
- ⑥ montecarloresortnagoya.jp
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人は、1863年4月6日に設立された、モナコ公国法に基づく法人である。 申立人は、 モナコ公国において国家の許可を受けてカジノを運営する唯一の法人であり、 1863年以降、一貫して「カジノ・ド・モンテカルロ」を運営している。
申立人は、以下の商標の商標権者である。
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「CASINO DE MONTE‑CARLO」商標
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国際登録番号 : 773867 登録日 : 2007年2月9日 指定商品・指定役務 : 第41類 -
国際登録番号 : 793812 登録日 : 2004年8月13日 指定商品・指定役務 : 第16類、第28類、第41類 -
国際登録番号 : 799778 登録日 : 2004年3月12日 指定商品・指定役務 : 第16類、第28類
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「MONTE‑CARLO RESORT」商標
国際登録番号 : 926843 登録日 : 2009年8月28日 指定商品・指定役務 : 第8類、第9類、第11類、第21類、第24類、第28類、第38類、第41類、第43類
日本において申立人が保有する上記各国際登録商標の指定商品および指定役務には、 第41類の娯楽の提供、カジノを含むゲームの提供、 スポーツまたは娯楽イベントの運営のほか、 第43類の宿泊施設の提供、飲食物の提供等が含まれている。
本件ドメイン名は、いずれも2026年3月24日に登録された。
5 当事者の主張
a 申立人
申立人の主張は以下のように整理できる。
ア 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
申立人は、1863年以降、 一貫して「カジノ・ド・モンテカルロ」を運営しており、同カジノは、 世界で最も著名なカジノの一つとして広く認知されている。
申立人は、「カジノ・ド・モンテカルロ」のほか、 カジノおよびゲーム施設である「カジノ・カフェ・ド・パリ(Casino Café de Paris)」、 2つのパレスホテル、2つの高級ホテル、 複数のレジデンスおよびヴィラ、51の会議・宴会場、29のレストラン、 12のバーおよびナイトクラブ、3つのスパ、 モンテカルロ・ビーチ・クラブ等のスポーツ施設、 さらには「ジミーズ・モンテカルロ(Jimmy'z Monte‑Carlo)」や「サル・デ・ゼトワール(Salle des Étoiles)」といった文化・娯楽施設を所有・運営しており、 これらの多様な施設は、 一体として「モンテカルロ・リゾート」を構成している。
日本においても、 申立人が運営する「カジノ・ド・モンテカルロ(Casino de Monte‑Carlo)」は、旅行ガイドブック、雑誌、 ウェブマガジン・旅行ガイドなど、多数の媒体において、 モナコ公国を代表する主要な観光施設であるとともに、 モナコ公国を象徴するランドマークとして紹介されている。
申立人がモナコ公国において運営するカジノ・リゾートは、 世界で最も豪奢なカジノ・リゾート施設の一つとして、 世界的に顕著な著名性および高い評価を獲得している。
イ 本件各ドメイン名は申立人の商標と混同を生じさせるほど類似していること
(ア)「CASINO DE MONTE‑CARLO」商標との類似性
本件各ドメイン名のうち、①casinosmontecarlo.jp、 ②casinomontecarlojapan.jp および③casinosmontecarlojapan.jp においては、 申立人の「CASINO DE MONTE CARLO」商標中のフランス語前置詞「de」および「MONTE」と「CARLO」との間の「‐(ハイフン)」が省略されている。 しかし、この相違は前置詞またはハイフンの省略という軽微な外観上の差異にすぎず、 両者の外観、称呼および観念に実質的な影響を及ぼすものではない。 実際に、上記各ドメイン名と申立人の「CASINO DE MONTE CARLO」商標とを対比すれば、 上記各ドメイン名中に同商標が容易に認識される。
また、②casinomontecarlojapan.jp および③casinosmontecarlojapan.jp には、 「日本」を意味する英単語である「japan」が付加されているが、 地名を表す表示は、ドメイン名を構成する要素として一般に識別力が弱いと解されている(裁定例JP2025 0015参照)。 本件においても、「japan」部分に独立した識別力があるとは認められず、 ②casinomontecarlojapan.jp および③casinosmontecarlojapan.jp の要部は、 それぞれ「casinomontecarlo」および「casinosmontecarlo」であるというべきである。
そして、これらの要部と申立人の「CASINO DE MONTE CARLO」商標とを比較すれば、両者の類似性が認められる。 とりわけ、同商標が有する世界的な著名性に照らせば、「japan」の表示は、 当該ドメイン名が日本において申立人が運営するカジノ・リゾートを示すものであるとの印象を需要者に与え、 これらのドメイン名が申立人の日本におけるカジノ・リゾート事業と関連するものであるとの混同を生じさせるおそれを一層高める。
(イ)「MONTE‑CARLO RESORT」商標との類似性
本件各ドメイン名のうち、④montecarloresortjapan.jp、 ⑤montecarloresortaichi.jpおよび⑥montecarloresortnagoya.jp は、 いずれもその構成中に申立人の「MONTE CARLO RESORT」商標を包含しており、 申立人の「MONTE CARLO RESORT」商標と混同を生じさせるほど類似している。 上記各ドメイン名においては、 「MONTE」と「CARLO」との間の「‐(ハイフン)」が省略されているものの、 かかる相違はハイフンの省略という軽微な差異にすぎず、両者の外観、 称呼および観念の類似性に実質的な影響を及ぼすものではない。
また、 上記各ドメイン名に付加された「japan」「 aichi」「 nagoya」は、 それぞれ「日本」「愛知」「名古屋」という地名を表す表示にすぎず、 前述のとおり、かかる地名表示は一般に識別力が弱い。 したがって、これらのドメイン名の要部は「montecarloresort」部分にあるというべきである。
そして、当該要部と申立人の「MONTE CARLO RESORT」商標とを比較すれば、その類似性は認められる。 とりわけ、申立人の「MONTE CARLO RESORT」商標が有する著名性に照らせば、 「 japan」「 aichi」「 nagoya」の表示は、当該ドメイン名が日本、 愛知県または名古屋市において申立人が運営するカジノ・リゾートを示すものであるとの印象を需要者に与え、 申立人のカジノ・リゾート事業と関連するものであるとの混同を生じさせるおそれを一層高めるものである。
(ウ)小括
以上のとおり、本件各ドメイン名はいずれも、 申立人が権利を有する「CASINO DE MONTE‑CARLO」商標、 あるいは「MONTE‑CARLO RESORT」商標と混同を生じさせるほど類似しており、 処理方針第4条a.(i)の要件を充足する。
(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
本件各ドメイン名の登録者は、WHOIS情報上、 その登録者情報が非公開とされており、 登録者の実体は明らかではない。 そのため、当該登録者が「CASINO DE MONTE CARLO」または「MONTE CARLO RESORT」の語を含む商標権を保有しているか否かを直接確認することはできない。
もっとも、申立人代理人において、特許情報プラットフォームを用い、 「モンテカルロ」、「カジノデモンテカルロ」および「モンテカルロリゾート」を含む登録商標について調査を行ったところ、日本において、 申立人以外に「CASINO DE MONTE CARLO」または「MONTE CARLO RESORT」の語を含む商標権を保有する者は確認されなかった(甲19~甲21)。
また、申立人は、本件各ドメイン名の登録および使用について、 いかなる者に対しても許諾、 同意またはその他一切の権限付与を行った事実はない。
さらに、本件各ドメイン名は、申立人が有する「CASINO DE MONTE CARLO」商標および「MONTE CARLO RESORT」商標と混同を生じさせるほど類似する構成を有していることから、 その性質上、登録者が善意によりこれらのドメイン名を使用し、 または使用する正当な準備をしているとは考え難い。
加えて、下記(3)において詳述するとおり、 本件各ドメイン名は不正の目的をもって登録および使用されているものと認められることからしても、 登録者が本件各ドメイン名について権利または正当な利益を有していないことは明白である。
したがって、本件は、処理方針第4条a.(ii)の要件を充足する。
(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
ア 本件各ドメイン名は不正の目的で登録されたこと
前述のとおり、申立人が有する「CASINO DE MONTE‑CARLO」商標および「MONTE‑CARLO RESORT」商標は、 世界的に極めて高い著名性を有するのみならず、 日本においても各種媒体を通じて継続的に紹介されており、 日本の需要者の間において相当に高い認知度を有している。
実際、既に多数のWIPOのドメイン名裁定例において指摘されているとおり、 「CASINO DE MONTE‑CARLO」および「MONTE‑CARLO RESORT」は、 一般的または記述的な語ではなく、 特にカジノ分野およびホテル・リゾート分野において世界的に著名な商標である。
このような状況に照らせば、 日本語圏または日本市場を意識して本件各ドメイン名を登録したと考えられる登録者が、 申立人の商標および施設の存在を認識していなかったとはおよそ考え難い。 さらに、登録者が本件各ドメイン名を登録および使用するにあたり、 当該行為が申立人の商標権その他の正当な権利を侵害するおそれがあることを認識しないまま登録したとも、到底考えられない。
にもかかわらず、登録者は、 申立人の「CASINO DE MONTE‑CARLO」商標または「MONTE‑CARLO RESORT」商標と混同を生じさせるほど類似した「casino(s)montecarlo」および「montecarloresort」の文字列を用いている。 これらの構成は、カジノ分野およびホテル・リゾート分野において世界的に著名な申立人の商標と、 日本国内の特定の地理的名称とを結び付け、 当該ドメイン名が日本または日本国内の特定の地域において申立人が事業を展開しているかのような誤認混同を需要者に生じさせるものである。
登録者は、 さらにこれらの表示に「日本」または日本の地名である「愛知」「名古屋」を意味する英単語(「japan」「 aichi」「 nagoya」)を付加した複数のドメイン名を、 意図的に登録している。 これらの本件各ドメイン名の構成は、 カジノ分野およびホテル・リゾート分野において世界的に著名な申立人の商標と、 日本または日本国内の特定の地理的名称とを結び付け、 当該ドメイン名が日本または日本国内の特定地域において申立人が事業を展開しているかのような誤認混同を需要者に生じさせるものである。
なお、これらの登録行為がなされた時期において、 愛知県がカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致について検討を再開すると発表したという事情も存在しており(甲 22)、 当該事情は、申立人の商標と日本国内の地理的名称とを結び付けた複数のドメイン名が集中的に登録された背景事情として考慮されるべきものである。
いずれにせよ、本件各ドメイン名の構成および登録態様自体から、 偶然の一致や正当な目的による登録とは到底言い難く、 登録者が申立人のカジノ・リゾートおよびその名声を意識した上で、 需要者の誤認混同を招くことを企図していたことを強く推認させるものである。 なお、申立人は、本件各ドメイン名の登録および使用について、 登録者を含むいかなる第三者に対しても、承認、 許諾または同意を与えた事実は一切ない。
さらに、申立人は、自己の著名商標を保護するため、 長年にわたり一貫して厳格な権利行使を行ってきた。 実際、申立人が提起した多数のUDRP申立において、 WIPOの紛争処理パネルは、申立人の主張を認め、 多数のドメイン名について申立人への移転を命じている(甲23)。 申立人は、25年以上にわたり継続的にサイバースクワッティング対策を実施し、 その結果、1,400件を超えるドメイン名を回復し、 約97%という極めて高い成功率を達成している。
以上の事情を総合すれば、登録者は、 申立人の商標が有する極めて高い著名性および識別力、 並びに申立人が知的財産権の保護について厳格な方針を採っていることを合理的に認識し得たにもかかわらず、 あえて本件各ドメイン名を登録したものと推認される。 このような登録行為は、当初から不正の目的をもって行われたものであり、 本件各ドメイン名が処理方針第4条a.(iii)に定める「不正の目的」により登録および使用されていることを強く基礎づけるものである。
イ 本件ドメイン名は不正の目的で使用されていること
処理方針第4条b.(iv)によれば、「登録者が、商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、 取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているとき」には、 当該ドメイン名は不正の目的で登録または使用されているものと評価される。
本件において、 登録者が本件各ドメイン名を用いてオンラインギャンブル関連サイトその他の関連サービスを提供することが予定されていたとすれば、 申立人の著名商標の信用・顧客吸引力に不当に便乗し、 需要者の誤認混同を招くものであり、 処理方針第4条b.(iv)所定の不正の目的による使用に該当することは明らかである。
もっとも、現時点において本件各ドメイン名は実際には使用されておらず、 いわゆる「受動的保有(passive holding)」の状態にある。 しかしながら、ドメイン名が現に使用されていないことのみをもって不正の目的が否定されるものではなく、 他の諸事情を総合考慮して、 当該ドメイン名が不正の目的で登録または使用されているか否かが判断される(JP‑DRP 解説〔2026年3月改訂版〕22頁参照)。 また、UDRPの実務においても、①申立人商標の識別性または評判の程度、 ②被申立人が実際または予定されている正当な使用の証拠を提示していないこと、 ③被申立人が身元秘匿等の措置を講じていること、 ④虚偽または不正確な連絡先情報の使用等の事情を考慮して、 不正の目的が認定されている(WIPO Overview 3.1 第 3.3 項 )。
本件では、 申立人の「CASINO DE MONTE‑CARLO」商標および「MONTE‑CARLO RESORT」商標が、 強い識別性および極めて高い評判を有する世界的著名商標であることは前述のとおりである。 そして、本件各ドメイン名は、 これらの商標と強い混同のおそれを生じさせるほどに類似する構成を有しており、 その選択が偶然または単なる一致によるものであるとはおよそ考え難い。
さらに、本件各ドメイン名には「casino」および「resort」といった、 まさに申立人のカジノ・リゾート事業を直接想起させる語が含まれていることに加え、 「日本」または日本の地名である「愛知」「名古屋」を意味する英単語(「japan」「 aichi」「 nagoya」)が付加されている。 これらの構成は、本件各ドメイン名が、日本、 愛知県または名古屋市において申立人が運営するカジノ・リゾートないし関連事業を示すものであるとの誤認混同を需要者に生じさせ、 これにより商業上の利得を得ることを意図したものであると強く推認される。
加えて、申立人は本件各ドメイン名の登録および使用についていかなる承認、 許諾または同意も与えておらず、また、 登録者は自己の登録者情報を非表示とした上、 外国のドメイン登録業者を連絡窓口としている。 これらの事情も、不正の目的を基礎づける事情として考慮されるべきである。
以上の事情を総合すれば、本件各ドメイン名は、 仮に将来使用された場合には申立人の商標権等を侵害することなく正当に使用される余地がなく、 現に受動的保有の状態にあるとしても、 不正の目的で使用されているものと評価するのが相当である。
ウ 小括
以上のとおり、本件各ドメイン名については、 登録の段階および使用の段階のいずれにおいても不正の目的が存在することは明らかである。 すなわち、登録者は、申立人との間に何ら関係がないにもかかわらず、 需要者に申立人またはその事業と何らかの関係を有するかのような誤認混同を生じさせることにより、 申立人の名声および高い評価に不当に便乗しようとしたものといえる。
したがって、 本件各ドメイン名は不正の目的で登録および使用されているものと評価され、 処理方針第4条a.(iii)の要件を充足する。
従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者は答弁書を提出せず、主張・立証を行わなかった。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、 本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、 裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)申立人が権利または正当な利益を有する表示と同一又は混同を引き起こすほどの類似性
申立人の主張・立証によれば、申立人は、モナコ公国において、 1863年以降、「カジノ・ド・モンテカルロ」を運営しており、同施設と、 申立人が運営する宿泊施設、飲食施設、スポーツ施設、文化・娯楽施設は、 一体として「モンテカルロ・リゾート」を構成していることが認められる。 また、申立人は、「CASINO DE MONTE‑CARLO」商標及び「MONTE‑CARLO RESORT」商標を日本において登録していることが認められる。
よって、申立人は、 「CASINO DE MONTE‑CARLO」との表示及び「MONTE‑CARLO RESORT」との表示につき、権利及び正当な利益を有することが認められる。
申立人が権利及び正当な利益を有する表示である「CASINO DE MONTE‑CARLO」と、本件各ドメイン名のうち、①casinosmontecarlo.jp、 ②casinomontecarlojapan.jp および③casinosmontecarlojapan.jp とを比較すると、 ①②③には、前者に存在するフランス語前置詞「de」と「MONTE」と「CARLO」との間の「‐(ハイフン)」が存在しない、 ③には、「casino」との文字列の後に、 前者には存在しない「s」が付加されている、 ②及び③には、前者には存在しない「japan」が付加されているとの相違が認められる。 確かに、①②③は文字間に区切りがないため、一見、 「casino」及び「Monte Carlo」の単語を見いだすことは難しいようにも思われるが、 注意深く観察すればこれらの単語を見いだすことができ、これらと、 「CASINO DE MONTE‑CARLO」との表示を比較すれば、 少なくとも文字列として類似することが認められる。 また、②及び③には、 前者には存在しない「japan」との文字列が付加されているものの、 地名については一般に識別力が弱いばかりでなく、却って、 これらのドメイン名が申立人の日本におけるカジノ・リゾート事業と関連するものであるとの混同を生じさせるおそれを高めているとすらいえる。
また、 申立人が権利及び正当な利益を有する表示である「MONTE‑CARLO RESORT」と、 本件各ドメイン名のうち、④montecarloresortjapan.jp、 ⑤montecarloresortaichi.jp および⑥montecarloresortnagoya.jp とを比較すると、 ④⑤⑥には、前者に存在する「MONTE」と「CARLO」との間の「‐(ハイフン)」が存在しない、 ④⑤⑥には、前者には存在しない「japan」「aichi」「nagoya」との文字列が付加されているとの相違が認められる。 確かに、④⑤⑥は文字間に区切りがないため、一見、 「Monte Carlo」及び「resort」の単語を見いだすことは難しいようにも思われるが、 注意深く観察すればこれらの単語を見いだすことができ、これらと、 「MONTE‑CARLO RESORT」との表示を比較すれば、実質的に同一か、 少なくとも文字列として類似することが認められる。 また、④⑤⑥には、前者には存在しない「japan」「aichi」「nagoya」との文字列が付加されているものの、地名については一般に識別力が弱いばかりでなく、 却って、これらのドメイン名が申立人の日本におけるカジノ・リゾート事業と関連するものであるとの混同を生じさせるおそれを高めているとすらいえる。
よって、処理方針第4条a.(i)の要件の充足が認められる。
(2)登録者の権利または正当な利益
申立人の主張・立証によれば、日本において、 申立人以外に「CASINO DE MONTE CARLO」または「MONTE CARLO RESORT」の語を含む商標権を保有する者は確認されず、 また、申立人は、本件各ドメイン名の登録および使用について、 いかなる者に対しても許諾、 同意またはその他一切の権限付与を行った事実がないことが認められる。
他方、登録者は答弁書を提出せず、 登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有することの主張立証を行わなかった。
さらに、本パネルに顕出されたすべての証拠を検討しても、 処理方針第4条cに挙げられた事情があるとは認められない。
以上によれば、登録者が、 本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しているとは認められない。
よって、処理方針第4条a.(ii)の要件の充足が認められる。
(3)登録者による不正の目的での登録または使用
申立人の主張・立証によれば、 申立人が権利または正当な利益を有する「CASINO DE MONTE‑CARLO」および「MONTE‑CARLO RESORT」との表示は、 特にカジノ分野およびホテル・リゾート分野において、 日本を含む世界の需要者の間において高い認知度を有していると認められる。 このような状況に照らせば、登録者が、本件各ドメイン名を登録した際に、 申立人の商標および施設の存在を認識していたことが優に推認される。
特に、これらの登録行為がなされた時期において、 愛知県がカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致について検討を再開すると発表した事実が認められる。 この事実は、登録者が、 申立人の商標と日本国内の地理的名称とを結び付けた複数のドメイン名を集中的に登録した動機と推認される。
申立人は、本件各ドメイン名の登録について、 登録者を含むいかなる第三者に対しても、承認、 許諾または同意を与えた事実は一切ない。
他方、登録者は答弁書を提出せず、本件各ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていないことの主張立証を行わなかった。
以上によれば、登録者が本件各ドメイン名を登録した際に、 不正の目的がなかったとは認められない。
なお、本件申立時点において、 本件各ドメイン名は実際には使用されておらず、 いわゆる「受動的保有(passive holding)」の状態にあることから、 登録者の当該ドメイン名が不正の目的で使用されていることを積極的に認定することはできない。 しかし、このことは、 処理方針第4条a.(iii)の要件の充足を認める妨げとはならない。
よって、処理方針第4条a.(iii)の要件の充足が認められる。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録された本件各ドメイン名が、 申立人が権利及び正当な利益を有する表示と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、本件各ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者が本件各ドメイン名を不正の目的で登録したものと判断する。
よって、処理方針第4条iに従って、 本件各ドメイン名の登録をそれぞれ申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。
2026年9月30日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 山 内 貴 博
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2026年5月1日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2026年5月11日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2026年5月12日にJPRSに登録情報を照会し、 同日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、補正(申立書の記載事項の修正等)が必要と判断して、 2026年5月18日にその旨を申立人に通知し、 2025年5月25日に補正書類を受領し、 2026年5月25日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2026年5月29日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、同日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2026年5月29日)、 答弁書提出期限(2026年6月26日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 ただし、登録者宛に送信した電子メールは、一部が送信不能となり、 登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあたりありません」として返送された。
(6)答弁書の提出
登録者代理人は、2026年6月25日に、 答弁書提出期間の延長を求める上申書を提出し、 これを受けてセンターは、2026年6月26日に、 手続規則第5条(d)の規定により、 答弁書の提出期限を2026年7月2日まで延長する旨を登録者代理人に通知した。
さらに、登録者代理人は2026年6月30日に、 申立人代理人は同年7月1日に、 それぞれ答弁書提出期限の延長を求める上申書を提出し、 これを受けてセンターは、手続規則第 5 条(d)の規定により、 答弁書の提出期限を2026年9月2日まで再度延長する旨を申立代理人及び登録者代理人に通知した。
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2026年9月3日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2026年9月9日に弁護士山内貴博を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2026年9月9日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2026年10月2日)を通知した。 パネルは、2026年9月9日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2026年9月30日に審理を終了し、裁定を行った。