事件番号:JP2026-0006
裁定
- 申立人:
-
(名称)株式会社旭プロダクション
(住所)東京都練馬区●(省略)● - 代理人:
- 弁護士 高橋 宏行、弁護士 中山 創
- 登録者:
-
(氏名)KAMEKO Teranaka
(住所)東京都新宿区●(省略)●第3梅村ビル903(有限会社Takaエンタプライズ内)
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル(以下、「本紛争処理パネル」という。)は、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「HAKONE-CHAN.JP」の登録を取り消せ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。)は「HAKONE-CHAN.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人は、アニメーションの企画・制作等について事業を行う会社であり、「温泉幼精ハコネちゃん」と題するテレビアニメーションの制作に関わり、同アニメーションの利用・管理を行う立場にある。
本件ドメイン名は、2019年9月1日に登録された。
5 当事者の主張
a 申立人
申立人の主張は以下のように整理できる。
申立人は、「温泉幼精ハコネちゃん」(通称ハコネちゃん)と題するテレビアニメーションシリーズ(以下、「本アニメ」という。)及びその主人公の名称「ハコネちゃん」の表示について、正当な利益を有しており、登録者が取得したドメイン名「HAKONE-CHAN.JP」(本件ドメイン名)は、申立人が正当な利益を有する上記表示と混同を引き起こすほど類似している。
登録者は本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
したがって、申立人は、本件ドメイン名登録の取消を請求する。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
6 争点及び事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
手続規則第5条(f)は、「もし登録者が答弁書を提出しないときには、 例外的な事情がない限り、 パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」と規定する。したがって、下記処理方針第4条a.の(i)ないし(iii)の各号に関する申立人の主張・立証が明らかに不十分であると判断される例外的な事情がない限り、 申立人の主張に従い、本件ドメイン名登録抹消の裁定を下すことが相当である。
処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一または混同を引き起こすほどの類似性
登録者のドメイン名は「HAKONE-CHAN.JP」(本件ドメイン名)である(甲1)。
申立人は、2015年5月12日、原作者由伊大輔に係る漫画「温泉幼精ハコネちゃん」の著作物を管理するアプリックスIPホールディングス株式会社との間で、原作使用契約書を締結し、原作漫画について、題名を「温泉幼精ハコネちゃん」とするテレビ用アニメーション番組(本アニメ)を製作することの許諾を得た(甲2、甲3)。
申立人は、2015年9月30日、株式会社プロダクションリード、TCエンタテインメント株式会社、株式会社ZERO-A、株式会社テレビ埼玉、株式会社アニマックスブロードキャスト・ジャパン、株式会社クロックワークス、株式会社神南スタジオ、サイバーステップ株式会社との間で、本作品の製作、放送及びその他二次利用に関わる事業を共同で行うために、ハコネちゃん製作委員会を組成することに関する共同出資契約書(以下、「本共同出資契約」という。)を締結した(甲4)。本共同出資契約によれば、申立人は本アニメの著作権を上記各社とともに共有し(甲4・第10条第1項)、出資比率に応じ30%の共有持分を保有している(甲4・第2条第1項、第3条第1項)。また、申立人は、本アニメの製作委員会(ハコネちゃん製作委員会)の代表幹事会社として、他の出資者を代表して本委員会の通常の業務執行を行う立場にあり(甲4・第2条第2項)、原作者との原作使用許諾契約の締結、国内商品化権・海外販売権・国内上映権の各窓口業務、本アニメの制作の責任等、本アニメに関する権利管理・ライセンス業務を統括し、かつ、本アニメの関わる事業に必要ないし有益と認められる事項を行うことが想定されている(甲4・第5条第1項各号、同第2項各号)。
申立書及び甲5、甲8及び甲9によれば、本アニメは2015年10月からアニマックス等のチャンネルで放送された後、商品化も行われ、国内に限らず、中国国内でも配信された。また、申立書によれば、本アニメは全13話で既に完結しているが、現在も、dアニメストア(ドコモ)、U-NEXT、DMM TV等で配信されている。
以上からすると、申立人は、本アニメに関する事業の一出資者であることに加えて、本アニメ及びその主人公の名称である「ハコネちゃん」に関する表示の管理・利用について中核的な立場にあるものと推認される。
したがって、申立人は、本アニメ及びその主人公の名称である「ハコネちゃん」の表示について正当な利益を有しているということができる。
また、本件ドメイン名中、出所表示として機能を果たす要部である第2レベルドメインは、本アニメの主人公「ハコネちゃん」の名称をアルファベット表記したもの(HAKONE-CHAN)であり、申立人が正当な利益を有する表示「ハコネちゃん」と称呼及び観念を同じくする。
したがって、本件ドメイン名は、申立人が正当な利益を有する表示と混同を引き起こすほど類似しているということができる。
(2)権利または正当な利益
申立書によれば、登録者である「KAMEKO Teranaka」という人物は、本アニメまたは原作に関し、何ら関与していない第三者であって、「+8131-653-1027」という電話番号は現在使用されておらず、かつ、「130-1190、Shintogawara, Nishi-ku Kumamoto-shi,Kumamoto」という住所も存在しない。
また、(3)において後述するとおり、本件ドメイン名は申立人の表示に便乗してオンラインカジノへの誘導に利用されているものである。
したがって、登録者について、本件ドメイン名またはこれに対応する名称を商品・サービスの提供のために正当な目的で使用し、または使用の準備をしていた事実、本件ドメイン名で一般に認識されていた事実、本件ドメイン名を非商業的目的または公正な目的で使用している事実のいずれもうかがわれない。
(3)不正の目的での登録または使用
申立書によれば、本件ドメイン名を用いたウェブサイト(以下、「本ウェブサイト」という。)のホーム画面(甲6の2)右側に表示されている「最新の投稿」の欄には複数の記事が表示されているところ、例えば、「温泉旅行の夜に楽しむスマホ対応オンラインカジノおすすめランキング完全ガイド」のタイトルをクリックすると、2026年1月15日に投稿された、温泉旅行の夜にオンラインカジノをすることを勧める記事のウェブページに移動する(甲10)。そして、当該記事の「日本人プレイヤーに人気のオンラインカジノランキング」のハイパーリンクをクリックすると、本件ドメイン名とは別の外部サイトに設けられた「【最新版】2026年オンラインカジノのおすすめランキング|安全に遊べるサイトのみを紹介!」という記事に移動する(甲11)。また、申立書によれば、ホーム画面(甲6の2)右上タブに表示されている「ブログ」をクリックすると、上記の「最新の投稿」を含む多くのブログ記事が表示され(甲12)、ブログ記事の内容には、いずれもオンラインカジノの説明ないしは個別のオンラインカジノのウェブサイトに移動するリンクが張られているとのことである。
本紛争処理パネルにおいて確認したところ、本裁定日において、本ウェブサイトの内容は甲6の2とは異なる内容が表示されているものの、本ウェブサイトから、オンラインカジノを推奨するウェブサイト(https://www.hakone-chan.jp/animemobile-online-casino-guide/、https://www.hakone-chan.jp/anime-event-night-nodeposit-bonus/、https://www.hakone-chan.jp/anime-and-online-casino-otaku-guide/)に移動するリンクが張られており、また、それらのウェブサイトその中には甲11と類似する内容のオンラインカジノを推奨する記事(https://luckraise.io/online-casino/)にリンクが張られているウェブサイトも存在した。
したがって、本ウェブサイトは、利用者を外部のオンラインカジノを推奨するサイトに誘導する導線として利用されているものと認められる。
日本国内からアクセスしてオンラインカジノを行うことは賭博罪(刑法第185条)または常習賭博罪(刑法第186条第1項)に該当する犯罪であるとともに(甲13)、オンラインカジノサイトを紹介するまとめサイトを作ることも犯罪に該当しうる(ギャンブル等依存症対策基本法第9条の2第1項第2号)。
したがって、本ウェブサイトは、賭博という犯罪行為に誘導するサイトとして悪用されているものと認められる。
また、上記(2)のとおり、申立書によれば、登録者「KAMEKO Teranaka」なる者は、本アニメ及び原作と何ら関わりを持たない第三者であり、かつ住所・電話番号・メールアドレス等の登録情報はいずれも虚偽または実在しないものである。登録者は、自らの素性を秘匿した上で、本アニメの主人公の名称に混同を引き起こすほど類似する本件ドメイン名を取得・保有しているものであって、その登録自体が不正の目的によるものであることが推認される。
以上からすれば、登録者の当該ドメイン名は、不正の目的で登録または使用されていると認められる。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「HAKONE-CHAN.JP」が、申立人が正当な利益を有する表示と混同を引き起こすほど類似し、登録者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「HAKONE-CHAN.JP」の登録を取り消すものとし、主文のとおり裁定する。
2026年7月3日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 服部 誠
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2026年5月1日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2026年5月8日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2026年5月8日にJPRSに登録情報を照会し、2026年5月8日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、2026年5月8日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
センターは、2026年5月11日に申立書の記載事項の修正等が必要と判断してその旨を申立人に通知し、2026年5月11日に補正書類を受領し、2026年5月11日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2026年5月14日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2026年5月14日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2026年5月14日)、答弁書提出期限(2026年6月11日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
但し登録者宛電子メール送信分については一部が送信不能であり、登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあたりありません」として返送された。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2026年6月12日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2026年6月15日に服部 誠を単独パネリストとして指名し、一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。
センターは、2026年6月15日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定予定日(2026年7月3日)を通知した。パネルは、2026年6月15日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)裁定期限の延長
パネルは、2026年6月30日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、裁定期限を2026年7月10日まで延長する旨を通知した。
(9)パネルによる審理・裁定
パネルは、2026年7月3日に審理を終了し、裁定を行った。