事件番号:JP2026-0009
裁定
- 申立人:
-
(名称)VIATRIS SPECIALTY LLC
(住所)[Contact details omitted] Morgantown, West Virginia 26505, United States of America - 代理人:
-
弁理士 木原 美武
同 中島 由賀
同 藤川 順
同 瀬川 左英 - 登録者:
- (名称)WIXI Incorporated
- 公開連絡窓口の名称及び住所:
-
(名称)WIXI Proxy Service Dept
(住所)東京都千代田区●(省略)●
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「VIAGRA.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「VIAGRA.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人は、 アメリカ合衆国ペンシルベニア州キャノンズバーグに本社を置く、 アメリカのグローバル製薬・ヘルスケア企業「Viatris Inc.」のグループ会社である。 「VIAGRA」又は「バイアグラ」の名称は、 有効成分としてシルデナフィルクエン酸塩を含有する勃起不全(ED)治療剤の名称として使用されており、 日本では1999年に厚生労働省において承認されている(甲1)。 承認当時、 「VIAGRA」又は「バイアグラ」の名称はファイザー株式会社により使用されていたが、 2020年11月に同社の一部事業が分社化され、 オランダの大手医薬品企業との事業統合により「Viatris Inc.」が誕生したことで、 日本では申立人が同名称を使用することとなった。
申立人は、日本において、 「 VIAGRA」又は「バイアグラ」の文字を含む以下の登録商標(以下、 「VIAGRA商標」と総称することがある。)を保有している。
- 「VIAGRA」(登録4105713号)(甲2)
- 「VIAGRA」(登録4105713/01号)(甲3)
- 「VIAGRA」(登録4105713/02号)(甲4)
- 「バイアグラ」(登録4127593号)(甲5)
- 「バイアグラ」(登録4127593/01号)(甲6)
- 「バイアグラ」(登録4127593/02号)(甲7)
- 「VIAGRA\バイアグラ」(登録4337156号)(甲8)
- 「バイアグラ\Good Partnership+図形」(登録4600032号)(甲9)
- 「VIAGRA\バイアグラ」(登録4613796号)(甲10)
- 「VIAGRA CONNECT」(登録6113460号)(甲11)
- 「VIAGRA+図形」(登録6650189号)(甲12)
- 「VIAGRA+図形」(登録6684128号)(甲13)
- 「VIAGRA」(登録6834285号)(甲14)
これらのうち、 甲第3号証及び甲第4号証の登録商標は甲第2号証の登録商標(「VIAGRA」の文字商標)の、 甲第6号証及び甲第7号証の登録商標は甲第5号証の登録商標(「バイアグラ」の文字商標)の防護標章である。
本件ドメイン名は、2007年8月1日に登録された。
5 当事者の主張
a 申立人
申立人の主張は以下のように整理できる。
(1)申立人は、
日本においてVIAGRA商標を保有しているところ(甲2乃至14)、
これらの登録商標には防護標章も含まれており、また、
「VIAGRA」の文字からなる登録商標(甲2)及び「バイアグラ」の文字からなる登録商標(甲5)はJ-PlatPatにおいて日本の周知・著名商標として掲載されていることから(甲15及び16)、
VIAGRA商標は医薬品に係る需要者の間で周知・著名性を獲得している。
本件ドメイン名のうち、トップレベルドメインである「.JP」は、
日本国を示すコードであり出所識別機能を有しないため、
本件ドメイン名のうち出所識別機能を有する要部は「VIAGRA」の部分である。
外観、称呼、観念を総合して考慮すれば、本件ドメイン名は、
申立人が権利を有する商標と同一または混同を引き起こすほど類似していることは明らかである。
(2)本件ドメイン名は、
登録者により2007年8月1日付でJPRSに登録されている(甲17)。
登録者の法人名のうち、
法人組織を意味する「Incorporated」を除く「WIXI」部分と本件ドメイン名とは一致していない。
また、
本件ドメイン名と一致する日本の登録商標を保有しているのは申立人のみであり(甲18)、
登録者はこれを保有していない(甲19及び20)。
さらに、本件ドメイン名の登録日は、
「VIAGRA」の文字からなる登録商標(甲2)及び「バイアグラ」の文字からなる登録商標(甲5)の各登録日よりも後であるばかりでなく、
「VIAGRA」又は「バイアグラ」の文字についての周知・著名性が認められ、
関係する防護標章登録がなされた後である(甲3、4、6及び7)。
「 VIAGRA」又は「バイアグラ」の文字は辞書には掲載されてない造語であるところ、
登録者が申立人の周知・著名商標と同一の造語を独自に案出したとは考え難い。
加えて、登録者は、申立人の日本における正規販売代理店ではなく、
また、申立人からVIAGRA商標の使用及びドメイン名登録について何らの権原を与えられたものではない。
上記事実に鑑みれば、本件ドメイン名に係る登録者は、
権利及び正当な利益を明らかに欠くものといえる。
(3) 登録者のウェブサイト(https://wixi.jp/)を確認したところ、
同社は期限切れドメイン名のバックオーダーやドメインオークション、
ICANN公式認定コンサルティングを主な事業としている(甲21)。
本件ドメイン名が登録されたのは日本において勃起不全(ED)治療剤「バイアグラ」が承認され、
「VIAGRA」及び「バイアグラ」の登録商標が周知・著名商標と特許庁に判断されて以降であるところ、
ドメイン名の売買に係る事業を行っている登録者が、
自社の社名とは異なる、
事業とは何らの関わりもない周知・著名な商標と同一又は類似するドメイン名を登録していること自体、
申立人又は申立人の競業者に対して、
当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、
当該ドメイン名を販売、貸与又は移転することを主たる目的として、
当該ドメイン名を登録しており、不正の目的で登録されたと判断されるべきである。
(4)以上から、本件ドメイン名は、
申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、
登録者は本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、
本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
したがって、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、 本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一または混同を引き起こすほどの類似性
申立人は、上記4において認定したとおり、 日本において「VIAGRA」の文字からなる登録商標を保有しており(甲2)、 当該登録商標を含むVIAGRA商標について権利を有していると認められる。
本件ドメイン名「VIAGRA.JP」のうち、 「.JP」の部分は国別コードで日本を示すトップレベルドメインであり、 汎用JPドメイン名の登録に常に必要となるものであるから、 「同一または混同を引き起こすほどの類似性」の要件を判断するに当たって考慮しないのが通常である(WIPO Overview 3.1 第1.11.1項参照)。 本件ドメイン名から「.JP」を除いた部分は、 申立人の「VIAGRA」の文字からなる登録商標の「VIAGRA」の文字と同一である。
以上から、本件ドメイン名は、 申立人が権利を有する「VIAGRA」の文字からなる登録商標と混同を引き起こすほど類似していると認められる。
(2)権利または正当な利益
本件ドメイン名が登録されたのは2007年8月1日であり(甲17)、 申立人の「VIAGRA」の文字からなる登録商標及び「バイアグラ」の文字からなる登録商標の登録や、 関係する防護標章登録がなされた後であることが認められる(甲2乃至7)。
「VIAGRA」又は「バイアグラ」の文字からなり又は当該文字を含む日本の登録商標を保有しているのは申立人のみであり(甲18)、 登録者はこれを保有していないことが認められる(甲19及び20)。
登録者は、 期限切れドメイン名のバックオーダー(取得代行)やドメインオークション、 ICANN公式認定コンサルティングを主な事業としていることが認められる(甲21)。 登録者の当該事業が申立人の事業や商品とは全く関わりがないことから、 申立人が主張するとおり、 登録者は申立人の日本における正規販売代理店ではなく、 申立人からVIAGRA商標の使用及び本件ドメイン名登録について権原を与えられたこともなかったと考えられる。 登録者は本件ドメイン名で一般的に知られたこともないと認められる。
紛争処理パネルによる単純なインターネット検索によれば、 本件ドメイン名を使用したウェブサイトでは、 上部に「借入急ぎ」との文字が記載されたバナーが表示され、 その下に本件ドメイン名が表示され、さらにその下部には、 「PRESCRIPTION MEDICIENS」、「PRESCRIBED ONLINE MEDICATION SERVICES」、「TESTSTERONE SUPPLEMENTS FOR MEN」、「MEN'S ACCESSORIES」、「PRESCRIPTION DRUG PLANS」又は「BEST VITAMINES FOR MEN OVER 60」といった表示があり(表示は5つあり、 アクセスする端末によって表示内容が一部変わるようである。)、 それぞれ他のウェブサイトに遷移することが認められる。 このことから、本件ドメイン名が、 PPC(Pay Per Click)広告のリンクを掲載したパーキングサイトとして使用されていることが認められる。
当該PPC広告は、借入れを希望する者への広告や、 申立人の前記治療剤の対象者とも重なる主に男性向けの処方薬、 テストステロンサプルメント、 ビタミン剤といった商品やオンライン服薬指導といったサービスの広告を含んでいる。
このことから、登録者は、 申立人の「VIAGRA」の文字からなる登録商標をそのまま使用した本件ドメイン名を用いてPPC広告のリンクを掲載したパーキングサイトを運用することにより、 商業的利益を得ていることが推認され、 登録者が本件ドメイン名を非商業的目的に使用し、 又は公正に使用しているとは認め難い(WIPO Overview 3.1 第 2.9 項参照)。
登録者は、答弁書を提出しておらず、 本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していることについて何ら主張を行っておらず、 申立人の主張に対する反証を行わなかった。
以上から、 登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと認められる。
(3)不正の目的での登録または使用
申立人の「VIAGRA」の文字からなる登録商標(甲2)及び「バイアグラ」の文字からなる登録商標(甲5)は、 申立人の前記治療剤を示すものとして、 医薬品に係る需要者の間で周知であることが認められる(甲3、4、6、7、15及び16)。
本件ドメイン名の登録は、前記認定のとおり、 申立人の「VIAGRA」の文字からなる登録商標及び「バイアグラ」の文字からなる登録商標や、 関係する防護標章の登録よりも後であり、 本件ドメイン名が登録された時点ではこれらの登録商標は日本において周知であったことが認められる。
したがって、 本件ドメイン名は既に周知であった申立人の前記登録商標を認識した上で登録者又は第三者が登録したことが推認され、 少なくとも登録者が本件ドメイン名を用いて前記パーキングサイトを開設(ホスト)した時点ではそのことを認識していたと推認される。
申立人は、登録者が、自社の社名と異なり、 事業とは何らの関わりもない周知・著名な商標と同一又は類似する本件ドメイン名を登録していること自体、 申立人又は申立人の競業者に対して、 当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、 当該ドメイン名を販売、 貸与又は移転することを主たる目的として当該ドメイン名を登録しており、 不正の目的で登録されたと判断されるべきであると主張する。
しかし、申立人の主張及び提出した証拠からは、登録者が、 申立人又は申立人の競業者に対して、 本件ドメイン名の(取得費用を超える)価格を明示して買取り又は購入を提案していた事実を認めることはできない。 紛争処理パネルによる単純なインターネット検索によっても、 そのような事実を確認することはできなかった。 したがって、登録者が、 申立人又は申立人の競業者から本件ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、 当該ドメイン名を販売、 貸与又は移転することを主たる目的として当該ドメイン名を登録している(処理方針第4条b(i)) と認めることはできない。
他方、登録者は、前記認定のとおり、 申立人の「VIAGRA」の文字からなる登録商標をそのまま使用した本件ドメイン名を用いてPPC広告のリンクを掲載したパーキングサイトを運用しており、 申立人の前記治療剤を検索する者を、 資金調達に関するサイトや申立人の当該治療剤の対象者と重なる主に男性向けの商品・サービスへ誘引することを通じて、 何らかの商業上の利益を得ていると考えられる。 したがって、登録者には、商業上の利得を得る目的で、 商品又はサービスの出所について誤認混同を生ぜしめる意図があったことが推認される。
また、登録者は、答弁書を提出せず、 不正の目的で登録又は使用していないことについて主張せず、 申立人の主張に対する反論を行わなかった。
よって、本件は、処理方針第4条b(iv)に規定する、「登録者が、 商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、 取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているとき」に該当すると認められる。
以上から、本件ドメイン名は、 登録者によって不正な目的で登録又は使用されていると認められる。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「VIAGRA.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「VIAGRA.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。
2026年8月21日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 小山 隆史
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下、「センター」という。)は、 2026年6月24日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2026年7月1日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、 2026年7月1日にJPRSに登録情報を照会し、 同日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、 2026年7月2日に補正(申立書の記載事項の追記等)が必要と判断してその旨を申立人に通知し、 2026年7月3日に補正書類を受領し、 2026年7月3日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2026年7月6日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 手続開始を通知した。 センターは、 2026年7月6日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2026年7月6日)、 答弁書提出期限(2026年8月4日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し、登録者の所在地及び公開連絡窓口の住所に送付した各通知は「あて所に尋ねあたりありません」として返送された。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2026年8月5日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、 2026年8月5日に小山 隆史を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2026年8月5日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2026年8月26日)を通知した。 パネルは、 2026年8月5日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2026年8月21日に審理を終了し、裁定を行った。