事件番号:JP2026-0014
裁定
- 申立人:
-
(名称)オレンジホールディング株式会社 代表取締役 高島 裕樹
(住所)大阪府吹田市●(省略)● - 登録者:
-
(氏名)徳永 定城
(住所)大阪府大阪市●(省略)● - 代理人:
- 弁護士法人堀総合法律事務所 弁護士 堀 智弘、弁護士 小野 昌史、(担当)同 弁護士 口元 一平、同 弁護士 是永 淳志
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
本件申立を棄却する。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「PRINTSTA.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人は、名刺等の印刷に関する事業を行う会社である。
申立人は、2021年4月6日に出願され、同年12月27日に登録された商標登録第6492299号および同第6492300号の商標権者である。
本件ドメイン名は、2010年7月13日に登録された。
5 当事者の主張
a 申立人
申立人の主張は、以下のように整理できる。
申立人は、「プリスタ」及び「printsta」の文字からなる登録商標(登録第6492299号及び同第6492300号)を保有しており、その指定役務は、第40類「名刺・はがき・チラシ・招待状・案内状・挨拶状・ポストカード・シール・身分証明書・会員証・カレンダーの印刷」である。
本件ドメイン名「printsta.jp」は、申立人の登録商標「printsta」と同一の文字を含むものである。
「プリスタ」及び「printsta」は、いずれも申立人が保有する登録商標であり、登録者はこれらの商標について権利を有していない。
登録者は、本件ドメイン名に、申立人の登録商標「printsta」を使用するとともに、本件ドメイン名に係るウェブサイトにおいても、申立人の登録商標「プリスタ」を使用し、同商標の指定役務と同一の役務に係る事業を行っている。
このような行為は、消費者に混同を引き起こし、不正に利益を得るものであって、申立人の商標権を侵害する不正行為である。
よって、本件ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者は本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
従って、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者によって、2026年10月5日付にて答弁書が提出された。
登録者の主張は、以下のように、整理できる。
登録者は、本件ドメイン名「PRINTSTA.JP」が、申立人の登録商標「printsta」(登録第6492300号)及び「プリスタ」(登録第6492299号)と文字列上類似すること自体は争わない。
本件ドメイン名は、登録者が代表取締役を務める株式会社ビットブレーン(以下「登録者会社」という。)の業務委託先である樫山賢一氏が、2007年に個人として取得したものである。同氏は、遅くとも2007年8月には、本件ドメイン名を用いて名刺印刷サービス「プリスタ。」のウェブサイトを運営していた。この事実は、Internet Archiveに保存された2007年8月23日時点の記録によって確認できる(乙1)。
その後、樫山氏は、2008年3月頃、本件ドメイン名及びこれを用いた名刺印刷事業を登録者会社に譲渡した。2010年11月の決済代行会社との電子メールのやり取りからも、遅くとも同時点で登録者会社が当該事業を運営していたことが裏付けられる(乙2)。また、本件ドメイン名の登録者名義は、2010年7月に樫山氏から登録者会社の代表取締役個人(登録者)へ変更されている。
登録者会社は、遅くとも2010年頃から本件ドメイン名を用いた名刺印刷事業を継続しており、2012年から2021年までの間、全国47都道府県から年間数万件規模の受注を得ていた(乙3)。また、2014年から2017年にかけて、検索エンジン対策、広告運用、合計70万5000部のチラシのポスティング等の販促活動を行っていた(乙4)。
さらに、「プリスタ」の名称は、遅くとも2014年頃から第三者のレビューサイトやSNS等で継続的に言及されており(乙5)、Google Trendsの検索データからも、全国の幅広い地域において継続的な検索関心が存在していたことが確認できる(乙6)。
以上の事情から、登録者は、紛争の通知を受ける以前から正当な事業目的で本件ドメイン名を使用しており、また、当該名称によって需要者の間で認識されていたものであるから、方針第4条cに基づき、本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有すると主張する。
本件ドメイン名を用いた事業は、申立人の商標登録出願日である2021年4月6日より13年以上前の2007年に開始されている。したがって、登録者が申立人の商標を認識し、その使用を妨害する目的で本件ドメイン名を取得したということは、時系列上あり得ない。
また、申立人が運営するウェブサイト「printsta.info」のドメイン名登録は2019年9月であり、Internet Archive上でその内容が確認できるのは2021年12月以降である(乙7)。同サイトの広告表現やサービスの訴求内容は、登録者会社が先行して運営していたウェブサイトと類似しており(乙8)、むしろ申立人が登録者会社の事業を認識し、これを模倣した可能性がある。
登録者は、本件ドメイン名を申立人や競業者に高額で売却する目的、申立人の商標使用を妨害する目的、又は申立人の事業を混乱させる目的を有したことはなく、一貫して自己の名刺印刷事業のために使用してきた。
他方、申立人は、自らのウェブサイトにおいて、登録者会社のウェブサイトを「違法な偽サイト」と断定する表示を行っている(乙9)。また、申立人が「printsta」とともに「プリスタ」を商標として選択したことも、登録者による先行使用を認識していた可能性をうかがわせる事情である。
さらに、現在においても、「プリスタ」の検索結果では登録者会社のウェブサイトが概ね第1位に掲載されており、本件ドメイン名及び関連する名称が需要者の間で高い認知を得ている(乙10)。
以上のとおり、登録者は、本件ドメイン名を長年にわたり正当な事業目的で使用してきたものであり、不正の目的による登録又は使用には該当しないと主張する。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、 本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、 裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
本件ドメイン名「PRINTSTA.JP」は、その要部である「PRINTSTA」と一致することから、申立人の登録商標「printsta」(登録第6492300号)及び「プリスタ」(登録第6492299号)と類似する。なお、この点は、登録者も争っていない。
(2)権利または正当な利益
処理方針第4条cによれば、登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していると認められる事情として、例えば「(i) 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、または明らかにその使用の準備をしていたとき」と定められている。
この点、登録者の提出した証拠から、登録者が代表取締役を務める株式会社ビットブレーンが、「プリスタ。」の表示を用いた印刷事業に開始した正確な時期は明らかではないものの、遅くとも2014年頃から「プリスタ」の名称を用いた印刷事業に関して外部業者に広告業務を委託していたことが認められる(乙4の4)。
また、第三者が運営するインターネットブログには、株式会社ビットブレーンが「プリスタ。」の名称による名刺印刷事業を運営している旨の記載があり、遅くとも2019年頃には同社が当該事業を行っていたことが推認される(乙5の4)。
これらの証拠を総合すれば、株式会社ビットブレーンは、申立人の登録商標の出願日である2021年4月6日より前から、本件ドメイン名に対応する「プリスタ。」の名称を用いて名刺印刷事業を行っていたものと認められる。また、登録者は同社の代表取締役であり、当該名称及び本件ドメイン名は同社の実際の営業活動のために使用されていたものであるところ、その使用が正当な目的によるものでないことを窺わせる具体的な事情は認められない。
したがって、登録者による本件ドメイン名の使用は、処理方針第4条c(i)に定める事情に該当するものと認められ、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないとは認められない。
(3)不正の目的での登録または使用
申立人は、登録者が本件ドメイン名及びそのウェブサイトにおいて申立人の登録商標と同一又は類似の表示を使用し、同一の役務を提供していることから、消費者に混同を生じさせ、不正に利益を得ていると主張する。
しかしながら、申立人は、登録者が本件ドメイン名を不正の目的で登録又は使用していることについて、上記の事実以外に具体的な事情を主張しておらず、これを裏付ける証拠も提出していない。
申立人が登録商標を保有していること及び登録者が当該商標と同一又は類似の表示を同一の役務について使用していることのみをもって、直ちに処理方針第4条a(iii)にいう不正の目的による登録又は使用があったと認めることはできない。
また、前記のとおり、本件ドメイン名は申立人の商標登録出願より前から、登録者が代表取締役を務める会社の印刷事業のために使用されていたものであり、この点を考慮しても、不正の目的による登録又は使用があったとは認められない。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「printsta.jp」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似していることは認めるが、登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないと認定することはできず、また、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されていると認定することもできない。
よって、申立人が求めたドメイン名「printsta.jp」の申立人への移転請求は、主文のとおり棄却する。
2026年10月23日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 勝見 元博
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2026年8月17日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2026年8月25日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2026年8月26日にJPRSに登録情報を照会し、 2026年8月26日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、2026年8月31日に補正(申立書の記載事項の修正等)が必要と判断してその旨を申立人に通知し、 2026年9月3日に補正書類を受領し、 2026年9月3日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2026年9月3日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、 2026年9月3日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2026年9月3日)、 答弁書提出期限(2026年10月6日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し登録者宛電子メール送信分については一部が送信不能であった。
(6)答弁書の提出
センターは、2026年10月5日に答弁書を登録者から電子的送信により受領した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2026年10月9日に勝見 元博を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2026年10月9日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2026年10月30日)を通知した。 パネルは、2026年10月9日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2026年10月23日に審理を終了し、裁定を行った。