日本におけるインターネット資源管理の歴史

~ドメイン名とIPアドレスを中心とした日本のインターネットの歩み~

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第4章 ドメイン名における資源管理方針の変遷

図:タイムライン

1990年代、インターネットは研究ネットワークから、一般企業、 そして家庭にまで普及していきました。 JPNICは、ドメイン名の管理方針(ポリシー)の修正、 新たなドメイン名空間の創出によって、 急速に変化し拡大するドメイン名に対するニーズに応えていきました。

インターネットの広がりへのポリシー対応

ドメイン名検討部会は、 JPNICの中でも多くの課題を扱った検討部会でした。 インターネットが単に大きくなってドメイン名の数が増えただけではなく、 ドメイン名を登録・利用する層が広がることで新たなニーズが生まれ、 「AC」「AD」「CO」「GO」「OR」の五つの属性種別で始まったJPドメイン名も、 時代の変化に対応させていくことが求められました。

JPドメイン名に対する幅広い意見を取り入れるため、 誰でも議論に参加できるメーリングリスト「DOMAIN-TALK」を開設[76]、 オフラインミーティング「DOMAIN OFFLINE MEETING」も開催するようになりました[77]

1996年は、 前年のWindows 95の発売を受けてインターネットの利用が急拡大し、 JPドメイン名の登録数も初めて1万件を越えました。 それまでは、ある属性の第3レベルで登録されていた文字列は、 他の属性で登録できないという「第3レベル一意性」の制限がありましたが、 ドメイン名の活用が広がっていく中で、 異なる属性で同じラベルのドメイン名を登録したいという要望が強くなり、 この制限は、1996年の11月に解除されました。 また、数字で始まるドメイン名も制限されていましたが、 同様に解除されました[78]

地域型JPの導入と都道府県型JPへの再構築

1988年以来、JPドメイン名の属性種別はAC、AD、CO、GO、ORの5種類で、 ドメイン名を登録する組織はこの5種類のどれかに分類されていました。 さまざまな組織がドメイン名を登録するようになり、 登録数も増えてくると、 登録申請されたドメイン名が既存のドメイン名と同じで受け付けられない、 ということも多くなってきました。 JPNICでは、 JPドメイン名の名前空間を拡大させることを第一の目的として、 1993年12月1日、「○○○.市区町村名.都道府県名.JP」という形で、 その地域に在住する個人や組織が登録できる「地域型JPドメイン名」の導入に向けた実験プロジェクトを開始しました[79]。 当時、 属性型JPドメイン名は個人による登録は受け付けていなかったため、 この新しい地域型JPドメイン名が、 個人によるドメイン名登録の手段となりました。

地域型JPドメイン名の開始により、 属性型JPドメイン名の登録対象の一部整理が行われ、 AC.JPから初等中等教育機関が、CO.JPから個人事業主が、 それぞれ外されて地域型JPドメイン名の対象へと移されました。

1995年5月には、地方公共団体が登録できるドメイン名が、 それまでのGO.JP から、地域型JPドメイン名へと変更されました。 この後、地方公共団体のWebサイトが続々と開設されていく中で、 ほとんどの地方公共団体において地域型JPドメイン名が利用され、 都道府県、市区町村で使われるURLの事実上の標準形となりました。

地域型JPドメイン名は、その利用の広がりとともに、 1996年3月31日で実験プロジェクトを終了し、 同年4月1日から本運用へと移行しました[80]

以後、地域型JPドメイン名の登録数は、 地方公共団体での利用を中心に2002年に4,300件を越えるまでに至りました。 しかし、2001年の汎用JPドメイン名の導入により、 個人によるドメイン名登録が地域型JPドメイン名から離れ、 さらに2002年に地方公共団体向けの属性型JPドメイン名としてLG.JPが新設されたことから、 地域型JPドメイン名の新規登録はほとんど行われなくなりました。 その後、 JPRSにおける地域型JPドメイン名の再構築に関する検討の結果[81]、 2012年3月31日をもって新規登録の受付を終了しました[82]。 その後、地域名を冠したJPドメイン名は、 都道府県型JPドメイン名へと形を変えて、 地域社会における新たなニーズに応えています[83]

初等中等教育機関向けのED.JPの導入

初等中等教育機関(小中学校、高校等)のインターネット接続は、 1994年に当時の通産省が文部省と共同で始めた「100校プロジェクト」と、 その後の「新100校プロジェクト」に代表される政府主導の動き、 ボランティアによる草の根活動で学校のインターネット環境を整備する「ネットデイ」などにより、 1990年代後半に徐々に広がっていきました。

当初、初等中等教育機関は、 大学などと同様にAC.JPの登録対象となっていましたが、 1993年の地域型JPドメイン名の実験プロジェクトの開始の際に、 その地域密着性の高さから地域型JPドメイン名の対象組織へと変更になりました。

しかし、その後ドメイン名の利用ニーズが増えていく中で、 初等中等教育機関のための独立した属性型JPドメイン名への要求が高まり、 JPNICは1999年にED.JPを新設しました[84]

ED.JPの導入における特徴的な施策は、 予約ドメイン名の割り当てと希望ドメイン名の受け付けによる事前調整期間を設けたことでした。

初等中等教育機関の名前の特徴は、 同じ名前の学校が全国にいくつもある事例が多い、 という点にあります。 4万校以上の登録対象組織が存在する状況で、 JPドメイン名の原則である先着順での登録受付を開始すれば、 希望の重複による混乱が予想されました。 また、予算の執行年度による有利・不利という状況も考えられました。

このため、 JPNICではすべての学校に一意な予約ドメイン名を割り当て、 さらに割り当てられた予約ドメイン名とは別の文字列を希望する場合には、 変更を受け付けることとしました。 変更希望が他の学校と重複した場合には、抽選によって解決しました。 予約ドメイン名は2003年3月末まで有効で、 これにより学校は先着順の登録を急ぐことなく、 各校の状況に合わせたスケジュールの中で、 ED.JPドメイン名を登録することができました。

OR.JPからのNE.JPとGR.JPの切り分け

1990年代半ば、商用インターネットプロバイダー参入も相次ぐ中で、 ネットワークサービスを提供する事業者のために、 またそのサービスを利用するインターネットユーザーのために、 新たな属性が必要ではないかという議論が行われました。 その結果、1996年11月に、 それまでOR.JPを割り当てていたネットワークサービスに対して、 新たな属性として「NE.JP」を新設しました。 JPNICでは、強制ではないとしながらも、 OR.JPにおける団体との区別の混乱を避けるため、 プロバイダーなどネットワークサービス事業者に対して、 OR.JPで登録していた文字列のNE.JPにおける予約措置や、 並行利用期間の設定、手数料無料措置など、 ネットワークサービスで用いるドメイン名のNE.JPへの移行を積極的に推進しました[85]

ドメイン名の変更は大きな負担を強いるものでしたが、 インターネットユーザーにとってわかりやすいドメイン名、 わかりやすいサービスのアドレスを提供するため、 ネットワークサービス事業者の協力の下、 多くのプロバイダーのドメイン名がOR.JPからNE.JPへと移行されました[86] [87]

さらに、 法人格のない任意団体からのドメイン名登録要求の高まりを受け、 1997年にOR.JPドメインは他の第2レベルドメイン名空間に含まれない法人組織ならびに外国政府機関のための空間と改め、 要件があいまいな法人格のない任意団体についてはOR.JPの対象組織から外し、 新たに設置したGR.JPの登録対象となりました[88]

JPドメイン名登録規則の策定

JPドメイン名の登録に関するルールについては、従来、 主に手続き方法や申請のための書式(メール申請フォーマット)を説明する文書群によって構成されていました。

ドメイン名の新規登録や、 登録情報の変更を行う場合にはこれらの文書を参照し、 必要情報を記載したメールを作成して、受付アドレスに送る、 という手順となっていました。

初期の頃は、ドメイン名の数も少なく、 申請手続きを行う会員側の担当者とJPNICの申請処理担当者がお互いに顔が見えているような状況であったものが、 多くのドメイン名登録要求を中立性・公平性を備えたサービスとして対応していくことが求められるようになる中で、 契約的な側面も備えた規則作りが必要となりました。

JPドメイン名登録検討部会(DOM-WG)において、 弁護士も加えた1年越しの議論が続けられ、 1997年10月にそれまでの文書群を一新した「ドメイン名登録等に関する規則(案)」が公開されました[89][90]

寄せられたコメントを元に修正が加えられ、 1997年12月に「ドメイン名登録等に関する規則」が公開され[91]、 1998年3月1日より施行されました。

この「登録規則」は、 以降JPドメイン名についてレジストリと登録者(とそして後には指定事業者も)の役割・責任を記した基本的なルールとして改訂が重ねられ、 今に至っています。 現在JPRSにより公開されている「属性型(組織種別型)・地域型JPドメイン名登録等に関する規則」の改訂履歴の最初には、 1997年12月1日という日付が記されています[92]

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[76] 「DOMAIN-TALK, FINANCE-TALK の開設について」, JPNICニュースレターNo.7,  1996年11月
https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No7/2-6.html

[77] DOMAIN OFFLINE MEETING 開催のお知らせ(1997年8月22日)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1997/19970822-01.html

[78] 「ドメイン名の割り当てに関する変更」, JPNICニュースレターNo.7, 1996年11月
https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No7/2-2.html

[79] JPNICレポート5「地域型ドメイン名の導入実験」, UNIX Magazine 1994年1月号
https://www.nic.ad.jp/ja/pub/unix-m/1994-01.html

[80] JPドメイン名(地域型)割り当てについて(1996年4月1日)
ftp://ftp.nic.ad.jp/jpnic/domain/archive/domain-geographic-960401.txt

[81] JPRS 地域型JPドメイン名再構築検討部会
http://jprs.jp/geo-wg/

[82] 「地域型JPドメイン名」の新規登録受け付け終了のお知らせ
http://jprs.jp/whatsnew/notice/before2011/20110926-geo.html

[83] 都道府県型JPドメイン名の新設に伴う関連規則改訂のお知らせ
http://jprs.jp/whatsnew/notice/2012/201205-rule.html

[84] 「EDドメイン名新設について」, JPNICニュースレターNo.12, 1998年12月
https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No12/2-3.html

[85] 「ネットワークサービスのOR.JPからNE.JPドメイン名への移行」, JPNICニュースレターNo.8, 8 1997年3月
https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No8/sec023.html

[86] 「ネットワークサービスのORドメイン名からNEドメイン名への移行について」, JPNICニュースレターNo.12, 1998年12月
https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No12/2-4.html

[87] OR.JPドメイン名よりNE.JPドメイン名への移行リスト(1999年04月01日)
https://www.nic.ad.jp/jp/regist/dom/dom/or-ne/lists/trans.html

[88] 「法人格を有しない団体のためのJPドメイン名第2レベルの新設」, JPNICニュースレターNo.10, 1997年12月
https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No10/2-1.html

[89] ドメイン名登録等に関する規則(案)(1997年10月2日)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1997/19971002-01.html

[90] ドメイン名登録規則(案)提案理由(1997年10月2日)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1997/19971003-01.html

[91] 「ドメイン名登録等に関する規則」公開のおしらせ(1997年12月2日)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1997/19971202-01.html

[92] 属性型(組織種別型)・地域型JPドメイン名登録等に関する規則
http://jprs.jp/doc/rule/rule.html