ニュースレターNo.48/2011年7月発行
APNIC 31 ミーティング報告(2011.2.21~2.25)
アドレスポリシー動向
APNIC 31ミーティングは、APRICOT-APAN 2011カンファレンスと共催の形で、2011年2月21日(月)~25日(金)の5日間、香港で開催されました。
全体概要
今回のミーティングに参加したAPNIC会員数は例年に比べ多く、約420名でした。また、APRICOT全体の参加者数は、APNICミーティングおよびAPANも併せての開催となったため、1,171名となり、昨年の参加者数733名と比べても非常に多い結果となりました。
APNICの会員数を国および地域別に見ると、香港は53ヶ国・地域中、上位5位に入りますが、APNICミーティングの開催地となったのは、今回が初めてです。会場となった、香港島北部、灣仔(Wan Chai)地区にある香港コンベンションセンターは、香港返還の式典が行われた会場でもあり、香港の中でも重要なイベントや会議、式典の多くがここで行われてきました。灣仔はオフィスビル、市場、定食屋などの地元の飲食店がすべて混在している地域で、アクセスもよく、参加者が香港の雰囲気を味わうにはよい立地の会場だったように思います。
今回のAPNICミーティングは、IANA在庫枯渇後初めてのミーティングであり、また、次回8月後半のAPNICミーティングまでにAPNIC在庫も枯渇している可能性が高かったことから、枯渇に向けた最後の分配方法について、必要な対策を最終的に検討する上で、非常に重要なタイミングでのミーティングでした。
当初は提案数も多く、同じテーマで複数の提案が提出されていることから、ミーティングでの議論では意見がまとまりきらないことも懸念されていましたが、最終的には6点の提案がコンセンサスに至りました。前回のミーティングではコンセンサスが得られた提案がなかったため、対照的な結果です。
今回コンセンサスが得られた提案はすべて、その後4週間のメーリングリストでの議論期間に大きな反対もなく、APNIC理事会により承認されたことから、APNICで施行されることになりました。
また、今回は現職ECメンバーの任期満了に伴う選挙が行われ、4名のECメンバーが選出されました。
アドレスポリシー提案の結果
IANA在庫枯渇後間もないというタイミングもあり、今回は最後の/8からの分配に関するテーマだけでも提案5点(うち1点は提案者によりその後取り下げ)が提出され、ミーティングでは合計11点※のポリシー提案について議論が行われました。
※ 当初は15点を予定。このうち1点は取り下げ、1点は提案者不在、2点は提案者の意思により、今回議論せず。
これらの提案は、下記テーマごとに分類した上で議論が行われました。
- 「APNICにおける最後の/8在庫からの分配方法の変更」(3点)
- 「IPv4アドレスの移転」(2点)
- 「在庫枯渇後に返却されたIPv4アドレスの管理」(4点)
- 「IPv6アドレスポリシーの変更」(2点)
以下に、テーマごとのポリシー提案の結果をご紹介します。
● APNICにおける最後の/8在庫からの分配方法の変更
<今回コンセンサスの得られた提案> |
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・ prop-094 : Removing renumbering requirement from final /8 policy ・ prop-093 : Reducing the minimum delegation size for the final /8 |
現在のポリシーでは、APNICにおける最後の/8在庫からの分配は、初回割り振りまたは追加割り振り基準を満たしていることを前提に、1組織につき、/22(1,024アドレス)1回限りの分配が認められています。
今回のミーティングでコンセンサスが得られた内容による変更点は、以下の通りです。
- 1)
- 分配サイズは一律/22ではなく、最小分配単位を/24とし、最大で/22までの分配が認められます。これにより、/22を必要としない組織にはより小さな単位で分配を行うことが可能となります。
- 2)
- /24を超える分配は、必要性を証明することで1度または複数回に分けて、最大で/22までの分配が認められます。
- 3)
- クリティカルインフラへの割り当ても、最後の/8からの分配対象に含まれます。
- 現在のポリシーにおいて分配を認めている、クリティカルインフラと定義されたネットワークへのIPv4アドレス分配が、最後の/8からの分配においても認められるようになります。
- 4)
- APNICの最後の/8在庫からの分配における、リナンバ要件が撤廃されます。
- 現在の初回割り振り基準の要件では、割り振りから1年以内に、それまで上流のISPから割り当てを受けていたアドレスのリナンバを行うことが含まれています。つまり、初回割り振りを受けた際、新たに割り振られたアドレスをネットワークに付け替え、これまで利用してきたアドレスを、上流へ返却することが必要です。
- 前述のリナンバ要件に基づき、これまで利用していたアドレスを上流に返却しても、在庫枯渇前は、「これまで利用していたアドレス」と「今後必要となるアドレス」を合計したアドレスの割り振りを受けることができるため、必要アドレス数は確保できます。
- しかしながら、最後の/8からの分配においては、分配可能サイズが/22と限定されるため、リナンバ要件により、これまで利用していたアドレスを返却すると、これを充当する割り振りを受けることができず、返却した分のアドレスが不足してしまうことになるわけです。こうした事態を防ぐため、今回APNICの最後の/8在庫からの分配における、リナンバ要件が撤廃されました。
● IPv4アドレスの移転
<今回コンセンサスの得られた提案> |
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・ prop-095 : Inter-RIR IPv4 address transfer proposal ・ prop-088 : Distribution of IPv4 address once the final /8 period |
IPv4アドレスの移転をAPNIC地域内に限定せず、APNIC地域との移転を認めるRIRとの移転が、以下の条件で認められることになります。
移転元:移転元RIRが定義する移転要件に従う
移転先:移転先RIRが定義する移転要件に従う
当初に提案されていた要件は、移転元、移転先どちらも、移転元RIRの移転要件に従うとしていましたが、「移転先で定義している移転要件とのすみ分けが難しい※」「結果として移転元、移転先の両RIRの移転要件を適用することになる」等の理由から支持されず、上記要件でコンセンサスが得られました。
- ※
- 移転元の要件を適用するとしながらも、実質的には移転先組織は、移転先で定義している移転要件も適用されることが想定され、その場合移転元、移転先それぞれで定義している要件のすみ分けが難しい。
またこの議論では、APNICでは移転を認めても、他のRIRがAPNICとの移転を認めるのか、という点の確認も行われました。現時点でARIN地域で提案されているRIR間の移転を認めるポリシーでは、移転時にアドレスを効率的に利用しているかどうかの確認を実施していることが条件として定義されています。
この条件を前提に、ARIN地域でのRIR間の移転を認めるポリシー提案が通った場合、APNIC地域では移転時の効率的利用の確認を実施していないため、実質的には、ARIN地域とAPNIC地域間の移転は認められないことになります。
こうしたARIN地域における議論も考慮し、ARIN地域との移転が実質的に認められるよう、RIR間での移転を認める提案と併せて、APNIC地域での移転時におけるアドレス効率の確認を、APNIC在庫枯渇前と同様に在庫枯渇後も継続する提案も行われました。しかし、移転時の利用確認を条件とすることが正式な手続きを経ない移転につながり、移転結果もデータベースに反映されなくなるのではとの懸念が強かったことから支持されず、結果的には継続議論となりました。
● 在庫枯渇後に返却されたIPv4アドレスの管理
<今回コンセンサスの得られた提案> |
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・ prop-097 : Global Policy for post exhaustion IPv4 allocation mechanisms by the IANA |
在庫枯渇後にIANAへ返却されたIPv4アドレスと、APNICへ返却されたIPv4アドレスの分配ポリシーについて、それぞれ提案が行われました。どちらの提案においても、再分配するのに十分なサイズのIPv4アドレスが実際に返却されることを期待しているというよりも、紛争を避けるために再分配方法をあらかじめ定義しておくことを主な目的としています。
IANAへ返却されたIPv4アドレスの分配:
- 最小単位を/24として各RIRへ分配される提案が、APNIC地域ではコンセンサスに至りました。
- この提案はIANAからの分配に関わるグローバルポリシーに該当するため、施行にあたっては今後、全RIR地域におけるコンセンサスと、ICANN理事会による承認が必要となります。
APNICへ返却されたIPv4アドレスの分配:
- 最後の/8在庫からの分配ポリシーを適用している段階で返却されたIPv4アドレスは、最後の/8ポリシーを適用することになります。その結果、APNICのIPv4アドレス在庫が/8を超えたとしても、本提案での分配ポリシーを適用するとしています。
- 返却されたIPv4アドレスは、最後の/8在庫とは別に管理し、APNIC事務局で今後再分配方法を定義することを求める提案も行われました。しかし、再分配方法が定義されていないことで紛争が生じることを避けるためにも、APNICでの在庫枯渇前に、再分配方法が明確に定義されていることの方が重視され、棄却されました。
● IPv6アドレスポリシーの変更
<今回コンセンサスの得られた提案> |
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・ prop-083 : Alternative criteria for subsequent IPv6 allocations |
1組織で複数のネットワークを運用している場合、初回割り振りで分配を受けた最小割り振りサイズ(/32)を分割して、複数のネットワークで利用すると、フィルタリングされてしまうという問題があります。また、6rd技術を利用したIPv6ネットワークの運用を行う場合、実際のユーザーへのIPv6アドレス分配としてではなく、パケットに埋め込むために必要なIPv6空間を確保する必要があります。
これらのケースにおいては、現在のIPv6アドレスポリシーで定義されている分配基準を満たしていなくとも、別に定義される要件を満たしている前提で、IPv6アドレスの割り振りも認めることになりました。
なお、今回のミーティング内容、およびポリシー提案の結果については、下記URLもご参考になさってください。
- □ APNIC 31ミーティング
- http://meetings.apnic.net/31/
- □ ポリシー提案の結果
- http://www.apnic.net/community/policy/proposals/
APNIC EC選挙
今回は7名の候補者の中から、以下の4名がAPNIC ECとして選出されました。なお、残り3名のECに変更はなく、現在のAPNIC ECは合計7名の、会員により選出したメンバーとAPNIC事務局長Paul Wilson氏により構成されています。
Gaurab Raj Upadhaya氏(Limelight Networks社)
James Spenceley氏(Vocus Communications Limited社)(再選)
Kenny Huang氏(TWNIC)
Wei Zhao氏(CNNIC)
候補者のプロフィールも含めた詳細は、以下のURLよりご確認ください。
http://meetings.apnic.net/31/elections/
次回のAPNICミーティング
次回のAPNICミーティングは、 2011年8月29日(月)~9月2日(金)に韓国・プサンで開催される予定です。
- □ APNIC 32
- http://meetings.apnic.net/32/
(JPNIC IP事業部 奥谷泉)