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ニュースレターNo.55/2013年11月発行

技術動向報告

本稿では「技術動向報告」として、開催地である中国・西安におけるインターネットの接続事情をはじめ、APNIC 36における技術的なプログラムの傾向と注目のトピックスをご紹介します。

はじめに 〜中国でのインターネット接続事情〜

突然ではありますが、皆さまは「金盾」という装置の存在をご存じでしょうか。私はぼんやりとそのような装置が中国のインターネットには存在している、程度の認識でありましたが、今回のAPNIC 36への参加を通じた中国のインターネット事情を体験せざるを得ない状況になって、その存在をひしひしと感じることになりました。

西安のホテルへチェックイン後、ホテルのインターネット接続を利用したところ、当初は特に問題なく接続することができました。ふと、作業の合間にTwitterやFacebookを閲覧しようとしたところ、なかなか接続に成功することができずにタイムアウトしてしまいました。この時には日常に頻繁に見受けられるホテルのネットワークに少々問題があるのかと、しつこく深入りせずに翌日以降に備え早めに休むこととしました。

翌日になって、ホテルの設備ではなく、持参したWi-Fiルータ経由での接続でも、大手ソーシャルアプリケーションサイトや日本国内掲示板サイトへ接続することができません。

筆者はAPNIC 36において、特にRPKI関連のプログラムにおいて複数の役割を担当していたため、このような問題の切り分け作業に集中することはできませんでしたが、結局APNIC 36の会場ネットワークからもこれらのサイトへ接続することができませんでした。

あらためて、じっくりと考えてみると、この現象が、うわさに名高い“金盾”による閲覧制限ではないか?ということに気づきました。

金盾は万里の長城をもじり、非公式にGreat Firewallとも呼ばれ、中国のインターネット通信を検閲するシステムとして知られています。会場をよく観察すると、他の参加者も同様な状況に悩まされつつも解析を楽しまれていたことから、これ以上時間をかけても改善は困難であろうと、解析については半分あきらめ、つながるサイトだけを活用し現地での作業を進めました。

この状況の詳細な報告については、本文末の参考情報に示した、株式会社インターネットイニシアティブの松崎吉伸さんによる「中国でGreatだよ」にまとまっておりますので、興味のある方はご覧ください。

技術的なプログラムの傾向と注目のトピックス

APNIC 36で提供された技術的なプログラムは、IPv6の普及に関係した話題や、RPKIの技術や運用の詳細に関する内容が複数提供されました。これまでのAPNICミーティングではIPv4アドレス在庫枯渇に関する技術論やRPKIの初歩的な内容であったことと比較すると、今回のAPNICミーティングのプログラム構成は、IPv6やRPKIに関する関係者のさらなる注目度合いが高まっておりそれを反映した結果と感じました。

どのプログラムも有用な内容ではありますが、筆者が特に興味深いと感じた二つのプログラムについて詳細を報告します。

(1) WHOIS Service Update

APNICのメンバーサービスやレジストリシステムに関する情報提供の場として、“APNIC Service”のプログラムが毎回提供されています。通常は、APNIC Serviceに関する話ですので、技術的に興味深い内容であることは少ないのですが、今回はWHOISに関する仕様変更の告知がAPNICのByron Ellacott氏よりありました。

具体的には、RIPE NCCとAPNICが連携してWHOISシステムを一から作り直したこと、そして、作り直したことによってWHOISに関するAPNIC地域の新たな要求を実装することができたという内容です。

WHOISの新機能については、主要なものとして二つの機能追加がありました。一つ目の機能追加は、WHOISデータの属性追加に関係する内容です。追加となった属性は“geoloc”属性と“language”属性で、IPアドレスの登録情報であるinetnumオブジェクトとinet6numオブジェクト双方に追加されました。

geoloc属性にはIPアドレスが実際に使用される場所であるgeolocationに関する情報を記載します。WHOISへの登録は任意です。従来のWHOISでは、類似の属性としてcountry属性がありましたが、あくまで割り振りを行った時点での国単位の情報であり、非常に大まかなものでありました。今回追加となったgeoloc属性では、緯度・経度といった情報を記載するため、詳細なgeolocationデータベースに活用することができる、とされました。

また、“language”属性も追加されました。language属性は、そのリソースホルダへ何らかの連絡を行う場合にリソースホルダが期待する言語を記載します。従来のWHOISでは基本的に英語のみを前提とされていたため、abuse窓口等に英語で連絡をしても読解が難しい等の理由で反応が無いといった問題の改善策の一つとして、相手方が理解しやすい言語が明記されることとなりました。

機能追加の二つ目については、WHOISへ登録された情報の過去データが参照可能となったことです。これは、ARINなどでは、WHO“WAS”サービスなどとして、事前登録・承認制の下提供されていた情報に類似した、過去情報の検索機能です。本機能の追加目的は、あるIPアドレスが過去どのような組織に割り振られていたかを確認するためだとされました。筆者はこのような過去履歴をたどることで、該当のIPアドレスがどのような事業者のどのようなサービスで使用されていたかが推測可能となることで、いわゆる“汚れたIPアドレス”などの推測が可能となり、結果としてIPアドレス移転などの際の参考にされるのでは、と感じました。

WHOISの属性や検索機能追加はこれまで変化が乏しかったこともあり、今回の機能追加は新鮮に感じました。APNICによると今後も継続してユーザーの要求にあったWHOISを継続して検討していくとのことでした。

(2) The Cost of Carrier-Grade NAT

数あるIPv6の発表の中でも、IPv6の全体の話題を取り扱う、“IPv6 in Action: Implementing a Holistic Strategy”セッションの発表の中にCarrier Grade NAT(CGN)のコストについて再度詳細を検討した発表がありました。

この“The Cost of Carrier-Grade NAT”では、Time Warner Cable社のLee Howard氏より、CGNのコストとはいったいなんであろうかという問題提起があり、彼の試算では、初期投資費用は1万ユーザー当たり9万ドル、定常運用費用は同1万ユーザー当たり年間1万ドル程度必要となることが共有されました。CGNの定常費用や、CGNの悪影響によるユーザー離れといった減収予測などを考慮すると、CGN導入に関するコストアップはユーザー1人あたり年間30ドルと想定されました。

次に、IPv4アドレスの購入とCGN導入を比較します。IPv4アドレスの価格が1アドレス当たり30ドル以下であれば、CGNを導入するよりもIPv4アドレスを購入し、移転するほうが格安となります。また極論をするとIPv4の価格がある一定以上に高騰した場合には積極的にIPv4を売却し、その分をCGNユーザーに投資したほうが利益が大きくなるとされました。

筆者としては、CGNに関する技術的障壁や初期投資に関する習熟費用など細かい点が省略され、大変に大まかな議論である印象ではありましたが、IPv6とIPv4の共存時代の問題として積極的にCGNを活用する局面も想定され、とても興味深い内容と考えられました。

その他:Newcomers' Luncheon

去年のAPNIC 34から始まった、新人との懇談を密にしてサポートするNewcomers' Luncheonイベントが今回も開催されておりました。類似の活動が日本のJANOGミーティングでも行われておりましたが、どこの現場でも新しい参加者をケアし発掘する活動が行われていると感じました。

終わりに

今回の西安までの移動では、中国国内での飛行機の乗り継ぎが航空会社の都合で変更となったり、空港からのタクシーは、よくわかりませんが、いつの間にか相乗りになっていたりと、結果として西安への到着は深夜になってしまいました。しかしながら、中国の航空会社の方や空港からのタクシーの運転手の対応は大変丁寧であり気持ちの良いものでした。

APNIC 36ミーティングでは、IPv6の普及やRPKIの関心度合いの高まりなどを、現地で参加することで肌で感じることができました。今後も必要な時に発表や発表者のサポートを行うなど継続して参加をしたいと考えております。

参考情報

中国でGreatだよ
http://www.attn.jp/maz/p/t/pdf/iij-2013-china-gf.pdf

WHOIS Service Update
http://conference.apnic.net/data/36/services-whois-service-update_1377555197.pdf

The Cost of Carrier-Grade NAT
http://conference.apnic.net/data/36/cost-of-cgn_1377486548.pdf

Newcomers' Luncheon Session
http://conference.apnic.net/36/program#session/61655

(JPNIC 技術部 岡田雅之)

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