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ニュースレターNo.82/2022年11月発行

IETFとグローバルなインターネット

株式会社Preferred Networks シニアリサーチャー・インフラ戦略担当VP 浅井 大史

来年2023年3月に、Internet Engineering Task Force (IETF)の第116回会議が日本(横浜)で開催される予定である。 IETF会議は年に3回開催されており、通常、北米、ヨーロッパ、 アジアでそれぞれ1回ずつ開催されている。 日本での開催は、第54回(2002年、横浜)、第76回(2009年、広島)、 第94回(2015年、横浜)に続き、4度目となる。 これを機に、IETFにおける標準化について考えてみたい。

IETFは、インターネット技術に関する技術標準を策定する団体である。 その特徴として、オープン性を重要視している。 標準化のプロセスは、 IETFに対して技術的に貢献するあらゆる個人に開放されており、 そのプロセスや規格もすべて公開されている。 このオープン性が、 グローバルなインターネットを支える技術標準を策定する団体として重要である。

We reject: kings, presidents and voting.
We believe in: rough consensus and running code.
‒ David Clark( IETF 1992 Plenary Presentation)

これは、David Clark博士が1992年のIETFプレナリーで発表した、 IETFにおける合意形成プロセスを表した有名な格言である。 IETFにおける合意とハミングについて記されているRFC 7282でも本文の1段落目で引用され、IETFの信条とされている。 IETFは、その他多くの国際標準化団体やデジュール規格とは異なり、 組織での参加ではなく、個人として標準化プロセスに参加する。 さらに、その合意形成は、「投票」のように厳密に賛否を問うものではなく、 「ハミング」により「ラフコンセンサス(rough consensus)」を確認しながら行われる。 ラフコンセンサスの詳細については前述のRFC 7282を参照されたい。

このように、IETFでは個人で標準化プロセスに参加するため、 その会議自体も排他的な要素を排除するように配慮されている。 文頭でも述べたように、IETF会議は、毎年、北米、ヨーロッパ、 アジアでそれぞれ1回ずつ開催されており、 居住地域の違いによる参加への障壁を低減している(RFC 8719)。 また、人種、民族、宗教、 性別等が参加の障壁とならないように配慮しながら、 会議開催場所の選定を行っている(RFC 8718)。

一般的には、IETFも国際標準化団体であると評される。 しかし、上記の合意形成プロセスや排他的な要素の排除への取り組みを鑑みるに、 IETFは国や地域、 所属組織に依らず「グローバルな」インターネット技術の標準化を遂行する場であり、 「国際」標準化団体とは少し違うのかもしれない。

David Clark博士の格言後段にある“We believe in: rough consensus and running code.”の“running code”についても、 一言付け加えたい。 IETFにおける標準化では、 Draft Standard(標準草稿)としてRFC文書を発行するためには、 二つ以上の独立かつ相互運用可能な実装、 つまりrunning codeが必要とされている(RFC 2026)。 この要求により、 実装の存在しない技術や相互運用が不可能な技術を標準とせず、 「動く」技術を標準文書として発行している。

このように、IETFはオープンなコミュニティと実装に基づく技術により、 インターネットのグローバルな発展に大きく寄与してきた。 社会情勢によりインターネットの分断が一部で危惧されているが、 今後も技術や実装に基づくオープンなコミュニティにより自律・分散・協調システムであるインターネットが維持、 発展されていくものと信じたい。

最後に、私は、IETF会議のネットワークを設営、運用するNetwork Operations Center(NOC)ボランティアとしてもIETF会議に参加しているため、 その運用についても少しだけ触れておきたい。 IETF会議のネットワークへの要求事項には、 「フィルタされていないネイティブなIPv4およびIPv6によるインターネットアクセス」という特徴的な要件がある(RFC 8718)。 実際には、 IETF NOCはAS番号とIPアドレスブロックや機材を開催地に持ち込み、 複数のISPとBGPを用いて相互接続することで、 この要件を満たすインターネットアクセスを提供している。 ネットワークごとにフィルタなどのポリシーが適用されること自体は自律システム(AS: Autonomous System)の考え方に添ったものである。 しかし、IETF会議のネットワークがBGPによる相互接続により(グローバルで一つの)The Internetの参加者となり、 開催地に依らずネイティブなネットワークを提供することは、 “running code”と同様に、 運用を通じて「動く」インターネットを維持していく上でも重要であるように思う。


執筆者近影
プロフィール●浅井 大史(あさい ひろちか)
2013年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了・博士(情報理工学)。 同年東京大学大学院情報理工学系研究科特任助教着任。2017年退任。 同年、株式会社Preferred Networksにリサーチャーとして入社。 2022年、同社シニアリサーチャー・インフラ戦略担当VP。 2014年より現在まで、WIDEプロジェクトボードメンバー。 2017年より現在まで、慶應義塾大学SFC研究所上席所員。 インターネットアーキテクチャ、オペレーティングシステム、 システム運用技術に関する研究に従事。

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