ニュースレターNo.92/2026年3月発行
Internet ♥ You No.27
さくらインターネット株式会社
江草 陽太さん
1991年、大阪府生まれ。 洛星中学・高校のロボット研究部創立メンバー。 ロボカップジュニアジャパンなどのロボコンに出場。 その後、大阪大学工学部電気電子情報工学科に進学。 NHK大学ロボコンに出場。 学生時代より個人事業としてシステム開発を行う。 2014年10月、さくらインターネットに入社。 2016年7月より執行役員に就任しさくらインターネット全体の技術推進を統括。 ネットワーク、データベース、情報セキュリティスペシャリスト。
入社2年目で役員となった江草陽太さん。 その異例ともいえるキャリアの裏には、 小さい頃から触れてきたインターネットやロボコンといった、 好きを突き詰める積み重ねが礎となっていました。
今回はこれまでの歩みや技術を深めていくための心持ちについてお話を伺いました。
インターネットを知った・興味を持ったきっかけ
今でもなんとなく覚えているのは、小学校低学年の頃、 父がモデムを買ってきたことです。 So-netのダイヤルアップ接続が、 私のインターネットのスタートでした。 当時はフリーソフトが流行っていて、 デスクトップマスコットやゲームでよく遊んでいました。 メールソフトのPostPetもV3まで愛用していましたね。
ロボット作りを始めたきっかけ
ロボットは小学校高学年の頃から始めました。 クリスマスプレゼントでもらったレゴ®マインドストーム®がきっかけです。 コンピュータが入った本体にモーターとセンサーをつなぐことで、 簡単なロボットが作れます。 ソフトはグラフィカルで、難しくなく組めます。 実際に物が動くのが面白く感じていました。
それでロボットコンテスト(ロボコン)に参加してみたいと思うようになり、 ロボコンに参加できる中学校に進学しようと思いました。 しかし、進学先の学校には残念ながら当時ロボット関係の部活動がなく、 中学2年の時に同級生と一緒に「ロボット同好会」を立ち上げました。 ちなみに1年生の時はオーケストラ部でバイオリンを弾いていたんですよ。
中学・高校時代はロボットに没頭し、 「ロボカップジュニア」という大会でサッカーやレスキューの競技に出場していました。 大人向けに「ロボカップ」という大会があり、そのジュニア版です。
しばらくの間、 パソコンと物作りは自分の中で並列した存在でしたが、 その共通点として常にプログラミングがありました。 最初に触ったのはMacのHyperCardです。 今で言うファイルメーカーに近いカード型データベースですね。 中学生の頃はVisual Basic 6.0に熱中して、 秀和システムの『Visual Basic逆引き大全 500の極意』という逆引き本を端から読んで試していました。 プログラミングしたものをネットワークにつなぐようになったのも、 中学時代からです。
「自分が作った通りに動く」ということがとにかく楽しかったんです。 パソコンは、たくさんの遊びの一つという感覚でした。 父が工業高校で理科の教諭をしていたこともあり、 同僚にパソコン好きな先生が多く、いろいろと教えてもらいました。
ロボコンと仕事に熱中した大学時代
大阪大学を選んだ理由はとても単純で、 「ロボコンをやりたかった」のと「関西からは出たくなかった」からです。 京都大学には有名な京大マイコンクラブ(KMC)や機械研がありますが、 当時NHK大学ロボコンには参加していなかったんですよね。 入学した電子情報工学科では、量子力学から電動機の設計、 情報科学まで幅広く学びましたが、 ほぼすべて数学といってもいいかもしれません。 数学単独ではあまり好きではなかったのですが、 物理的な部分まで学べたのは良かったです。
大学を選んだ決め手でもあるロボット作りはもちろん続けていました。 出場していた「NHK大学ロボコン」はアジア太平洋での世界大会の予選も兼ねていて、 開催国が持ち回りでルールを作るため、毎年ルールが変わります。 そのたびに作るものがガラッと変わるのは大変でした。 書類やビデオ選考を勝ち抜いて本戦に進むのは大変でしたが、 幸い在籍中に選考で落ちたことはありませんでした。 阪大のロボコンサークル(Robohan)は当時10人ほどのメンバーで、 少人数で切磋琢磨しながら活動していました。
そんな中、 ロボコンサークルの隣で活動している「鳥人間コンテスト」のサークルの先輩に誘われて、 大阪大学生協でシステム開発のアルバイトを始めます。 それが後に個人事業主としての業務委託に替わり、 キャンパス間のVPN構築や、 ある企業のプライベートクラウド構築、 情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)取得支援なども手がけました。
その後、 「進学するのが一般的である」という理由で大学院に進むのですが、 実は4年生の時にはもう心変わりしていて、 「院試は受けたくないな」と思っていました(笑)。 それでも進学したのですが、 理論寄りの研究が合わなかったのか、なかなか身が入らず、 不登校のような状態になってしまいました。 その頃は 研究室ではなく、 道を挟んだ向かいにある生協の部屋にばかりいましたね。
就職、そして24歳で役員抜擢
大学時代は、 漠然と「インフラ(社会基盤)をやりたい」と思っていました。 通信系だったり、電力系だったり、重工系だったり。 けれども大企業となると、 自分が担当できる領域はかなり細分化されているだろうし、 配属が希望通りになるとも限らない……。 そんなことを考えて悩んでいました。 転機になったのは、大学4年生の冬に参加した、 株式会社はてなとさくらインターネット株式会社が開催していた石狩データセンター見学ツアーです。 その際に、さくらインターネットでは業務の外注をしていないと聞き、 「ここならやりたいことが全部できるかもしれない」と感じました。
大学院へのモチベーションはあまり高くなかったので、 大学院入学直後の4月にさくらインターネットへエントリーシートを提出し、 10月に入社しました。 ただ、入社してみると業務が縦割りになっている部分があると感じるようになります。 そんな中、社長の田中さんと話す機会があり、 「社内で横のつながりが欠けているように感じるので、 技術的に全体を俯瞰して考える人を置くべきではないでしょうか」と提言したところ、 田中さんに「江草さんならやりますか?」と言われ、 「私でよければやります」と答えていました。
その後、水面下で話が進んでいたようで、入社2年目、 24歳で執行役員になりました。 当時社内の技術で全く分からない分野はほとんどありませんでした。 ロボコンや大学時代の仕事を通じて、 電気や回路設計から物理サーバー、ネットワーク、Webアプリまで、 プライベートクラウドもデプロイも含め、 基礎的には一通り触ってきた経験がすべて活きていると思います。
今でも技術者としての業務は続けています。 「さくらのクラウド」の機能開発をしたり、 メンテナンス作業に参加したりもしています。 ただ、人の管理や勤怠管理といった、 いわゆるマネージャー的な業務は得意ではないので、 私はあくまでプロジェクトのマネジメントに専念させてもらっています。
そのほか、クラウドのセキュリティ関連機能の開発や、 ISMAP(Information system Security Management and Assessment Program)やISMSといったポリシー策定にCISOの立場として関わっています。 後者は物理的に手を動かすというよりは、ルール設計が中心ですね。 それからイベントの運営やスタッフ活動、登壇なんかも多いですね。
私が責任者として判断しなければならないことは経営陣の中では比較的シンプルな方だと思っています。 答えに辿り着いているかが、わかりやすいというか。 勇気を持って判断するという感覚はあまりなくて、 論理的に考えれば自ずと結論が出ることが多い。 悩んで決断するというよりは、 総合的に判断すると「これだよね」と着地する感じです。 そのために情報収集は大切にしています。 いろいろな人から話を聞き教えてもらい、 自分で調べるだけではなく、相手が得意なことを教えてくれたり、 逆に質問されて調べることで学ぶきっかけをもらったりしています。
便利さの一歩先にある学び
今はクラウド前提の環境が多く、 物理を触らなくても成立することが多いため、 物理環境を学んでいくのは難しいですよね。 だからこそ、 まずは自分が使っているもの――クラウドやフレームワークでも何でも――を「便利だから使う」だけで終わらせず、 「なぜ動いているのか」「なぜ良いのか」「どうして解決できるのか」といった仕組みの部分を一歩深く考えることが大事だと思っています。 新しい技術も昔からある技術も、理解度を深めていくのは大変です。 でも、興味を持ったものを一歩深める。 その積み重ねが重要ではないでしょうか。
2026年2月のJANOG57では、 ホストとしてNOC(Network Operation Center) チームを組織しています。 準備期間を数ヶ月と余裕を持ち、機材も回線も用意して、 常時本番同様の構築ができる環境にこだわりました。 準備を早く始めると、その分早くトラブルに遭遇します。 時間の余裕がないと大人が手伝ってトラブルシューティングすることになりますが、 十分な時間が取れば、 学生/若手メンバーが自分たちでトラブルを解決する余裕が持てるのではと考えました。 自分で調べて解決する一連の流れを経験してもらいたかったのです。 さくらインターネットの社員とコミュニティのベテランたちが各チームのバックアップをすることで、 徹底的に取り組めたと思っています。
プライベートではまっていること
トレードマークと思われているセーラー服も、完全に趣味です。 セーラー服に限らず可愛いものが好きなのですが、 男性向けの服は種類が少なく、あまり可愛いものがないんですよね。 東京に来てからは可愛い服のお店にもすぐ行けるようになり、 社会人になってから着始めました。 特注で作ることもあります。 一番のメリットは皆さんに覚えてもらえることですね!
ほかにも趣味はあります。写真やコスプレ、 ポートレート撮影、写真集作りなど。 撮りためた写真がある程度まとまったら写真集にするという楽しみ方をしています。 技術的には直近ではPTP(Precision Time Protocol)にも関心があり、 PTPグランドマスター(PTPサーバー)を自分で作りたいと思っています。 面白いものを使って、自分で何かを作るのが好きなんでしょうね。
自宅の環境もこだわっています。 きっかけは、実家のリフォームをした時でした。 その時の反省を活かして、 今の自宅は相当こだわって設計しています。 たとえば、部屋の中にスイッチングハブを置かないこと。 ケーブルは壁の中に通すこと。 壁のコンセント類は機能性を重視した配置にすることなど。 自分の都合をかなり伝えていたので、 最初に出てきた図面の時点で、 一般的な住宅とはかけ離れていました(笑)。 その甲斐もあり、 今のところ後悔のない自宅に仕上げることができました。
後輩の方々へのメッセージ
「好きなこと」を諦めずに伸ばしてほしいです。 さくらインターネットの若手を見ていても感じますが、 やっぱり好きなことを突き詰めている人は強いと思います。 面白い話があれば、ぜひ乗っかってみてください。 いろいろなところに顔を出していれば、 自然と面白い話に出会えるものです。 それを少しずつ深掘りしていくと、自分の強みになるかもしれません。 趣味でやっていたことが突然仕事で役に立つこともあります!
最後にインターネットに対する、
愛情のこもったメッセージをお願いします!
インターネットは、文化が良いですよね。 利便性はもちろんですが、業界自体がとてもオープンです。 こういった文化の中で仕事ができるのは、 本当に恵まれていると思います! だからこそ、この環境を大切にしながら、 これからも面白いことを続けていけたらいいですね。

