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/P▲ ◆ JPNIC News & Views vol.421【臨時号】2006.12.26 ◆
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◆ News & Views vol.421 です
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本号では、「IGFを振り返る」と題し、当センターの理事である前村より
IGFアテネ会合のレポートをお届けします。
なお、会合の概要については、以下のバックナンバーをご覧下さい。
□IGFアテネ会合報告(vol408)
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2006/vol408.html
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◆ IGFを振り返る
JPNIC IP分野担当理事 前村昌紀
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◆ チュニスアジェンダにおける設計論と、その実装
IGF - インターネットガバナンスフォーラムが開催されたのは2006年10月末か
ら11月初めのことであり、それから既に1ヶ月以上経ってしまいました。会合
の様子はJPNIC穂坂によって、News & Views vol.408(*1)で報告されています
のでそちらに委ねるとして、ここでは私が出席者として感じたことを述べたい
と思います。
IGFはWSISチュニス会合のステートメント、チュニスアジェンダで国際連合の
管轄下で設置されることが明言されました。以下に77章の和訳(*2)を引用しま
す。
77. IGFは監督機能を持たず、既存の取り決め、仕組み、機関や組織を
置き換えることは行わない。逆に、それらと関与し、その能力を活用
するものである。IGFは中立で、重複することなく、拘束力のないプロ
セスに基づいて進められる。インターネットの日常的又は技術的な運
用業務には関与しない。
つまり、「政策の立案や推進」を行うものではなく、もっぱら「マルチステー
クホルダー間の対話の促進」を目的として設置されるものと定義されました。
チュニスアジェンダが発表されたときに見受けられた否定的な捉え方として、
「結局ICANNの問題は先送りか」「IGFは対話だけに終始するガス抜きの場にな
るのか」といったものがありましたが、私にとっては国際連合がこのようなイ
ンターネット的なアプローチの会合を維持することを明言したことが、とても
印象的でした。
そしてIGF発足会合(Inaugural IGF Meeting)と銘打たれた今回のIGFは、その
ように設計された会合がどのように実装されたかを目の当たりにする初めての
機会だった、と言えます。
◆「一般の」人々からのインターネットへの要請
会合の様子を目の当たりにしての印象はいくつかにまとめられます。まず第一
に、このIGFは、全世界の「一般の人々」からの、インターネットに対する要
請が呈される場であったということです。ここで「一般の人々」というのは、
技術者や愛好者に限ることなく「インターネットを仕事や日常生活における
ツールとして利用している方々」という意味合いであり、「一般の」とは「偏
りのない」「全般的な」という意味合いを含みます。
メインセッションの中では、特にオープニングセレモニーにおけるスピーチに
その特徴がとてもよく現れています。そこでは既に日常的社会活動の大きな部
分をインターネットに依存している先進国、今からインターネット上の知識を
吸収して発展しようとする発展途上国、あるいはビジネスプレイヤーなどそれ
ぞれの立場から、インターネットに対して抱く期待、要望、懸念などがきっち
り練り上げられた文章で呈されていました。
それ以外にも、メインセッションのパネルディスカッションが、インターネッ
トの専門家ではないジャーナリストによって司会進行されたことにも、広く一
般的な視点からインターネットを見つめなおすという姿勢が示されたと思いま
すし、どのセッションでもスピーカーやパネリストを、満遍なくいろいろな領
域から選んで配置したことからも、議論の一般性にこだわって構成したことが
伺えます。
これと対照的に、私が普段JPNICの仕事で付き合うような、RIRs、ICANN、ISOC
の人々は、多数参加して会場にはいるのですが、意識的にだろうと思えるほど
発言せず、静かにセッションを聴いているように見えました。
また「一般」とは、国際連合の視点に立つと「全世界」ということになるよう
です。特に、中近東や南米より群を抜いてアフリカからの参加者が目立ちまし
た。穂坂の報告にもあったように、「まずはインターネットに対するアクセス
が欲しいんだ」という強いアピールが呈されました。彼らに取ってインター
ネットは、貧困の窮状を世界に伝えることができる、また発展に必要な知識を
手に入れることができる格好のツールとなるだろうにも関わらず、「それがな
いために発展を手に入れることができず、先進国との格差が広がっていく一方
なんだ」という主張が、実にさまざまな形で見受けられました。
◆ 「マルチステークホルダリズム」と「対話」
今回耳にした単語で最も興味深かったものを上げるとすると、「マルチステー
クホルダリズム」でしょう。英語でmultistakeholderism。stakeholderは日本
語で「利害関係者」と訳すと、「多利害関係者主義」と無理やり訳すことがで
きます。ただし、今回のIGFにおけるステークホルダーの散らばりを見ている
と、利害が大きく相反するというよりも、一つのテーマに対して取り扱う方向
性や問題意識が異なる、つまり立場が異なるといった意味合いで捉えるべきだ
と思います。
いずれにしても、multi-stakeholderという表現にさらに接尾辞をつけたとい
う、この複雑な単語を聞いたのは今回が初めてですが、それが自然に受け入れ
られたほど、マルチステークホルダーのアプローチ、つまりマルチステークホ
ルダリズムが徹頭徹尾貫かれていました。
メインセッションのスピーカーリスト(*3)を見ていただくと分かりますが、
オープニングプレナリが結果的に国連や政府の高官が多くなっていたのを除
き、どのセッションでも、政府、インターネットコミュニティ、ビジネスセク
ター、市民社会、アカデミズムとさまざまな分野から、しかも地域分散も考慮
に入れられた人選になっていました。
これは、インターネットコミュニティで従来取り入れられてきた「オープンで
ボトムアップな」仕組みのどれよりも、マルチステークホルダリズムにこだ
わっているように見えます。
これと一見独立しているように見えて、実は深い関わりがあるように思えるの
が、「対話」です。ここでのマルチステークホルダリズムは、一つのテーマ
に対して専門を異にする人々が議論を行うということであり、それらの人々の
間で議論を収束させるのがそもそも難しいという先天的性質をはらんでいま
す。先進国対発展途上国のように、発展の度合いなどの尺度で分けた場合に
は、確かに対立構図が浮かび上がるわけですが、同じテーマを扱うにしても、
全く分野が違う人々が話し合う場合、「一定の結論を出す」ことよりも「他の
分野の人々の考え方の背景を理解する」ことの方がとても重要であるように見
えます。
つまり、ここでマルチステークホルダリズムを取る以上、おのずと結論付けよ
りも対話の方が重要となるということであり、参加者それぞれが自分が執行力
を持つフィールドで、対話を通じて得られた背景理解によってより良い方針や
政策を打ち出していくという、まさにチュニスアジェンダに示された機能の妥
当性が再確認されます。また利害対立がある場合においても、対立の解消に向
けてやはり相互の背景理解は重要であり、そのような場としてIGFが機能し得
ることを示唆します。
◆「外交官モデル」から「劇場モデル」へ
これまで述べてきたように、IGFは先進国からも発展途上国からも参加者が集
まり、発展途上国支援の文脈を色濃く帯びるものであるという意味で「国連
的」でしたが、一方で「マルチステークホルダー」による「対話」は、「ラフ
コンセンサス」につながっていく「インターネット的」でありました。
今回JPNICからの参加者3名は、経団連(日本経済団体連合会)の視察団に仲間入
りさせていただきました。経団連視察団の皆さんは当初このIGFに対して戸惑
いを隠せなかったご様子でした。冒頭にチュニスアジェンダを引用したよう
に、そもそもこの会合が何らかの明確な成果物を目指して開催されるものでは
ないという点が大きい要因だったようです。
たとえばWSISでは、ジュネーブ行動計画(*4)やチュニスアジェンダという形
で、明確な成果物が残されることが予め決まっており、それが導出される道筋
を追うということができたと同時に、結果に影響を及ぼそうとする場合、その
道筋に沿ってアクションを起こすことが定石と言えるでしょう。しかしながら
このIGFにおいては、結果として打ち出される予定のものはなく、最終日に予
定されているのは前日までの議論のまとめだけでした。この状態では、全体の
中でどこに注視してよいか見当がつかないばかりでなく、後に残るような成果
が本当に出るのか疑わしいということです。
本当に実体的な成果に結び付くかどうか、それは現時点ではまだ分かりません
が、経団連視察団のまとめの会合でとても深く印象に残ったことは、団員の皆
さんが敏感に、インターネットコミュニティの意思決定プロセスの性質と同じ
ものをIGFにお感じになっていたことです。
ここで指摘されることは「ラフコンセンサス&ランニングコード」というイン
ターネットの根底に流れる大方針ではなく、それに基づいた、参加者が誰でも
自分の意見を述べてコンセンサスを目指すオープンでボトムアップなプロセス
や、その弊害である、声が大きい人が影響力を持ってしまうこと、会議運営者
と仲良くしておくことが議事を運ぶ上で大きな影響を及ぼすことなど、イン
ターネット業界における会議の進み方や問題点を、的確に言い当てていらっ
しゃるように思いました。
その極めつけは、視察団団長をお勤めになった、野村総合研究所の理事長、村
上輝康さんの、「IGFでの交渉の進め方は、外交官モデルではなくて劇場モデ
ルであった」というご指摘でした。外交官モデルというのは、国連の会議がそ
れにあたるでしょう。宣言の採択に水面下で諸国と交渉し、自分の主張がより
強く反映されるような文面になるように頑張るようなモデルです。
それに対して劇場モデルというのは、どんな文言を宣言に盛り込むかというこ
とよりも、参加者が人としてどういう主張を持っているか、それをどう他の参
加者全員に印象付けるかということが非常に重要であるモデルです。また今回
は特にメインセッションでも会場からの意見も積極的に取り上げたので、発言
そのものが議論の流れに影響を及ぼし、それが参加者に与える印象を大きく左
右するといったことで、既にそれを織り込んだ議事運営戦略が見受けられたと
いう指摘がありました。
◆今後のIGFはどうなるのか
私は経団連視察団の皆さんが敏感にインターネット的なアプローチの性質と問
題点を言い当てられるのを見てから、ちょっと大げさかもしれませんが「この
ように世界は動いていくのかもしれない」と思うようになりました。つまり、
やり方が変わったら、それが重要な任務である方々はちゃんと追従して対応
し、新たなやり方で任務を果たすのです。それが重要になればなるほど、機敏
に対応するようになるのでしょう。
このIGFの準備にあたったのは、ニティン・デサイ国連事務総長特別補佐を議
長とするIGFアドバイザリーグループ(*5)でしたが、チュニスアジェンダに示
された設計を良い形で実装できたと思います。そしてその参加者がその設計を
理解して、新たな進め方を身につけようとしています。
「対話だけで物事が進むわけがない」という否定的な見方はありますが、私に
は上記のような敏感な反応が、物事が進む兆しのように見えるのです。少なく
とも希望を持って信じるに価するし、信じて取り組むことで物事の進み方は加
速するのではないかと思います。
来年のIGFはリオデジャネイロとなります。ブラジル政府がICANN体制に批判的
であるということもあり、次はICANN体制を中心テーマに据えるとも言われて
います。2006年12月8日に公開された、ICANNの戦略計画2007-2010のドラフト
(*6)の中でも、multistakeholderの参画の促進を初めとしたポリシー策定体制
の充実が中心に据えられていまして、この説は本当かもしれません。
私もインターネットの資源管理に携わる身として、ICANNの問題がどう扱われ
るかには注視しています。しかしそれだけにとどまらず、本稿で申し上げたよ
うな、「一般」からのインターネットに対する要請に関して「マルチステーク
ホルダー」が「対話」することで、「既存の組織と関与し、その能力を活用」
して政策を推進していくという、チュニスアジェンダで示された設計図が、今
後どのように実現されていくのか、大きな期待とともに見守りたいと思いま
す。
(*1)News & Views vol.408【臨時号】IGFアテネ会合報告
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2006/vol408.html
(*2)「 情報社会に関するチュニスアジェンダ(仮訳)」
http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/pdf/051119_1_2.pdf
(*3)The Internet Governance Forum (IGF) - Panellists
http://www.intgovforum.org/list%20of%20panellists.php
(*4)World Summit on the Information Society
http://www.itu.int/wsis/documents/doc_multi.asp?lang=en&id=1160|0
(*5)The Internet Governance Forum (IGF)
Advisory Group - List of Members
http://www.intgovforum.org/ADG_members.htm
(*6)ICANN Strategic Plan July 2007 - June 2010
http://www.icann.org/strategic-plan/draft_stratplan_2007_2010_clean_final.pdf
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わからない用語については、【JPNIC用語集】をご参照ください。
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html
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