◆◆【 1 】特集
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◇ JP-DRPの2年間を振り返る
JPドメイン名紛争処理方針(JP-DRP)とは、不正の目的で登録・使用されたJP
ドメイン名の紛争処理を行う仕組みです。JPNICが策定し、2000年10月より
JPNIC/JPRS(2002年4月より)/紛争処理機関の協力体制の下、運用されていま
す。本特集では、運用開始から間もなく2年を迎えるJP-DRPについて、これま
での概況を振り返ってみたいと思います。
◇ ◇ ◇
JP-DRPの運用が開始されてからこれまでの間、認定紛争処理機関である日本知
的財産仲裁センターに対し、19件の申立がありました。2002年9月1日現在、JP
ドメイン名の登録数が約50万件ですので、約2万5000件に1件の割合で申立がさ
れていることになります。一方、.COM等のgTLDを対象とした統一ドメイン名紛
争処理方針(UDRP)では、約3000件に1件の割合で申立がされていますので、
JP-DRPに基づく申立の割合は、UDRPのそれに比べ10分の1程度となります。
UDRPに比べてJP-DRPに基づく申立が少ないのは、(1)属性型地域型JPドメイン
名において、一つの組織が登録できるドメイン名の数が一つに制限される「一
組織一ドメイン名の原則」や「移転禁止の原則」(2000年10月に移転自由化)
を採用し、また、(2)汎用JPドメイン名の導入にあたり、属性型地域型JPドメ
イン名の登録者や商標権者を対象とした優先登録を行うことで、ドメイン名の
登録申請の段階において、できる限り不正の登録を防止しようと試みてきたこ
とが理由ではないかと思われます。
現在のところ、19件の申立のうち16件について裁定が下っています。裁定結果
の内訳を見てみると、移転裁定は15件、取消裁定が1件となっており、裁定結
果に不服として裁判所に提訴された案件も3件あります。
以下、いくつかの案件をご紹介します。
◆GOO.CO.JP事件(事件番号 ACIP JP2000-0002)
裁定結果に不服として裁判所に提訴された案件の一つ。登録時には不正目
的はありませんでしたが、検索サイトの「goo」が有名になった後にアダ
ルトサイトへリンクし、ヒット数に応じた利益を得たとして、ドメイン名
使用時の不正目的が認められました。
◆SONYBANK.CO.JP事件(事件番号 ACIP JP2001-0002)
ドメイン名を保持し続けること自体が、不正の目的にあたると判断された
案件です。登録者がこのドメイン名を登録したのは、申立人の銀行業務参
入の報道直後であり、しかも、このドメイン名はインターネット上での使
用ないし使用の準備はされていませんでした。パネルは、このような行為
は、申立人によるドメイン名の使用を妨害していると判断しました。
◆J-PHONE.CO.JP/J-PHONE.JP事件(事件番号 ACIP JP2002-0003)
JACCS.CO.JP事件(事件番号 ACIP JP2002-0006)
JP-DRPが策定される前から不正競争防止法に基づき裁判で争っていた案件
です。共に、使用差止判決が出されましたが、使用差止判決によってはド
メイン名の移転は実現しないこともあり、裁判後にJP-DRPへ申立を行い、
移転を勝ち取りました。
さらに詳しい内容を知りたい場合には、以下のURLをご覧下さい。
■JP-DRP申立一覧
http://www.nic.ad.jp/ja/drp/list/index.html
このように、裁判外紛争処理手続としてのJP-DRPの運用が行われている一方で、
ドメイン名紛争に関する法的規制の整備も進められました。昨年行われた不正
競争防止法の改正がこれにあたります。
改正前の不正競争防止法は、ドメイン名を対象とした内容にはなっていません
でしたが、インターネットの発達に伴い、ドメイン名を巡る紛争が顕著化して
きたため、昨年の改正で、ドメイン名に関する規定を追加することになりまし
た。そして、この改正のプロセスにおいて、UDRPやJP-DRPが参考にされたこと
もあり、結果として、JP-DRPと不正競争防止法での判断基準が合致することに
なりました。JP-DRPは、裁定結果に不服の場合に、当事者は裁判に訴えること
ができるという特徴を持っているため、これまでは、JP-DRPと裁判との間で異
なる判断が生じるおそれがありました。しかし、この改正で両者の判断基準が
合致したことにより、その心配も少なくなり、この点において、この改正は
JP-DRPにとって大きな意味があった改正と言えます。
これまでの2年間を振り返ると、徐々にではありますが、ドメイン名を巡る紛
争処理手段の一つとして、JP-DRPが社会に浸透してきているのではないかと思
います。そして、ドメイン名紛争への対応として、今までは多大な費用と時間
を要する裁判等の方法しかなかったこともありますので、今後は、紛争防止ま
たは紛争解決のための全社会的コスト負担を軽減するためにも、簡易・迅速・
低費用といった特徴を持つJP-DRPのさらなる改善と周知活動に取り組んでいき
たいと考えています。