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【 1 】特集 「第16回APNIC Open Policy Meetingレポート」
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JPNIC News & Views第99号(2003.08.07)では、7月に開催されたJPNICオープ
ンポリシーミーティング(以下、JPOPM)のご報告をいたしましたが、今回は
韓国で開催された第16回APNICオープンポリシーミーティング(以下、APOPM16)
についてご報告いたします。
◆開催期間
2003年8月19日(火)~22日(金) 4日間
※KIOW2003(*1)とあわせて開催
◆主催
主催:Asia Pacific Network Information Centre(APNIC)
ローカルホスト: Korea Network Information Center(KRNIC)
□参考URL
16th APNIC Open Policy Meeting
http://www.apnic.net/meetings/
(*1) KIOW2003: Korea Internet Operation Workshop 2003
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1. APOPM16 Overview
JPNIC IP事業部 奥谷泉
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今年は気温が不規則な夏となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
ミーティング中のソウルは大変涼しく、会議室は冷房が効きすぎて寒いくらい
でした。私からはミーティングの全体的な雰囲気についてお伝えしたいと思い
ます。
韓国でのミーティングは2000年3月にAPRICOT(*2)のプログラムとして開催され
た実績はありますが、APRICOTから独立した形での開催は初めてです。そして
今回は、主にISPを対象としたKRNIC主催のテクニカルセッションが、KIOW2003
と併せて開催されました。
APOPM16はいつも通りカジュアルな雰囲気で進められましたが、韓国の省庁
(Ministry of Information and Commerce)の方のご挨拶、IT業界の重鎮の方々
のご紹介を拝聴しながら、着席でフルコースのディナーをいただくという、
APNICミーティングとしてはかなりフォーマルなレセプションも催されました。
予想しなかった展開に、参加者もはじめは少し戸惑っていたようですが、AP地
域と韓国の業界における主要な方々が、ステージ前の大テーブルに一同着席さ
れている様子は壮観であり、ミーティングホストを務める組織の個性がミーティ
ングにも反映されることを実感した、興味深い体験だったと思います。
今回のミーティングはホスト国ではないにもかかわらず、JPNICも含めた日本
コミュニティのプレゼンスを強く感じたミーティングでもありました。世界28ヶ
国から160名の参加者のうち、日本は韓国を上回り、国別ランキングでは1位の
35名。そして、SIGチェア(3名)、プレゼンター(14名)、そして議論での発
言者としても、能動的にミーティングに関わっていました。その他、発言が目
立っていたのはAPNIC、RIPE NCC、ARINなどのRIR(*3)とIETF関係者です。APコ
ミュニティのミーティングでありながらも、地域外の参加者による発言のほう
が多いなか、このような日本のコミュニティのプレゼンスは大変大きいと思い
ます。
「どのようにしたらAP地域の人々に、積極的にルール策定に参加してもらえる
か」というテーマは、APNICが強く意識している課題でもあります。AP地域は、
英語を普段使い慣れていない人が多く、文化的にも公衆の場で意見を表明する
ことに馴染みの薄いところがあります。APOPM16でも地域内の議論活性化のた
めの新しい工夫がいくつか見受けられました。
たとえば、同時通訳サービスに加えて提供された「リアルタイムスクライブサー
ビス」。これは発表者や会場からの発言をリアルタイムに文字に起こして表示
するもので、このミーティングのために、APNICはオーストラリアから専門の
スクライバーを連れてきたそうです。たまに「LIR(*4)」が「liar(うそつき)」
と表示される等、読みながらドキドキしてしまうタイポもありましたが、私も
発言の内容を聞き漏らしたときや、発言者の意図がつかめなかった時、多いに
活用しました。
□Transcript archive
http://www.apnic.net/meetings/16/programme/transcripts/
会議の内容としては、過去のミーティングと比較すると、たとえば、ポリシー
策定プロセスやIANAからRIRへの割り振りポリシー等、ポリシーの基盤にかか
わる発表が多かった印象を受けました。また、APNICのサポートをうけ、現状
に則したIPv4アドレスの寿命予測がGeoff Huston(Telstra/APNIC EC)より
紹介されています。APNICが設立されて約10年経った今、そういった根底から
の見直しが必要な時期に差し掛かっているということなのかもしれません。
ミーティングを通して得ることのできたAP地域の動向把握、また、国内外のコ
ミュニティの方々とのつながりをJPNICのIP事業において活かしていきたいと
思いますので皆様、今後ともよろしくお願いいたします。
ミーティング結果につきましては、今後のJPNICの対応とあわせ、次回のIPア
ドレス管理指定事業者連絡会、JPOPMで、改めてご報告させていただく予定で
す。
最後に、次回のAPNICミーティングのご案内です。APRICOTとあわせて2004年2
月にマレーシアで開催されます。特に経験のない方は是非一度参加されてはい
かがでしょう。
(*2) APRICOT: Asia Pacific Regional INTERNET Conference on Operational
Technologies
(*3) RIR: Regional Internet Registry(地域インターネットレジストリ)
(*4) LIR: Local Internet Registry(ローカルインターネットレジストリ)
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2. アドレスポリシーの主要な議論のご紹介
JPNIC IP事業部 鈴木由佳
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今回のAPNIC オープンポリシーミーティングのプログラムも従来通り、各種チュー
トリアルおよびSIG(*5)/BoF(*6)、そしてAPNIC総会から構成されました。SIG
は、NIR(*7)(今回よりSIGに変更)、IX、DNS Operations、Routing、DB、
IPv6 Technical、そしてAddress Policyの分野別に開催されました。
また、非公式ではありますが、ホストマスターコンサルテーションセッション、
ホストマスターワークショップというAPNICと各NIRのIPアドレス審議担当者が
ディスカッションする場もありました。普段メールで確認できない細かい点や
最近の動向の情報共有など、先日のAPNICへの担当者派遣と同様、メールでは
カバーしきれない、向き合っているからこそできる意見交換を行いました。
SIGで行われたプレゼンテーションの中でいくつか抜粋して報告します。
◆顧客割り当て情報のDB公開任意化について <Database SIG>
APNICのPaul Wilson氏より、LIRは、自身の顧客への割り当て情報をWhois
DB上で公開する/しないという選択をできるという提案が行われました。顧
客の割り当て情報のAPNICのDBへの登録は引き続き必要となります。対象と
なる情報は、inetnum(IPv4ネットワーク情報)、inet6num(IPv6ネットワー
ク情報)、autnum(AS番号割り当て)情報です。提案内容にてコンセンサス
が得られました。
提案の背景には、個人情報保護の必要性、およびAPNICはそれらの情報を正
確に維持する責任の帰属問題などから、通常のWhois検索の結果としては、
顧客割り当て情報が公にアクセスできる必要性がないという考えがあるとの
ことでした。
本件は、今回のAddress Policy SIGでコンセンサスが得られた「APNICポリ
シー策定プロセス」にのっとって、実施に移される予定です。JPNICとして
は、コンセンサスが得られた背景を踏まえ、IP指定事業者の皆様の意見を伺
いながら、今後の方向性について検討していきます。
◆IPv4アドレス追加割り振り基準の変更について <Address Policy SIG>
現在IPv4アドレスのLIRからRIR/NIRへの追加割り振り基準は、LIRへ割り振
られた空間の80%以上を割り当て済(DB登録済)であることが必要であると
されています。APNICのPaul Wilson氏より、現在の基準から、既に割り振ら
れているIPアドレスの大きさによって、割り当て済である空間の比率が異る
基準への変更について紹介されました。割り当て済である空間の割合は、
AD-Ratioという数式を用いて算出される値に基づきます。
この基準が適用されると、合計で/20の割り振りを受けているLIRは、75.37
%が割り当て済であると追加割り振りの基準を満たしていることになり、合
計で/16の割り振りを受けているLIRは、68.59%が割り当て済であると基準
を満たしていることになります。
このように、割り振られた空間が大きなLIRほど、低い割り当て率で追加割
り振り申請を行うことが可能となりますが、この背景としては大きなISPは
階層的にアドレスの管理を行っているケースが多く、それによって割り振り
分割ロスが発生してしまいます。したがって、追加割り振り基準である80%
を満たすことが難しい場合もあるという状況を考慮した結果ということです。
こちらは提案ではなく、紹介という形式で行われたものですので、なんらか
の決議はなされませんでしたが、会場からは賛同を示す声があがりました。
今後のミーティングで提案される可能性が高い案件ですので、引き続き状況
を追っていきます。
◆IPv6ガイドライン作成について <Address Policy SIG>
今回も、IPv6ポリシーにかかわるプレゼンテーションが行われました。今回
は、現在のIPv6ポリシーにおける課題の紹介、続いて現在のポリシーの内容
を補足するガイドライン作成についての紹介が、JPNIC IP事業部の奥谷より
行われました。
課題として紹介された内容は、
・割り振りの基準について
・割り振り以外の手続について(割り当て審議、DNSの委譲)
・特殊なケースについて
・ワーディングについて
です。2003年7月8日に開催したJPOPMでも発表し、そこで出た意見等を反映
させた内容となっております。
本件については、プロポーザルではありませんでしたが、ガイドライン作成
についてボランティアを募ってワーキンググループ(以下、WG)をつくり、
ガイドライン文書のドラフトを作成するということでコンセンサスが得られ
ました。
今後APNICより、WGメンバーの募集アナウンスが行われます。興味のある方
は是非メンバーとして参加してください。
◆ASO AC(*8) の選挙
ASO ACの任期満了に伴う改選が行われました。今回は、2名の立候補があり、
投票の結果はなんと同数でした。コイントスの結果、Hyun-joon Kwon氏
(KRNIC)が当選しました。
その他のプログラムやプレゼンテーションはすべて下記Webページに掲載され
ていますのでご興味のある方はそちらをご参照ください。
□16th APNIC Open Policy Meeting
http://www.apnic.net/meetings/
(*5) SIG: Special Interest Group
(*6) BoF: Birds of a feather
(*7) NIR: National Internet Registry(国別インターネットレジストリ)
(*8) ASO AC: Address Supporting Organisation Address Council
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3. 技術動向について
JPNIC 技術部 山崎信・木村泰司
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ここでは、SIG等で行われた提案・報告事項をはじめとする技術面の動向につ
いてご紹介します。プライバシー保護やセキュリティ強化など課題が多い中、
着実に前進しているという感があります。
◆DNS Operations SIG
DNSサーバ間のNSレコードの不整合(Lame delegation)排除のための提案があ
りました。NIRから送られるデータは対象外とのことです。具体的な提案内容
は以下の通りとなります。
a. Lameの可能性を特定
b. 逆引きの委譲をテスト:15日間のテスト期間を設ける。AUとJPにテスト
ポイントを設置する。
c. ドメイン名登録者への通知:45日間の周知期間
d. c.の周知期間経過後、Lameである逆引きの委譲を無効化
今回の提案は、JPNICからAPNICへ転送されるデータには影響はありませんが、
JPNICとしては、Lameを減らすための対策を今後引き続き検討します。
その他に、2.0.0.2.ip6.arpaでの委譲における(6to4における)逆引きDNSに
おける問題点についての報告がありました。
◆Database SIG
松本順一氏(日本テレコム/JPNIC IRR企画策定専門家チームメンバー)より、
IRRサーバ間の階層化されたミラーリングを行うためのポリシーが提案されま
した。ポリシーよりもミラーそのものについて議論となり、継続審議となりま
した。
Whoisレコードを保護するため、全てのリソースオブジェクトがメンテナーオ
ブジェクトで保護されること、つまりMAINT-NULLが値として入っているmnt-by
属性がその親のmnt-byの値で上書きされることと、メンテナーオブジェクト中
の認証項目の属性NONEを廃止する提案がAPNICより行われ、コンセンサスが得
られました。
◆Routing SIG
提案事項はなく報告事項のみでした。
長橋賢吾氏(東京大学大学院)と衛藤将史氏(奈良先端科学技術大学院大学、
両者ともJPNIC IRR企画策定専門家チームメンバー)より、ルータとIRRを組み
合わせた経路の確認システム、およびIRR内でのデータの整合性確認システム
についての報告がありました。
その他、BGPのふるまいについての研究、Bogon(*9)の統計、およびIPv6のBGP
ルーティングテーブルの集成におけるふるまいの追跡結果が報告されました。
◆NIRシステムミーティング
このミーティングの趣旨は各NIRのレジストリシステム担当者が集まって情報
交換をしようというものです。APJII(*10)、中国、日本、韓国、台湾、ベトナ
ムのNIRおよびAPNICからの参加がありました。議題は以下の2点についてでし
た。
・最新技術動向の紹介
CRISP(Cross Registry Information Service Protocol)についてのアップ
デートや、Whois proxy等について、APNICのGeorge Michaelson氏より説明
がありました。
・各NIRからの報告
JPNIC、KRNIC、TWNIC、VNNICから、現状および計画中プロジェクトの報告が
ありました。
ミーティングの内容はNIR SIGで報告され、次回よりBoFとして報告を行うこと
になりました。
◆PKI関連情報収集
ミーティング期間中に、日頃忙しいAPNICなどの技術者とも個別に会って話を
する機会ができ、認証/セキュリティについての話を聞くことができました。
APNICでは、LIRへの認証局証明書の発行によるセキュアな階層的資源管理、
MyAPNIC(*11)によるWhois DBの直接編集、so-BGP等への応用を考えinetnum単
位の証明書発行なども検討中とのことです。
(*9) Bogon:割り振りの登録がないIPアドレスブロックまたはAS番号の、BGP
による広告
(*10) APJII:Asosiasi Penyelenggara Jasa Internet Indonesia
(Indonesian Internet Service Provider Association)
(*11) MyAPNIC:APNICで運用されている、Webを使ったLIR向けの情報登録シス
テム
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4. JPNICからのプレゼンテーションのご紹介
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今回のAPOPM16では、JPNIC関係者が10点のプレゼンテーションを行いました。
数が多ければよいというものでもありませんが、これは過去最大の発表件数で
あり、これまで以上に能動的に参加したミーティングであるともいえます。
プレゼンターからのコメントも含めて、ここでJPNIC職員が行ったプレゼンテー
ションをご紹介いたします。
◆Address Policy SIG
「The Current Issues in IPv6 Policy」(IPv6アドレスポリシーの課題)
IP事業部 奥谷泉
JPOPMでご紹介した課題に、日本での議論も反映して発表を行いました。紹
介した課題の一つである初回割り振り基準については、ARIN、RIPE NCC
の方のコメントによると、他の地域でも議論を呼んでいるそうです。興味
深い進展がありましたらまた日本のコミュニティと共有させていただきま
すが皆様からもご意見がありましたら是非教えてください。
「Developing IPv6 Address Guildelines」(IPv6アドレスガイドの策定)
IP事業部 奥谷泉
JPOPMで行った提案をAPOPMでも発表したものです。申請者に対して、ポリ
シーに記載されている基準の意図や背景、さらに申請時に参考となる情報
を提供するためのガイドライン文書の策定を提案しました。APNICからの公
募により結成されるWGが、文書を策定することで合意しましたので、JPNIC
としてもWGに積極的に参加し、申請者の皆様のお役に立てる文書の策定に
関わっていく予定です。
◆NIR SIG
「JPNIC Open Policy Meeting update」
(JPNICオープンポリシーミーティング報告)
IP事業部 鈴木由佳
NIR SIGにおいて、7月に開催した内容を含めたJPOPMの紹介を行いました。
韓国、台湾、インドネシア、中国、ベトナム等のNIRからの参加者がほとん
どでした。JPNICのようなオープンポリシーミーティングを開催していると
ころはまだ少なく、どうやって参加者を集めるのかという点で議論になり
ました。このプレゼンテーションが少しでも今後各NIRがオープンポリシー
ミーティングを開催する際の参考となればと思います。
「Summary of NIR System Meeting」(NIRシステムミーティングのまとめ)
技術部 木村泰司
NIR SIGで、NIRシステムミーティングのサマリーを紹介しました。ミーティ
ングの内容は標準化動向の紹介と各NIRの動向というもので、話題性に富ん
でおり、より情報交換の必要性を感じさせるものだったと思います。この
プレゼンテーションを受けて、会場では更に情報交換が行われていました。
◆NIRシステムミーティング(非公開)
「JPNIC IP Resigsry System Update」(JPNIC IPレジストリシステム報告)
技術部 山崎信
NIRシステムミーティングでのプレゼンテーションは持ち時間が5分しかな
かったため非常に駆け足となってしまいました。次回は要点を絞った上で
ミーティング全体の時間を十分取りたいと思います。
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5. JPNIC参加者からのコメント
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APOPM16に参加したJPNIC職員4名の感想をご紹介します。どうぞ。
♪IP事業部 奥谷泉
今回はAPNIC、JPNIC双方でスタッフの結婚や出産等の喜ばしいニュースが
多かったミーティングでした。APNICの日本人グラフィックデザイナー、
千晶さんの赤ちゃんの写真はAPNIC総会のAPNICステータスレポートに掲載
されてます。まじめな議論を行う一方で、こういったニュースも皆で共有
できるというのはなかなかよいことですね。
♪IP事業部 鈴木由佳
ミーティングに参加して、海外の関係者と交流を深めることはもちろんで
すが、IPアドレス関係者が一堂に集うミーティングであるため、日本にい
ても日頃会うことの少ない日本の関係者と交流できるよい機会でした。
♪技術部 木村泰司
アドレスポリシーとシステム、それから認証に関する議論など、バランス
の取れた形で参加することができたと思います。
♪技術部 山崎信
ホストであるKRNICの皆さんが非常に忙しく働いておられるのが印象的で
した。