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【 1 】特集 「第23回APNICオープンポリシーミーティングレポート」
JPNIC IP事業部 奥谷泉
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毎年この時期に開催されるAPNICミーティングは、APRICOTと併せて開催される
のが定例となりましたが、本号ではそのミーティングの様子をお伝えしたいと
思います。
第23回となるこのたびのAPNICミーティングは、インドネシア、バリで開催さ
れました。APNICスタッフの何名かは参加を見送り、テロの影響を懸念してリ
モートからの参加という形をとっていましたが、会場は街の中心から離れたホ
テル地域で、程よくリラックスした雰囲気の中で会議が進められたように思い
ます。
今回の議論の焦点は「IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー」と「APNICにお
ける料金体系の見直し」の2点であり、どちらも今後のアドレス管理やAPNICの
運営に関わる重いテーマであったと言えます。
■開催概要
開催期間 :2007年2月26日(月)~3月2日(金)
開催地 :インドネシア・バリ
会場 :Bali International Convention Center (BICC)
参加者 :132名
プログラム:チュートリアル、各種BoF、APOPS(The Asia Pacific OperatorS
Forum)、各種SIG、APNIC総会、懇親会
http://www.apnic.net/meetings/23/program/
■提案事項の結果
今回は6点の提案がポリシーSIGに提出され、うち4点はIPv6に関するものでし
た。そして、「prop-046:IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー」の一部を除
き、いずれの提案もコンセンサスは得られない結果となりました(提案事項と
結果の一覧は末尾参照)。
IPv6に関する提案は全てJordi Palet氏というヨーロッパのIPv6 Task Forceの
メンバーでもある方が提案されたものでしたが、IPv6の普及目的のみに着目し
ているとの懸念が強く、内容よりもこの点について参加者より随分強い口調で
反対意見が表明されていました。
そして、提案事項のうち、最も大きな注目を集めたものはIPv4アドレスの枯渇
に向けたポリシー提案です。これはJPNICのIPv4アドレス枯渇対応チームによ
り策定され提出した提案ですので、当然、JPNICとしてもその結果は非常に気
になるところでした。
議論の結果、提案された要素のうち、「世界的に調整のうえ取り組みを進め
る」「延命のためのルール変更は行わない」「分配済みアドレスの回収は別の
議論とする」との考えについてはコンセンサスが得られましたが、「一定の
IPv4アドレスを在庫として残すこと」および「割り振り終了日の周知」につい
てはコンセンサスが得られませんでした。この結果だけ見ても、参加者の総意
としては「世界的に検討が必要な課題ではあるとは考えるが、枯渇時期に関す
る人為的な介入には反対」とのスタンスであることが見て取れます。
本件については、JPNICとしても国内での議論も踏まえたうえで、次回のAPNIC
ミーティングでも議論を継続することになると考えています。
■IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシーに関する議論
参加者からの主な意見のうち、JPNICからの提案との最も大きな違いは、枯渇
期を目処にISPが一斉に準備を開始する必要性を、必ずしも強く感じていない
という点でした。
市場原理に従って物事を進めるのが望ましく、おそらく今後の流れとしては
IPv4アドレスの取り引きが行われたりISPによるNATの多用が進み、IPv4ベース
でそういった運用を続けることが経済的にISPにとって合理的ではなくなった
時点で、例えばIPv6といった他の運用を自然に選択していくことになるだろ
う、との意見が米国、豪州等からの参加者の間では主流です。
また、APNICの事務局長も、今後何らかの形でアドレスの取り引きが行われる
ことに備え、現在ポリシーで禁止しているアドレスの譲渡を認めることも検討
項目に入れていることを表明しています。
こういった実際の運用状況と市場に委ねる姿勢を、どの程度JPNICの提案の中
に盛り込んでいくかが今後の課題と言えそうです。
■APNICにおける料金体系の見直し
APNICにおける料金体系の見直しは、"APNIC Feeセッション"として専用に時間
をとり、提案ではなく、いくつかの料金体系モデルを基に議論を進める形式を
とりました。
これまではAPNIC事務局より提示されたモデルをベースに議論を進めており、
これは課金額は異なるものの、基本的には現行通りアドレスサイズに応じて課
金するモデルでした。
一方、アドレスが分配された時期、すなわち、実際のコストも考慮したモデル
が紹介され、これは古い時期に分配されたアドレスは最近分配されたアドレス
よりもレジストリ側のコストは低い、との前提に基づいたモデルです。これは
レジストリ側のコストも考慮したモデルであることから特にFeeセッションの
チェアは大いに検討の余地があると考えている様子で、今後このモデルをベー
スに料金体系に関する議論を継続することになりそうです。
また、JPNICのようなNIRに対する課金方法も議論に上り、NIRは収入のうち一
定の割合をAPNICへ上納する仕組みや、APNIC、NIR管理下に関わらず、全ての
LIRは一律同じ金額が課金されるべき等の意見も表明されました。JPNICの料金
体系は基本的にAPNICをモデルにしていることから、こういった料金体系の見
直しはJPNICおよび国内の事業者にも影響を及ぼすため、IPアドレス管理指定
事業者と調整を進めながら今後も議論を進めていく予定です。
■その他の議論
今回は提出期限に間に合わなかったことから提案ではありませんでしたが、既
存のGLOPマルチキャストアドレス(RFC3180)の割り当てを拡張した「eGLOP
(RFC3138)」アドレス(233.144/14)を、IANAではなくRIR経由で分配するという
提案です。同じ提案が他のRIRにも提出されており、アジア太平洋地域におい
ても次回のAPNICミーティングで正式に提案として議論が行われる予定です。
prop-047: eGLOP multicast address assignments
http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-047-v001.html
RFC:3180 GLOP Addressing in 233/8
http://www.ietf.org/rfc/rfc3180.txt
RFC3138: Extended Assignments in 233/8
http://www.ietf.org/rfc/rfc3138.txt
■まとめ
今回注目を集めたトピックスであった「IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー」
と「APNICにおける料金体系の見直し」はいずれも提示された実装論の根底に
疑問を投げかける議論が展開され、結論には結びつきませんでした。
これはテーマの大きさを考えるとある程度予測できたことであり、単なる意見
の発散ではなく、一つの視野に縛られずにより多角的な視野で今後の進め方を
再検討できる状態になったという意味では建設的であったと考えています。
当日の議論は公式ページより動画やトランスクリプトでもご覧いただけますの
で興味のある方はAPNIC23のWebページよりご覧ください。
■次回のAPNICミーティング
次回のAPNICミーティングは2007年8月末から9月にかけて、インド・ニューデ
リーでSANOG(※)と合わせて開催されます。南アジアでの開催はAPNICミーティ
ングとしてこれが初めてです。
(※)SANOG(South Asian Network Operators Group)
http://www.sanog.org/future.htm
■参考情報
APNIC23公式ページ
http://www.apnic.net/meetings/23/
提案事項一覧
http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/
■提案事項と結果の一覧
prop-042:IPv6における初回割り振り基準の変更【コンセンサスなし】
http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-042-v001.html
prop-043:IPv6ポリシー文書中の"暫定"の記述の削除【コンセンサスなし】
http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-043-v001.html
prop-044:IPv6における/48を超える割り当てに対する審議の撤廃
【コンセンサスなし】
http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-044-v001.html
prop-045:IPv6割り振り対象者をエンドサイトへ拡張【コンセンサスなし】
http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-045-v001.html
prop-046:IPv4アドレスの枯渇に向けたポリシー【一部コンセンサス】
http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-045-v001.html
prop-037:電子メールによる申請の廃止(前回より継続)
【コンセンサスなし】
http://www.apnic.net/docs/policy/proposals/prop-037-v002.html

