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ニュースレターNo.30/2005年7月発行

巻頭言:「常識の壁」への挑戦

JPNIC理事/江崎 浩

「常識の壁」(菊池哲郎氏著、中央公論新社)を読み、改めて、「常識や前提への疑問」の大切さを再認識させられました。約10年間お世話になった(株)東芝を1998年に退社し、東京大学にお世話になりだした頃から、JPNIC理事長でもある村井さんと、インターネットに関わるいろいろな課題について議論する機会が増えました。その中で再認識させられたことの一つに、「世の中に常識や前提は存在しない」ということがあげられます。企業におけるビジネスにおいてもガバナンスにおいても、何度となく「常識・前提」として教えられたことが、ある日突然変ってしまったという経験が一度ならずあります。東芝に入社して早々、大学のラグビー部の大先輩でもあり会社の先輩でもある方から「3年間規則や構造が変化しない組織は機能しない。」ということを教えられたことを今でもよく覚えています。組織が安定化し肥大化する過程で、「常識の壁」が、知らず知らずのうちに厚くなっていくことに十分な注意を払い、これを意図的に修正するプロセスを考えなければならいと教えていただいたことを、上記の本を読んだ際に再認識させていただきました。

私は、大学時代にラグビー部に所属しておりました。ラグビーの精神を端的に表現した言葉に「One For All, All For One(一人はみんなのために、みんなは一人のために)」というものがあります。この言葉に関しては、いろいろな解釈ができますが、大学時代に親友との関係などから学んだことは、「役割の認識とその遂行責任が強いチームを形成する」ということでした。「個々の能力と役割を認識し、そのミッションを100%遂行することがチームとして最大限の効率化につながる。」ある時、インターネットアーキテクチャ(あるいは分散コンピューティング)の本質は何だろうと考えた時、なんだ、同じじゃないかなと考えたことがありました。これは、昨年の暮れに、インターネットの父とも言われているRobert Kahn博士※1とお話をさせていただいた時、Kahn博士が「インターネットは、デジタル情報が自由にかつ自律的に流通するための論理的なアーキテクチャとして設計した」とおっしゃった際に、別の形で再認識させていただいたような気がします。

さて、IPv6の研究開発と普及および高度化に関する仕事に本格的に関与しはじめて、約7年が経過しました。当初は、いわゆるサービスプロバイダや企業ネットワークにおけるIPv6化が目標でしたが、ここ数年は、IPv6を用いたリアルスペースインターネット※2への展開が実感できるようになってきました。端的に言えば、コンピュータとインターネットの利用法が、その発明当初に戻りつつあるように思えます。そもそもコンピュータおよびネットワークは、ある問題を解くためにコンピューティングという形での支援を行い、その結果、効率性の高い作業や活動を実現するために存在したのでした。センサーネットワークやファシリティーネットワーキングの目的は、人々の作業環境の高機能化と効率化にあります。作業環境の高機能化と効率化は、システムの運用コストの削減に貢献するとともに、活動の効率向上(作業量の増加)に貢献します。IPv6の特徴であるグローバルアドレスの提供と自動接続技術は、システムの設計・設置および運用のすべての段階において作業効率の向上に寄与することが、徐々に明らかになってきました。(IPのバージョンに関係なく)グローバルなIPアドレスの提供が、システムの効率化とコスト削減に大きく寄与することは、IPアドレスの割り当てと管理に責任を持つJPNICとしては、十分にその効果と経済活動に対する責任を負っていることを認識しなければならないでしょうし、このような要求に迅速に対応することが我が国の社会への責任であり、ひいてはグローバルな情報社会への責任となるのではないでしょうか。アドレスは貴重な資源なので(特にIPv4は)、「必要なだけ」と言いながらかなり厳しく吟味され、絞り込まれた「必要最小限」しか割り当てないということは、つい最近までの「常識」だったと認識しています。この「常識」は既に、少なくともJPNICにおいては否定される方向にあると認識しています。必要なところにはIPアドレスを割り当てる、むしろ、各組織の情報システムが効率良く低コストで運用されるために、グローバルアドレスの使用をJPNICとしては積極的に推奨していく必要があるように考えます。

また、VoIP/SIP相互接続タスクフォース※3の活動は、JPNICの従来の活動項目にない新しい活動です。これも、広い意味での「常識の壁への挑戦」ではないかと思っています。また、環境情報が自由に流通し利用可能な環境基盤の構築を目指してLive E!※4という活動をIPv6普及高度化推進協議会などで始めました。この活動を通して、広義の意味での、ネットワークに関係する情報の管理に関するガバナンスが必要になってくるのではないかと考えています(これがただちにJPNICに関連する仕事だとは思われませんが、なんらかの関係はありそうな気がしています)。


※1 Robert Kahn(1938年12月23日~)
インターネットの創設者の一人で、Vinton Cerf氏とともにTCP/IPプロトコルを開発した。
※2 リアルスペースインターネット
実空間に存在する情報を持っているもの同士がネットワーク化され、実社会の様々な分野で役立てられるインターネット
※3 VoIP/SIP相互接続検証タスクフォース
http://www.nic.ad.jp/ja/voip-sip-tf/
※4 Live E!
http://www.live-e.org/


えさきひろし プロフィールえさきひろし
1987年九州大学工学部電子工学科修士課程終了。同年4月(株)東芝入社。1990年より2年間米国ニュージャージ州ベルコア社、1994年より2年間米国ニューヨーク市コロンビア大学にて客員研究員。1994年ラベルスイッチ技術のもととなるセルスイッチルータ技術をIETFに提案。1998年10月より東京大学大型計算機センター助教授。2005年4月より現職(東京大学 情報理工学系研究科 教授)。WIDEプロジェクトボードメンバー。MPLS-JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC理事等公職多数。IPv6の第一人者として関連プロジェクトを多数推進。工学博士(東京大学)。

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