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ニュースレターNo.31/2005年11月発行

特集1:NGN(Next Generation Network)概説

日本電気株式会社システムプラットフォーム研究所●江川尚志

概要

ITU-TやETSI(欧州電気通信標準化機構)ではNGN(Next Generation Network)の標準化作業が、最初の勧告群の2005年末完成を目指して活発に行われています。NGNとは、QoSやセキュリティを向上させた統合IP網を構築し、電話網を代替できる次世代の通信インフラとしてその上でサードパーティが多様なサービスを展開できるようにし、ユビキタスネットワーク社会の実現を目指そうというものです。NGNは網内にQoS制御や認証を行う機能モジュールを備え、3GPPが開発したIMSというSIPサーバ群を用いてセッション制御を行います。

1.NGNが目指すもの

NGNとは、IP技術を用いて電話網を構築し直すことにより、電話網の安心感や簡便さを保ちつつ、電話やテレビ会議、ストリーミングなど多様なサービスを柔軟に提供できる統合IP網を提供する技術です。回線交換技術を使う電話網が将来廃棄された時、替わって社会インフラとなる通信網を提供します。

NGNは、信頼性や安心感の欠如が指摘される現在のインターネットに対する、電話網からの回答です。社会インフラとして各種サービスの基盤となる通信網は今後、IP技術を用いて提供されるべき事は明らかです。しかし、現在のIP網ではQoSの保証や通信相手の認証などが十分に行われているとは言い難く、その結果としてテレビ会議システムが必ずしも動作しなかったり、スパムやウイルスが蔓延して絶え間ないパッチ当てが必要となったりしています。これでは自覚ある先進ユーザーにしか使えません。社会インフラには、医療システムなど生命がかかった通信を任せられる信頼性、お年寄りや子供でも不安を覚えずに使える安心感が必要です。インターネット発展の原動力である多様なアプリケーションを生み出す力、新規業者の参入を容易にするオープン・インターフェースの提供、ユーザーの平等な取り扱い、等々を損なうことなく提供し、それらを通じてユビキタス・ネットワーク社会を実現することがNGNのゴールとなります。

この実現のため、ITU-TのY.2001勧告ではNGNが備えるべき様々な特徴を規定しました。重要なものとしてはまず、エンドツーエンドQoS保証の提供が挙げられます。NGNでは多様なアクセス網(xDSLやWiFi、携帯電話など)や端末(電話機やPC、情報家電など)、多様なアプリケーションが使われます。この環境下で端末と網とがQoSをネゴシエーションし、上位アプリケーションに提供できる必要があります。次がモビリティのサポートです。一台のPCを携帯して家庭内ではxDSL、外出先ではWiFi、オフィスではFTTHと様々なアクセス網経由で通信したり、オフィス内の移動や出張などにより多数のPCから通信したりしてもサービスが受けられることが求められます。この他に、後述する網の転送機能と制御機能の分離、多様なアクセス網のサポート、固定網と移動網の融合、緊急通信や合法的盗聴などの規制への適合などが規定されます。

2.標準化体制

NGNの標準化は、電話網の標準化に大きな役割を果たしてきた前記ITU-Tをはじめ、ETSIなどで検討が進められています。ここでの記述はITU-TのFocus Group on Next Generation Network(FG-NGN ; 2006年1月からはNGN Global Standards Initiative(NGN-GSI)へと改編予定)での検討に従いますが、他の機関での検討も大筋では一致します。

ITU-TのNGN標準化では、他の標準化機関との連携が重視されています。NGNの重要な構成要素であるIP Multimedia Subsystem(IMS、後述)は第3世代携帯電話の標準化団体である3GPPが開発したものであり、そこで使われるSIP他のプロトコルの多くはIETFで開発されたものです。これら他の機関で開発された標準は可能な限り再利用し、変更や拡張が必要な場合はその機関へ要望を出すことで実現します。IETFとの連携は特に重要であり、2005年5月にはNGNをテーマとした初の合同ワークショップが開催され、意識合わせが行われました。

ITUやETSIでの標準化の特徴として、最初に目的や要求条件を定め、次に必要となる機能ブロックを規定し、最後にプロトコルを決めることが挙げられます。このため、NGNの標準化ではプロトコルのみならず、提供するサービスや機能アーキテクチャも規定されることとなります。またNGNは巨大システムであり、現行の電話網からの移行方法も重要な検討対象とされます。これらはプロトコルと違って相互接続には必ずしも必要ではありませんが、プロトコルの「利用方法」まで規定することで意識合わせができ、相互接続が容易となります。

3.提供するサービス

ITU-Tでは、NGNが提供するサービスを以下の6種類に分類して例示しています。これら全てが提供されるとは限らず、またこれら以外のサービスも将来的には通信事業者自身やサードパーティにより提供されることが期待されています。

1. PSTN/ISDNエミュレーション
従来の電話網との互換サービスです。ユーザーはNGNへの切り替えを意識せず、従来の電話機もそのまま利用できます。
2. PSTN/ISDNシミュレーション
同じく電話サービスですが、電話機とのインターフェースはIPとし、従来の電話機はアダプタを介して接続します。後方互換性よりも将来への拡張性や作りやすさを重視します。
3. マルチメディアサービス
IP網ならではのサービスです。公衆網と接続可能な音声通話、PTT (Push To Talk)、 IM/SMS/MMS等の各種メッセージング、テレビ電話やゲーム、eラーニングなどの一対一・多人数マルチメディア通信、プレゼンス、位置情報を使ったガイド等のサービス、などが考えられています。将来的にはテレビ放送も検討される予定です。
4. インターネットアクセス
インターネットへの接続もNGNを介して可能です。
5. その他
VPN、ファイル転送等のデータサービス、センサー・ネットワーク、ユーザーの機器の管理を代行するOver the Network (OTN)デバイス管理、などが挙げられていますが、2005年9月現在では具体的な検討は行われていません。
6. 公衆サービス
110番などの緊急通信、警察による合法的盗聴、身障者への対応、サービス・プロバイダーの選択、プライバシーの保護、悪意あるユーザーの追跡など、社会インフラならではのサービスです。こうしたサービスは国毎に法規制が異なるため、それらへの適合が重要となります。

4. 機能アーキテクチャ

こうした多様なサービスを実現するため、NGNでは様々な機能ブロックを規定し、それらをオープンなインターフェースで結ぶアーキテクチャを取ります。その概要を図1に示します。

図1 NGNの機能アーキテクチャ
図1 NGNの機能アーキテクチャ

本アーキテクチャは、大別してエンドユーザー機能(端末やカスタマ網)、音声や画像、データなどのユーザーのデータを実際に転送するトランスポート・ストラタム、それを制御するサービス・ストラタム、それらを管理する管理機能、サービス・ストラタム上でサードパーティから提供される各種のアプリケーション、および他の網 (PSTN/ISDN網、NGN網、インターネットなど)から構成されます。なお、これは機能を示した図であって物理的な機器とは必ずしも一致しません。

トランスポート・ストラタムは、実際のパケット転送機能を担うトランスポート機能と、認証やIPアドレス払い出し等、ある端末をその網に接続する際の一連の処理を行うネットワーク・アタッチメント制御機能、QoS保証のための受付制御を行う網リソース制御機能、そのためのユーザープロファイル・データベースで構成され、QoSが制御されたパケット転送網を提供します。

サービス・ストラタムは、コネクションの設定や帯域を管理するSIPサーバ群であるサービス制御機能と、Webとの連携や付加価値サービスを実現するアプリケーション/サービス機能、およびユーザープロファイル・データベースから構成されます。

エンドユーザー機能では、認証のため、全端末にSIMカード相当の機能を持たせることが検討されています。網管理機能は、電話網の管理に使われてきたTelecommunications Management Networks (TMN) の枠組みを利用します。

本アーキテクチャを特徴づける、転送機能を担うトランスポート・ストラタムと、その制御を担うサービス・ストラタムの分離は、ルータにおいてフォワーディング機能とルーティング機能を分離し、その間にオープンなインターフェースを設けることに似ています。このような構成とするのは、新サービスを提供しやすくするためです。パケット転送機能はいかなるサービスでも必要なので「高品位テレビ会議で必要な帯域は6Mbps」といったサービス毎に異なる必要があるサービス制御機能とは分離しました。

このアーキテクチャの特徴として、網内に様々な機能を盛り込んだことが挙げられます。端末にインテリジェンスを持たせて網は簡素にする、ステューピッド・ネットワークとはしません。この構成を採るのは、一つには責任の所在を明らかにするためです。社会インフラの提供者は、サービス提供に失敗したら(例えば119番が繋がらず救急車の到着が遅れたり、遠隔医療の最中にQoS劣化が起きて手術が失敗、患者が死亡した場合をお考え下さい)社会的責任が問われます。責任が問われる以上「我々は最善を尽くす、あとは端末が努力する」という、他者に依存した構成は採用しにくいのです。次の理由は、ステューピッド・ネットワークでセキュリティを保つのは、現実には難しいことが挙げられます。ユーザーに高度な知識があるならば、端末にインテリジェンスを持たせるのが最高のセキュリティ提供方法です。しかし、ソフトウェアを常に設定ミスせず最新に保つことが、近い将来小学生やお年寄りにできるようになるとは思えませんし、また「皆が信頼する誰か」なしでのセキュリティ機構構築は難しいのです。相互認証手続きは複雑化しますし、悪意あるノードの混入防止も難しく、中継ノードが突然通信を妨害し始める、といった恐れも出てきます。そして最後の理由として、ユーザーは、あるサービスが賢い網、賢い端末いずれのアプローチで提供されているかなど気にしません。これらの理由により、NGNは(少なくとも中核的サービスに関しては)網に機能を持たせています。

5. SIPによる呼制御

サービス制御機能はSIPサーバ群で構成され、SIPプロトコルを用いて端末のレジストレーションやセッションの設定を行います。この方法は3GPPで開発されたものを使用しており、基本的な考え方はIETF SIPに従いますが、レジストレーションの方法などが異なります。

図2に端末の登録とセッション確立のフローの主要部を示します。端末A、Bは(海外出張等により)自分が契約していないプロバイダーのサービスエリアにいるものとします。

図 2 端末の登録とセッション確立のフロー
図2 端末の登録とセッション確立のフロー

各端末は最初に、その網のProxy Call Session Control Function(P-CSCF)と呼ばれるSIPサーバに登録要求を出します。この要求はP-CSCFから自分が契約している事業者のServing CSCF(S-CSCF) と呼ばれるSIPサーバに転送され、認証情報の照合、ユーザー・プロファイルの引き出し、位置情報の登録などが行われることで登録が完了します。セッション確立要求も同様に、最初はP-CSCFに送られ、そこから関連するSIPサーバに転送されることで実現されます。その際にはQoS制御のために十分なリソースがあることの確認がトランスポート・ストラタム内の網リソース制御機能に対して行われます。このように、常にP-CSCFを介して制御を行うのが、最初からホームのSIPサーバ(S-CSCF)に直接アクセスするIETFのSIPとの大きな違いです。またSIPプロトコルの違いとしては、途中経過を示すメッセージでもPSTNとの接続のため高信頼な転送が要求されること、解釈が義務づけられた拡張ヘッダが定義されていること、などがあります。

P-CSCFを設けるのは、一つには、アクセス網を提供する移動先の事業者が自網に接続されている端末を管理するため、一つにはP-CSCF~端末間のメッセージは圧縮して拡張ヘッダも制限し、それをP-CSCFが通常のSIPに戻して網内を転送することにより、無線区間の帯域を節約し、またセキュリティを向上させるためです。

おわりに

ITU-TではNGNの最初の要求条件と機能アーキテクチャとを2005年末に、プロトコルを2006年中に「リリース1」として標準化します。これは電話サービスが中心であり、その後、ストリーミングやRFIDの取り込み、サードパーティへの機能提供方法など、統合IP網ならではの機能やサービスをリリース2、3として検討する予定です。これにより多様なサービスが実現でき、信頼できる通信インフラの実現を目指します。

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