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ニュースレターNo.34/2006年11月発行

ワークショップ報告:日本のドメイン名紛争処理手続きの批判的考察
~ADRの運用に関する実証的研究~

2006年7月8日(土)、京都大学百周年時計台記念館・国際交流ホールにて「日本のドメイン名紛争処理手続の批判的考察~ADRの運用に関する実証的研究~」と題したワークショップが開催されました。そこでは、JP-DRP(JPドメイン名紛争処理方針)裁定例検討専門家チーム(2004年11月~2006年3月)による研究成果※1が報告されましたので、概要をご紹介します。

はじめに

日本では、ADR(Alternative Dispute Resolution:裁判外紛争処理)について学問的な研究はされてきたものの、運用の研究が進んでいないという実態があります。今回のワークショップでは、運用されているADRの実例としてJP-DRP(JPドメイン名紛争処理方針)※2が紹介され、その運用についての研究内容の報告が、前述の専門家チームで活動いただいた早川吉尚氏(立教大学教授)と横山久芳氏(学習院大学助教授)から行われました。また、コメンテーターとして久保次三氏(鹿児島大学教授)と佐藤安信氏(東京大学教授) が加わりました。

裁定例の特徴

JP-DRPは、JPドメイン名の紛争処理を目的として、ICANNのUDRP※3をモデルに制定されています。JP-DRPとUDRPは、ほぼ同様の条件で運用されていると想像されますが、両者の裁定の勝敗率を見ると、UDRPの場合は申立通りの裁定が出る率が8:1から7:1であるのに対し、JP-DRPの場合はほとんどのケースで移転・取消の申立が認められていることに気付きます。そこで、JP-DRPは申立通りの裁定が下りやすい傾向があるのではないか、という分析に至ります。

ワークショップの様子
報告が終わってからも参加者同士での議論が続きました。

特徴を形成する要因についての考察

JP-DRPの裁定に見られる特徴について探るべく、裁定例を検討した際の考察が発表されました。発表内容の中で印象的であった、次の2点の特徴について記します。

類比判断

JP-DRPの適用対象となるには、申立人が同第4条a.(i)~(iii)の三項目すべてについて申立書で主張する必要があります。(i)については、類似性の存否の判断を必要とされ、この判断基準の置き方が結論に差をもたらす一つの要因ではないかと思われる、との内容で報告されました。

参考: JP ドメイン名紛争処理方針
第4条 JP ドメイン名紛争処理手続
(中略)

a. 適用対象となる紛争
第三者(以下「申立人」という)から、手続規則に従って紛争処理機関に対し、以下の申立があったときには、登録者はこの JP ドメイン名紛争処理手続に従うものとする。
  • (i) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  • (ii) 登録者が、当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと
  • (iii) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
このJPドメイン名紛争処理手続において、申立人はこれら三項目のすべてを申立書において主張しなければならない。
(下略)

そもそもUDRPは、サイバースクワッティングのようなドメイン名の濫用的な登録に対処すること(ミニマルアプローチ)を目的としており、裁定の場でもそのような登録であるか否かを客観的に判断しています。対して、JP-DRPでは標識法の類比判断にまで踏み込んだ形で裁定が行われているように見て取れる傾向があり、当初の目的と異なっている点で類比判断の在り方を再検討する必要性が感じられます。

専門家アプローチ

先述の如く、UDRPはミニマルアプローチを目的に設計されています。したがって、それに準ずるJP-DRPも、事後的に登録者が濫用者か否かをチェックの上、濫用度の高い使用を排除するシステムであるはずです。

ところが、JP-DRPの裁定例からは、専門家的なアプローチで裁定が行われ、知的財産権を有する側の申立通りの裁定が下りやすいように見て取れます。これは、仲裁機関が知的財産を専門にしているために起こりやすい傾向と言えるのかもしれない、と報告されました。

この傾向については、既判力がないDRPの性質からすると、むしろ専門家的アプローチで包括的に紛争処理が行われ裁判所に出訴する余地を残さない方が、当事者にとって好ましいのではないかとの質問が参加者からありました。これに対しては、ドメイン名登録者は申立があった際にはJP-DRPに従うものとされており、またDRPが敢えて1回きりの簡便な手続で行えることとしている以上、ドメイン名紛争処理を目的とするDRPはミニマルアプローチが適当であると判断できるとの回答がありました。

ドメイン名紛争では登録者が答弁書を提出してこないケースが多く、ミニマルアプローチでもサイバースクワッティングなどのケースには有効であることが説明されました。

これからのJP-DRP

以上の考察をもとに、ADRを運用する上で検討が必要となる次の点が述べられ、今後のJP-DRPの在り方を考える上でも重要であることが伝えられました。

・制度設計の際に重視する特徴の確認
ADRは裁定する人によるイメージの差に裁定が影響を受けやすいため、どのようなADRを実現しようとするのか、内部での不断の検討が必要であること。
・パネリスト研修
ADRの趣旨を個々のパネリストやパネリスト候補者に徹底させるために定期的な研修の機会が必要であること。これは、ADRの当初の目的が見失われないようにする上でも重要と考えられます。

最後の質疑応答では活発な意見交換が行われ、JP-DRPの当初の目的を再確認し改善していくことが、日本のインターネット環境改善にとっても大切であると考えられる、とのメッセージもいただくことができました。今後の取り組みを考える上で非常に参考となる、大変有意義な時間を過ごすことができました。

□参考:ドメイン名紛争処理方針(DRP)
http://www.nic.ad.jp/ja/drp/

(JPNIC インターネット推進部 高山由香利)


※1 JP-DRP裁定例検討最終報告書
http://www.nic.ad.jp/ja/index.html#finalreport
※2 JPドメイン名紛争処理方針
http://www.nic.ad.jp/doc/jpnic-00816.html
※3 UDRP
http://www.icann.org/dndr/udrp/policy.htm

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