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ニュースレターNo.40/2008年11月発行

TLD新設についての誤解

2008年6月下旬、トップレベルドメイン(TLD)新設の話題が、いくつかのニュース媒体でかなりセンセーショナルに取り上げられました。中には「.ibm」とか「.love」、あるいは「.berlin」、果ては「.maruyama」のような個人名を付けたTLDまで、誰でも申請できて好きなドメイン名を登録できる、というような書きぶりのニュースまで見られました。発端はICANNパリ会議(2008年6月23日~26日開催)における議論と、それに関するICANN側の報道発表(6月26日)※1にあると思われますが、多くの報道にはかなりの誤解があると言わざるを得ません。どのような誤解があるのか、本稿で述べてみたいと思います。

ご存知の方も多いと思いますが、ICANNの設立(1998年10月)には、1996年頃から高まったTLDの新設を要求する声に応える必要があった、という事情が深く関係しています。そのため、TLDの新設は、設立以来ずっとICANNの最重要課題でした。これまで2000年開始の第一ラウンド、2003年開始の第二ラウンドで合計13個のTLDが新設されました。ここで言うTLDはgTLD(Generic Top Level Domain:次頁「gTLDの訳語について」参照)と呼ばれるものですが、2回のラウンドとも、新しいgTLDの登録事業(レジストリ)の運用を希望する組織が、申請書をICANNに提出して審査が行われ、適切と認められれば申請した文字列のTLDが新設されて申請者に運用が許可される、というプロセスでした。そして今、これまでの経験を踏まえて、第三ラウンド以後に適用される申請プロセス、具体的には申請の仕方とか申請書類の審査方法の検討が行われています。

誤解の第一は、多くの報道がICANNがTLD新設のための規則改正を「承認した」と言っている部分です。事実は申請プロセスの検討が一歩進んだ、というに過ぎません。申請の仕方とか書類審査の判断基準は、言わばgTLD新設のルールですから、これまでとは違う申請プロセスがもし決定されれば、それを「gTLD新設の規則を改正」と呼ぶことは言葉として適切ですが、事実はまだ検討中であって決定してはいません。

では、この点についてICANNパリ会議最終日の理事会決定はどのようなものだったのでしょうか。申請プロセスの検討は、2007年9月7日付で出されたGNSO評議会から理事会へのポリシー勧告に基づいて、ICANNスタッフ(事務局)が行ってきました。理事会決議ではまずこの勧告に関して、

決議[2008.06.26.02]
新gTLDコミュニティの支持と、新gTLDの追加は実現可能であるとするスタッフの助言に基づき、理事会はGNSO評議会のポリシー勧告を受け入れる。

とし、さらに

決議[2008.06.26.03]
理事会はICANNスタッフに対して、申請プロセスの詳細実現計画の策定作業を継続・完成し、作業に関してコミュニティとの対話を継続しつつ、gTLD新設プロセス開始に向けて、実現計画の最終版を理事会とコミュニティに対して提示することを命ずる。

となっています。かなりもってまわった言い方ですが、要するに後の方の決議で言うところの「実現計画の最終版」はまだできておらず、できたとしてもその承認はおそらく次回(2008年11月)のICANN会議以降になると思われます。紛らわしいのは初めの決議にある「ポリシー勧告を受け入れる」の部分で、この部分だけ取って「承認した」という言い方が一人歩きしているようにも思えます。

誤解の第二は、「誰でも好きなTLDが取れて好きなドメイン名を登録できる」の部分にあります。これのどこが誤解なのかを理解していただくために、現在のgTLDで採用されている「レジストリ-レジストラ モデル」という仕組みをまず説明します。

レジストリ-レジストラ モデルは、元々アメリカの独占禁止法に対する対策として考えられた仕組みで、gTLDの登録機関(レジストリ)は一般顧客から直接ドメイン名登録の申請を受けることができず、必ずICANN認定のレジストラを通さなくてはいけない、という制度です。レジストラ経由で来た申請を拒絶することも許されず、また特定のレジストラを他のレジストラに対して優遇することも許されていません。今話題となっている「gTLDの新設」は、新しいレジストリの募集であり、確かにこれまでの2回のラウンドに比べて大幅に審査基準が緩和されることが期待されていますが、レジストリ-レジストラ モデルは厳格に堅持されることが予想されています。このため、例えばIBMが「.ibm」というTLDを申請することはできますが、それが承認されたとしても、IBMが「xxxx.ibm」というタイプのドメイン名を自分の好き勝手に登録できるわけではありません。レジストラ経由で「anti.ibm」というドメイン名登録申請が来ても拒否できないのです。次回ラウンドの応募者はあくまでも、レジストリとしての事業展開のために自由にTLD文字列を選べる、という話であって、応募者が自社用に使うTLDを申請できるという話ではありません。また一般の登録者が好きなドメイン名を登録できるか、という問題とも次元が違う話です。

さて、以上が今回の報道に見られる主要な誤解ですが、どうもこれらの誤解が、必ずしも報道機関の怠惰によって起こったとは言い切れない面があるような気がしてなりません。6月26日のICANN理事会決議は、上記のように注意深く書かれており、誤解の余地はありませんが、同日付のICANN報道発表は、理事会で決まったことを正確に説明しようというよりは、むしろICANNにおいてこの件について大きな前進があったということを世間に示すためのプロパガンダの色合いを強く感じます。このように感じるのは私だけでしょうか?

さらに踏み込んで言いますと、今回のICANNパリ会議でこの件について大きな前進があったのかと言えば、それにも多くの疑問の声が上がっています。実際、GNSOのポリシー勧告の実現には多くの困難があることが既に前回2008年2月のICANNニューデリー会議で指摘されており、これらの困難な点が克服されたという明確な根拠は、私の理解する限りでは、今回のパリ会議で示されていません。理事会決議[2008.06.26.03]で、実現計画最終版の提示期限が明示されていないのも非常に奇異です。多くのパリ会議参加者の感想は「今回の理事会決議には新鮮味がない」というものであり、理事の多くが困難克服にいまだに疑問を持っていることが、6月26日の理事会での討論からうかがえます。この理事会の速記録は既に公開されていますので※2、興味がある方はご覧ください。

今後の本件の展開には、まだ多くの紆余曲折があるものと思われます。

gTLD(Generic Top Level Domain)の訳語について

良い機会ですので、少し話題を変えて、gTLDの訳語についても話をしたいと思います。

JPNICは長い間、「Generic Top Level Domain」の訳語として「分野別トップレベルドメイン」を使ってきました。しかし、1997年頃までは「一般トップレベルドメイン」という訳語を使っていました。当時gTLDの代表格であった 「.com」「.org」「.net」では既に登録者に対する審査は無く、実質上誰でも、いくつでも登録できたので、“generic”に当初何の疑問も感じずに「一般」の訳語を当てたわけです。実際、“generic”は“general”の派生語でもあるので、自然な訳語にも思えました。

ところがある日突然、この場合の“generic”は“genre”(ジャンル、種類)の形容詞形として使われているのではないのか?という考えが頭に浮かびました。例えば、インターネットの父と言われるJon Postel氏が1994年に書いたRFC1591を見てみますと、

Each of the generic TLDs was created for a general category of organizations.

という記述があり、また、各TLDについて記述した部分では、「COM/EDU/NET/ORG/INT」に続いて、

United States Only Generic Domains:

として、「GOV/MIL」について説明が行われています。「.gov」や「.mil」は「一般向け」のTLDではなく、一部の特別な種類の組織を登録対象にしていますので、ここの“generic”を「一般」と訳すのは変で、むしろ「種類別」の方が意味としては合っています。そう考え直してみると、RFC1591の全文を通してJon Postel氏が“generic Top Level Domain”の“generic”を“genre”の形容詞形の意味で使っていたことは間違いないように思えてきました。

1997年頃、JPNICはIAHC(International AdHoc Committee)の最終報告書や、gTLD MoUの日本語訳を手掛けましたが、“genre”に気が付いたのは翻訳が一段落した後で、あらためてこれらの文書の原文を読み直してみると、著者達がこの場合の“generic”を“genre”の形容詞形として使っているという思いを一層強く持ちました。実際これら著者達の多くはJon Postel氏と親交があったので、共通の語感はごく自然なことだったと思います。そのようなわけで、この頃からJPNICは、それまでの翻訳文書で「一般トップレベルドメイン」を使ったのは誤訳であったとの立場を取り、「分野別トップレベルドメイン」という用語に切り替えました。ただし、過去の文書の訂正までは徹底し切れず、また一度世の中に広がった「一般トップレベルドメイン」という用語も、無くなりませんでした。

その後 ICANNができて、gTLD新設の2回のラウンドがありましたが、その時も新gTLDのレジストリ事業申請者は当該TLDの運用方針を説明した文書(Description of TLD Policies)を申請書に添付することになっており、それが審査の対象にされましたから、これまでに作られたgTLDについてはそれぞれ特定の利用目的が、少なくとも概念的にはある、というのがICANNの建前であったと思います。その意味で、JPNICがここ10年ほど「分野別トップレベルドメイン」という言葉を訳語として使ってきたことは、妥当であったと考えます(ただし、ICANNの建前と、それぞれのTLDにおいて第二レベルドメイン名登録者に対する資格審査があるかないか、という話は、現状ではあまり関連付けられていません)。

しかし、言葉は生き物です。全ての人が一つの言葉を同じ気持ちで使っているとは限りません。時代とともに、また使用する状況により、違った使われ方をされる場合があります。最近の傾向として、「誰でも審査無しで登録できるからgeneric」という感覚でgeneric Top Level Domainという言葉を使っている人達が多くなっていることも、また事実と思われます。それどころかICANNにおいてすら、この用語の使い方に不統一が見られるように思います。通常のICANN会議の議論では「.com」「.biz」「.info」はいずれもgTLDですが、IANAのRoot Zone Database※3を見ると、「.com」と「.info」は“Generic top-level domain”と“Purpose”の欄に書かれているのに対して、「.biz」は“Restricted for Business”と書かれていて、明らかに不統一が見られます。さらに言えば、現在検討されている次回ラウンドのgTLD新設では、“Description of TLD Policies”という添付書類も廃止される可能性もあり、「誰でも自由に登録できる」TLDが名実ともにgTLDの主流になることが予想されます。そうなった時は、JPNICは再び訳語を変更し、「一般トップレベルドメイン」を使うべき時かもしれません。

(JPNIC インターネットガバナンス・DRP分野担当理事 丸山直昌)


※1 "Biggest Expansion in gTLDs Approved for Implementation"
http://www.icann.org/en/announcements/announcement-4-26jun08-en.htm(原文)
http://www.nic.ad.jp/ja/translation/icann/2008/20080626.html(日本語訳)
※2 Meeting of the ICANN Board
http://par.icann.org/en/node/64
※3 IANA Root Zone Database
http://www.iana.org/domains/root/db/

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