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ニュースレターNo.48/2011年7月発行

インターネット歴史の一幕:
日本の最初のIX、NSPIXP-1

慶應義塾大学環境情報学部/WIDEプロジェクト
中村 修

インターネットのDNA

現在、インターネットと言えばインターネットサービスプロバイダー(ISP)、特に商用ISPにサービスを提供してもらうのが当たり前になっていますが、1980年代後半から1990年代初頭の日本のインターネットは、大学のキャンパスネットワーク等それぞれの組織のネットワークを、何らかの方法で相互に接続することによって、ネットワーク全体の到達性を確保する構造でした。参加組織は、主に大学や企業でも研究所などの非営利な組織が多く、ネットワークの相互接続においては、うまくつなぐことが重要であり、費用などはそれぞれの組織が上手にリソースを出し合うことによって実現していました。初期のインターネットは、草の根の活動によって広がっていったとよく言われるように、とにかく相互につないでネットワーク全体を広げていくといったDNAで突き進んでいたのです。

ところが、1993年に商用ISPがサービスを始めた時に、今までのDNAとは違ったDNAが芽生え始めました。すなわちビジネスのDNAです。初期の商用ISPにとって、ビジネスモデルは手探りの部分も多く、特にネットワークの相互接続に関しては、それ自身が売り物であると同時に、サービス品質(充実した接続性の確保)向上のための、投資の部分でもあるわけです。それまでのように「とにかくつなげば良い」といった考え方だけでは、インターネットの健全な発展が望めなくなりました。このような背景の元、運用を開始したのが日本で最初のIX(Internet eXchange)であるNSPIXPです。IXは、複数のISPが相互に接続する乗換駅のようなもので、この乗換駅であるIXの運用を通して、ISPの相互接続の在り方を参加組織と共に考えることができるのです。NSPIXPは、非営利な研究グループであるWIDEプロジェクトが主催することにより、参加する商用ISPを中立的な立場でまとめることができました。

商用ISPに戸惑い

当時の商用ISPにとってのIXに対する考え方は、

  • ネットワークの運用には多大なるコストが掛かっている。特に通信回線費用は高い
  • 国内の他のISPとの間の通信がアメリカ経由になるのは無駄である。すなわち、国内の他のISPとの相互接続は、国内で行うべきである
  • 一方、他のISPと相互に接続することは、自分のお客に対して広い接続性を提供する意味では重要である
  • ISPごとにそれぞれ回線を確保するより、IXに回線を引くことにより複数のISPと相互接続できれば、回線費用を安く抑えることができる
  • 他のISPからのトラフィックが自分のネットワーク内に流れ込み、ネットワーク資源を浪費されるのは許せない

概ね、IX経由で他のISPとの相互接続をすることに関しては前向きでしたが、最大の懸念は、他のネットワークから流れ込むトラフィックで、自分のネットワーク資源が浪費されることでした。この当時、まだ、PeerとTransitという概念がしっかり理解されていなかったという問題もありましたが、利用者数がそれほど多くないISPにとって、コスト全体に占める回線費用の割合が大きい分、流入してくるトラフィックが気になっていたのです。そこで、NSPIXPでは、それぞれのISPがIXまで引き込む回線の太さを、それぞれのISPに流れ込むトラフィックに対する“ヒューズ”であり、この“ヒューズ”の太さは、それぞれのISPが自分のネットワーク規模に応じて選択すれば良いという考え方を導入して、最初のIXの運用を開始しました。運用開始当時は、それぞれのISPのバックボーンがT1(1.5Mbps)で“ヒューズ”の太さが192Kbpsといったネットワーク規模でした。

ヒューズの破綻

NSPIXP-1は、1994年に運用を開始し、当初四つのISPの相互接続から始まり、1995年末には、ISPの数は20を超え、日本のインターネットにとって、重要な相互接続地点となりました。また、各ISPがそれぞれ設置していた“ヒューズ”も、当時一般的なデジタル専用回線としては最も広帯域なT1(1.5Mbps)まで増速されていきました。この時期になると、“ヒューズ”による制御だけでは、健全なネットワークの発展が難しくなってきます。“ヒューズ”を超えるトラフィックが定常的に流れるようになり、“ヒューズ”があることによって、パケットロスが発生するようになってしまったのです。NSPIXP-1は、それぞれのISPを相互に接続することを第一の目的として、フルメッシュのPeerを前提としながら、ISPへのトラフィック流入量は、回線の太さで制限するという構成だったわけですが、この構成の限界が見えてきたのです。そこで参加ISPと共に、NSPIXP-2へ移行することにしました。

NSPIXP-2は、1996年に運用を開始し、“ヒューズ”の概念を撤廃し、各ISPからの接続回線をFDDI(100Mbps)として、パケットロスが起きないように(当時レベルでは)超広帯域な回線を用いることにしました。ただし、ビジネス的な考え方を具現化するため、NSPIXP-1では、フルメッシュを前提にしていたBGPセッションを、ISPが独自にPeer相手を決めることができるバイラテラル方式に変更しました。また、ISP間で交換される経路情報も、Peerにするのか、それともTransitを提供するのかなどの制御を、それぞれのISPがビジネスを基本に行うことにしました。すなわち、現在のIXの構成、運用形態が、NSPIXP-2で確立したということです。現在、国内の主要IXであるJPNAP、JPIXそしてDix-ie(2003年3月にNSPIXP-2から改名)は、すべてこの方式によって運用されています。Peerする相手は、それぞれのISPがビジネスを考慮して決定し、回線の太さは、パケットロスを起こさないよう広帯域な回線を用いてつないでいます。現在では、データリンクとして10GbpsのEthernetが主力となり、ISPによっては、複数の10Gbps Ethernetをまとめて利用しているところもあります。

最近の統計では、IXで交換されるトラフィックは、国内の総トラフィックの約1/3まで減ってきています。これは、ISP同士がローカルな回線でトラフィック交換を行うプライベート・ピア(Private Peer)という方式での相互接続が増えてきているためです。国内回線の低価格化によって、プライベート・ピア方式が可能になりました。しかし、インターネット全体の構成、例えば冗長性を考慮した相互接続トポロジーや、Root DNSなどのネットワーク全体の運用にとって重要なサービスなどを考えると、これからもIXは、インターネットにとって重要な構成要素であり続けると思います。

インターネットにとって、ネットワーク同士の相互接続は必要不可欠ですが、ビジネスという視点では、今でも難しい事項だと思います。すなわち、ISPにとって、この相互接続は売り物なのか?それともネットワークの価値を高めるための投資なのか?という問題です。こんな視点でネットワークの相互接続の実態を調べていくと、いろいろなことが発見できるかもしれませんね。ただし、相互接続しているネットワーク同士でのお金のやりとりは、公開されていない情報なので、なかなか調べることは難しいのですが。

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