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ニュースレターNo.52/2012年11月発行

国際電気通信規則(ITR)改定について

2012年、インターネットにも重大な影響を及ぼし得るものとして大きな話題となったものに、国際電気通信連合(ITU)による国際電気通信規則(ITR)の改定の動きがあります。インターネットの業界からはITUの活動に対する馴染みがあまりないかもしれません。そのため、ITUとはそもそも何かということを含め、このITRの改定について、順を追って解説します。

ITUとは

国際電気通信連合(International Telecommunication Union; ITU)※1とは、国際連合の専門機関の一つで、無線通信を含む情報通信分野において国際的な標準化および規制を確立するのが目的とされています。国際電気通信連合条約(後述)に批准した各国政府(加盟国)が投票権を持つメンバーであり、日本を含め193ヶ国にわたります。

ITUの最高意思決定機関は全権委員会議(Plenipotentiary Conference; PP)と呼ばれ、4年ごとに会合が開催されます。この他に理事会(Council; C)が置かれ、毎年会合を開催します。(図1を参照)

この他に、以下の3部門(セクター)が置かれ、それぞれが規格策定などを行っています※2

  • 電気通信標準化部門(ITU-T)
  • 無線通信部門(ITU-R)
  • 電気通信開発部門(ITU-D)(電気通信における途上国開発事業を実施)

これらの部門では、国以外に情報通信規制機関、学術研究機関、民間企業が、セクターメンバー、アカデミア、アソシエイトと呼ばれる投票権を持たない会員となることもでき、現在その数は3部門合計で700以上に上ります※3

また、ITUでは加盟国が地域会議を構成することを認めており、現在、右上の表に示す四つの地域会議が存在しています。

地域会議名 直近のITRに関する会合

アジア太平洋地域

アジア・太平洋電気通信共同体 (Asia-Pacific Telecommunity; APT)

準備会合 (2012年3月19日~24日)

欧州地域

欧州郵便電気通信主管庁会議
(Conference europeenne des administrations des postes et des telecommunications; CEPT)

(正式な準備会合は開催されていないが、2012年2月にITR改定案作成会議を開催)

米州地域

米大陸諸国間電気通信委員会
(Inter-American Telecommunication Commission; CITEL)

準備会合 (2012年5月14日~15日)

ロシアをはじめとする旧ソ連諸国

通信分野地域共同体
(Regional Commonwealth in the field of Communications; RCC)

準備会合 (2012年4月2日~6日)

ITUには、基本文書と呼ばれる次の四つの文書があります。

  • 国際電気通信連合憲章(Constitution; CS)
  • 国際電気通信連合条約(Convention; CV)
  • 無線通信規則(Radio Regulations; RR)
  • 国際電気通信規則(International Telecommunication Regulations; ITR)

ITU憲章とITU条約は、ITUの原則と構成を定義し、それを補足するものとして二つの管理規則(Administrative Regulations)が定められます。これら四つの文書は条約として加盟国に拘束力があります。このうち、四つ目の“ITR”が本稿でご説明するテーマとなります。

国際電気通信連合(ITU)組織図

国際電気通信連合(ITU)組織図
(出典:一般財団法人日本ITU協会http://www.ituaj.jp/01_ga/ITU-AJ_pamph.pdf)

ITRとは

ITUの基本文書のうち、今回の話題であるITRは、国際電気通信業務の提供、運用、料金決済などに関する管理規則です。ITUによれば、ITRの目的は次の通りです。

  • 国際的な電気通信の提供や、運用に関連する一般的な原則の確立
  • 国際的な相互接続および相互運用性の促進
  • 技術的設備における調和のとれた開発と効率的な運用の維持
  • 国際電気通信サービスの効率性、便利さ、可用性の促進

現行のITRは、それまで電信規則、電話規則に分かれていたものを一本化して、1988年に世界電信電話主管庁会議(WATTC-88)で採択され、1990年に施行されました。ITRの改定には、世界国際電気通信会議(World Conference on International Telecommunications; WCIT※4)の開催が必要となっており※5、ITR制定以来初となる今回の改定に関しては、2012年12月にアラブ首長国連邦のドバイで開催されるWCITで議論されます。

ITR改定の理由

では、現在、このITRの改定が議論されている背景と理由は何なのでしょうか。

ITUによれば※6、ITR制定当初はほとんどの国では電気通信事業は政府/国家に規制された独占体制でしたが、その後、国際電気通信環境は大きく変わり、インターネットプロトコル(IP)ベースのインフラが発展したため、実態に合った政策および規制についての検討・評価が求められたためとのことです。

ITR改定の経緯

ITUにおける活動は、各会議体における決議に基づいて行われるため、決議をたどることでその活動の経緯を知ることができます。今回のITR改定に関しては、1998年の全権委員会議に端を発し、次の経緯があることが分かります。

全権委員会議98(米国・ミネアポリス)決議79(1998年)
ITRについての対応が必要かどうかの検証を専門家チーム(Expert Group)に委嘱した。結論は出ず、規制対象となる新たな分野等があるか継続検討に。
全権委員会議02(モロッコ・マラケシュ)決議121(2002年)
ITRのレビューを継続し、2007年もしくは2008年にWCITを開催するよう求めた。
この決議後、ITRのレビューのために法律、規制、技術の専門家を集めて作業部会が設立され、2005年の理事会、2006年の全権委員会議までに最終報告書の提出も要求されたが、結論は出ず。
全権委員会議06(トルコ・アンタルヤ)決議146(2006年)
  • 既存ITRの評価
  • 第4回世界電気通信政策フォーラム(WorldTelecommunication Policy Forum; WTPF)での新興(emerging)電気通信政策・規制項目を検討すること
  • 2012年にWCITを開催すること
の3点が求められた。
第4回世界電気通信政策フォーラム(ポルトガル・リスボン)(2009年)
ITRに関して、迷惑メール、番号およびアドレス資源の悪用、サイバーセキュリティ、詐称行為(fraud)、Hubbing(ハブ設備を有料で利用させることにより通信トラフィックを他拠点で終端させることを指す)などについて、WCITへ向けて準備するよう勧告。
理事会(2009年)
決議1312で、WCIT準備のための作業部会(CWG-WCIT-12)の設立を決議。
全権委員会議10(メキシコ・グアダラハラ)決議171(2010年)
CWG-WCIT-12に対し、各地域で開催される準備会合の結果を考慮に入れるよう求めるとともに、国際条約に含めることの妥当性を検討するよう求めた。

ITR改定に対するインターネット業界の反応

ITUでは近年、全権委員会議や各部門の総会など、さまざまな会議体でインターネットに対する関与を強める意図を持つ決議案が提出されており、ISOC (Internet Society)やRIRなどインターネット関連団体では、動向を注視しながらこれに対応してきました。関与を強める意図を持つ代表的なものとして、IPv6アドレスをITUを通じて分配するスキームが議論された、IPv6グループがあります※7。これらの意図はいずれも実現するには至っていませんし、今回のITR改正に関してもこれと同様な動きといえますが、決定される内容は 「条約」として拘束力を持つ※8ということで、より一層大きな関心が寄せられています。

ITRの改定については、ITUの閉鎖性にも批判が集まりました。ITUでは一般に公開される文書は限られており、会議に対する寄書、決議文など政策決定に関する資料の多くは、加盟国およびセクターメンバーなどの会員限定で公開されています。ITR改定に関しても同様に、修正案が一般に公開されていなかったため、何がどのように変更されるのか一般からは分かりませんでした。そのため、ついにはWCITに関するリーク文書を公開するWebサイトが設けられる、メディアによる憶測記事が多くなるなどの弊害が出てきたため、ITUでは2012年7月4日から13日まで開催されたITU理事会会合で、ITR改定の提案をまとめた文書(TD64と呼ばれます)を公開し、これに対して広く一般からの意見を受け付ける、オンラインコンサルテーションを実施することを決定しました※9

主な修正提案内容

ここでは、公開されたITR改定の提案をまとめた文書であるTD64“Draft of the future ITR”※10から、主な修正提案の内容を示します。提案は、ITRの各条項に対する変更、削除、または変更や削除の提案に対する対案としての無変更、あるいは新条項の追加という形で示されます。

(1)電気通信の定義

  • ITRの対象とされているのは電気通信(Telecommunications) ですが、この用語を電気通信と情報通信技術(Telecommunications/Information and Communication Technology)と置き換える、あるいは電気通信の定義の中に情報処理(processing)を含める提案(CWG/4/48、CWG/4/49(TD64における提案通番、以下同様))もなされており、これが採択された場合にはITRの適用範囲はオンラインサービス一般に大きく広がることになります。

ただしこれには対案として、文言を変更しない提案(CWG/4/45)、ITU憲章1012条に定義が存在することを理由に条項自体を削除する提案(CWG/4/46)もあり、TD64の中でも加盟国間の意見の対立が明らかです。

(2)セキュリティ関連

  • サイバーセキュリティに関しては、ITU-T勧告で定義される、インターネットを含む電気通信設備もしくは技術を使った迷惑メール、マルウェアなども設備や人員に対する危害と解釈すべきという提案があります(CWG/4/173)。
  • ルーティングセキュリティにおいて、「加盟国はルーティングに関する規制をかける権利、およびルーティング情報を知る権利を有する」という条文の提案がなされています(CWG/4/119、120)。そのため、ルーティングに対する加盟国政府による規制につながる可能性があります。
  • また、セキュリティを理由として、発信者の特定を強化する提案も多数あります(CWG/4/142、153)。
  • ネットワークセキュリティへの対応として、加盟国による積極的な関与(パトロールおよび法執行)を求める提案については、セキュリティに名を借りたコンテンツ規制につながる可能性があります。

なお、各国が電気通信を遮断する権利※11や、内容を当局へ通報する権利※12などはすでにITU憲章に存在しており、インターネットが範囲に含まれるかどうかは議論の余地がありますが、ITR改定がなくてもすでに行える状態にあると言えます。

(3)相互接続、相互運用性、課金

  • QoS (Quality of Service)について、加盟国は、ベストエフォート配送およびエンド-エンドQoS配送の両方を提供することによる国際IP相互接続の進展を促進しなければならないという提案がなされています(CWG/4/110、199)。
  • 国際的な電気通信接続の規定として、すべての当事者が双方向的な商取引の取り決めについて交渉・合意に至ることができるよう、加盟国が国単位で適切な方策を採ること、という提案が途上国より出されており(CWG/4/155)、商取引の合意に政府からの条件が付けられる可能性があります。
  • 課金に関しては、電話の相互接続に見られるような 送信者負担の原則の尊重を全電気通信に求める提案(CWG/4/116))、ITU-T勧告にしたがって課金方法を定義すべき(CWG/4/177)など、旧来の国際電気通信における課金方式を固持する提案がなされています。

(4)インターネット資源管理への影響

  • 番号、アドレス、名前、アイデンティティなどに関して、送信者詐称防止の観点から複数の修正提案がなされています。

これに関してインターネット業界からは、ITUによる資源管理に対する権限強化につながるか、という懸念も聞かれますが、ITUは、電話番号などITU-T勧告で規定されたものに留まるという見解を示しています。

同じ条項に対して複数の提案が挙がる場合は、これらの提案について、それぞれ採択・非採択を議決する形をとります。同じ条項に対する複数の提案はしばしば対立する内容となることがありますが、それらの中からどれか一つを採択する議論は、非常に難しいと想像されます。

加盟国のITR改定に対するスタンス

日本政府のスタンスは、2012年5月12日に発表された 日英の「インターネット政策課題に関する共同声明※13」 に表れており、

  • インターネットガバナンスに対する現状のマルチステークホルダーアプローチの支持
  • グローバルな情報の自由流通の維持

が掲げられています。

また、本件に関する情報ページを開設する※14とともに、2012年9月12日にはインターネット関連部分に関する一般向けの説明会を実施するなど、周知にも努めています。

米国は、ITR改定全般に反対の姿勢を積極的に示しています。また西ヨーロッパ諸国も一部セキュリティ関連で提案に賛成している部分もあるものの、おおむね改定に消極的です。

アジア・太平洋電気通信共同体(APT)では、改定に積極的な国(中国など)もある中、結果としてITR改定、および迷惑メールや詐称行為などを定義として入れることのいずれも支持しないことが決議されました。これは日本政府代表による積極的な調整の結果と言われています。

一方、旧ソ連諸国、アラブ諸国、アフリカ諸国などは改定に積極的で、特にロシアをはじめとする旧ソ連諸国による提案には、個人情報、詐称行為、迷惑メールなどを含めること、ITRがすべての運用者およびサービス主体に適用されるように変更すること、および通信コンテンツが国家主権および国家安全保障を侵害しないようにするための文言の提案などが含まれています。

インターネット関連団体のスタンス・動き

加盟国ではないISOC、RIRなどインターネット関連団体も、加盟国担当者との対話を進めるITU関連会議に参加して状況把握に努め、情報提供を行うなど、積極的に活動しています。

JPNICも会員として加盟しているISOCは、ITU-TおよびITU-Dセクターメンバーとして以前からITUの動向を追っており、今回も早い段階からWCIT準備プロセスに関与し、ITRについての情報収集と提供を行ってきました※15。ISOCの担当者は米国議会公聴会でも「ISOCは、インターネットが開かれたものであり、『皆さんによって』定義されるものであり続けることを支援します」と証言しています。

APNICおよびARINをはじめとするRIRは、ITU-TまたはITU-D、およびその両方のセクターメンバーとして、WCIT準備プロセスに関与し、情報収集と情報提供を行っています※16※17

おわりに

インターネットコミュニティの大きな関心を呼び、情報公開や一般からの意見の受け入れなど、今までとは異なるオープンプロセスを取り入れたITR改定ですが、オンラインコンサルテーションの意見募集が11月3日に締め切られ、あとはWCIT会期に向け事務総長と加盟国の間の調整に委ねられたと言えます。

ITU事務総局の考えとしては、ITR改定の狙いは、情報の自由流通に障壁を設けることではなく、セキュリティ、国際携帯電話ローミング料金の低廉化、インフラへの投資拡大が狙いだということ※18ですが、提案を提出する加盟国のそれぞれの思惑もあり、事務総局の狙いがそのまま達成されるとは限りません。

また、ITUにおいては、加盟国1国1票による票決という機構が用意されながら、数少ない例外を除いて「コンセンサス」によって意思決定がなされるという事情があります※19。したがって、今回の改正提案に対して反対意見も多数表明される状況などから、現状を大きく変える結果となる可能性は高くないものと思われます。一方で、今回のWCITであまり実のある成果がない場合には、ITR改定自体を仕切り直すべきだという声も上がりかねないため、加盟国の間では落としどころを探る折衝が、WCIT会期まで続くものと見られています。

今後のITU関連会議スケジュール

今後のITU関連会議のスケジュールは次の通りです。

  • 2012/11/20~29:世界電気通信標準化総会(WTSA、ITU-Tの総会)於ドバイ
  • 2012/12/3~14:世界電気通信会議(WCIT)於ドバイ
  • 2013/5/14~16:第5回世界電気通信政策フォーラム(WTPF)於ジュネーブ

ITUではWCIT以外にも会議開催が続きます。JPNICでは引き続きこれらの動きに注視し、情報提供に努めて参ります。

(JPNIC インターネット推進部 前村昌紀/山崎信)


※1 国際電気通信連合(International Telecommunication Union ; ITU)
http://www.itu.int/
※2 日本ITU協会が作成したITUの組織構成図
http://www.ituaj.jp/03_pl/itu/sosikizu.pdf
※3 http://www.itu.int/en/membership/Pages/sector-members.aspx
 
※4 関係者は「ウィキット」と発音しているようです。
※5 ITU憲章第5章25条1項
http://www.itu.int/net/about/basic-texts/constitution/chapterv.aspx
※6 http://www.itu.int/dms_pub/itu-t/oth/4C/04/T4C040000190001PPTE.ppt
※7 010年5月13日発行JPNICメールマガジンJPNIC News & Views vol.746 「ITU IPv6グループの設立経緯と現況について」2010/05/13
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2010/vol746.html
※8 ただしITU条約の32条B項には、管理規則改定の拘束を受けることに政府が同意できない場合に、その決定に対する留保を表明することができる、という規定があり、管理規則による拘束には一定の制限を掛ける余地はあります。
※9  ITUプレスリリース:Landmark decision by ITU Council on proposal for public consultation and open access to key conference document
http://www.itu.int/net/pressoffice/press_releases/2012/46.aspx
※10 http://www.itu.int/en/wcit-12/Documents/draft-future-itrs-public.pdf
※11 ITU憲章第6章第34条2項
http://www.itu.int/net/about/basic-texts/constitution/chaptervi.aspx
※12 ITU憲章第6章第 37条2項
http://www.itu.int/net/about/basic-texts/constitution/chaptervi.aspx
※13 http://www.soumu.go.jp/main_content/000157956.pdf
※14 http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/cyberspace_rule/wcit-12.html
※15 ISOCのWCIT情報ページ
http://www.internetsociety.org/wcit
※16 APNICのチーフサイエンティスト Geoff HustonによるITR改定に関するコラム
http://www.apnic.net/community/about/global/orgs/number-misuse
※17 ARINのWCIT情報ページ
https://www.arin.net/participate/governance/wcit.html
※18  2012年9月12日総務省「ITU世界国際電気通信会議(WCIT-12)に関する説明会」における総務省担当官の説明
※19 これが推し量れる条項として、ITU条約32章B 1条に、“As a general rule, any delegation whose views are not shared by the remaining delegations shall endeavour, as far as possible, to conform to the opinion of the majority.”とあります。

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