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ニュースレターNo.62/2016年3月発行

IP Version6の本格的な普及が着々と進行中

慶應義塾大学 環境情報学部 教授 中村 修

インターネットに接続される端末を識別するための情報がIPアドレス。 1990年初頭、各国で商用インターネットサービスが開始され爆発的にインターネットに接続される端末数が増えることが分かった段階で、 アドレスが32ビットでは、 すべての端末を識別することができなくなると想定され、 インターネットのエンジニアは、このアドレス不足に対応するための議論を始めました。 この原稿を2016年のお正月に書いていますが、 もう四半世紀前のことになるのですね。

アドレスクラス(クラスA、クラスBなど)を廃止し、 すべてのアドレスにプリフィクスをつけて利用するCIDR (Classless Internet Domain Routing)も、 アドレス空間の有効利用のために開発された技術の一つですが、 皆さまの多くがセキュリティのための技術だと思っているNAT (Network Address Translation)も、 このアドレス枯渇に対する一時凌ぎのために作られた技術なのです。

確かにNATを使うことで、「外への通信は可能で、 外からのアクセスができない」という状況を作ることができます。 家庭のような局所的な環境では有効な技術かもしれませんが、 CGN (Carrier Grade NAT)やLSN (Large Scale NAT)と呼ばれる、 ISPなど大規模な環境でのNATは、 パケットの受信者は誰から出されたパケットなのかをアドレスだけでは判断することができなくなってしまいます。 今、多くのISPがNATの利用を始めなければいけない状況になってきていますが、 これはまるで通信元を隠すためのTor (The Onion Router)をISPがやっているようなものです。 何らかの不正な通信を受信した時、 このパケットは誰から出されたものなのかを調べるためには、 パケットを送出してきたISPにどのようなアドレス変換をしたかを開示してもらわなければ、 送信相手が分からない状況になってしまいます。

インターネット・アーキテクチャは、知性はエンドノードが持ち、 中継ノードは送信相手までベストエフォートでパケットを配送するという設計思想(デザイン・プリンシプル)なのです。 このシンプルなデザインが、 地球上のすべてのデバイス間での情報交換が可能なスケールの問題を解決し、 また、通信を中継する者が、 エンド-エンドの通信に手を入れないことによる“通信の自由”を確保しています。 Googleが積極的にIPv6を推進している理由は、 このインターネット・アーキテクチャ、 特に“通信の自由”の重要性を理解しているオピニオンリーダーだからじゃないかと、 ぼくは勝手に理解しています。

IPv6への移行は、 インターネットエンジニアにとっては大きな作業ですが、昨年、 そして今年2016年は大きなターニングポイントになってきました。 Googleは、 YouTubeをはじめほとんどすべてのサービスをIPv6で提供しています。 2015年末には、Googleの利用者の10%がIPv6となりました。

現在端末側のIPv6の実装は、 ほとんどのものがIPv4/IPv6のDual Stackになっています。 MicrosoftのWindows、AppleのOS X、 GoogleのAndroidなど主だったOSがIPv6のサポートをしています。 Dual Stackの場合、 実際の通信にIPv6を使うかIPv4を使うかの選択をすることになるのですが、 最近のトレンドは、Happy Eyeballsと呼ばれる技術で、 IPv6とIPv4のセッションを同時に確立しにいき、 先にセッションが確立されたものを使うという実装です。 昨年Appleは、Happy Eyeballsの実装で、 IPv6を優先して利用するという新しい実装を行うとアナウンスしました。 どうやってIPv6を優先させるのかというと、 IPv4のセッションを確立できても、 もしかしたらIPv6のセッションも確立できるかもしれないので、 IPv6のセッションが確立できるかできないかを判断するために、 IPv4のセッションの利用前に、 ほんの少しの時間ですが待ち時間(遅延)を入れるというものです。 これは逆に言えば、IPv4の通信の場合、 必ずIPv6のセッションが張れるかもしれないことを確認するための待ち時間が内包されるというものです。 また、Appleは、 アプリの審査にIPv6対応を条件にするというアナウンスもしています。

日本では、IPv6普及・高度化推進協議会を中心に、 IPv6普及に向けて活動してきました。 特にISPのIPv6への対応は、大手ISPを中心にcoreの部分のIPv6化は、 ほとんどが終了している状況です。 しかし、利用者へのIPv6サービスの展開という意味では、 その数が多いこともあり大変な作業となります。 KDDIは、 自社光ファイバ網を利用したauひかりのサービスのIPv6化を完了しました。 日本では、 NTT東西の光ファイバ網を足回りに使っているISPが多いのですが、 NTT東西のNGN網を利用したIPv6の提供が可能となり、 現在ISP各社が利用者に対してデフォルト(追加料金無し)でのIPv6化のための作業を行っています。 OCNを提供するNTTコミュニケーションズは、 2014年度からいくつかの地域でIPv6化の作業を始め、 2015年度は本格的な展開が予定されています。 2015年末には、 NGN網を利用しているインターネット利用者の10%がIPv6で通信できる環境になりました。

また2015年末、 総務省で開かれている「IPv6によるインターネットの利用高度化に関する研究会」の第4次報告書案に対するパブリックコメントの意見募集が公開されました。 本報告書案の中には、 2017年に「Mobile IPv6 Launch」に向けて携帯網の本格的なIPv6サービスの展開が示されています。 これは、 「現在のインターネット利用者の多くがスマートフォンを利用した携帯網からのアクセスであり、 この部分もしっかりIPv6化していきましょう」という流れです。

ここに示したように、 今年2016年はIPv6の普及にとって大きな変化の年となると思います。 インターネットの健全な発展をぜひ皆さま方と一緒にサポートできればと思っています。


執筆者近影 プロフィール●中村 修(なかむら おさむ)
慶應義塾大学環境情報学部教授。 IPv6普及・高度化推進協議会 常務理事。 1987年より大規模広域ネットワークの研究プロジェクトであるWIDEプロジェクトに参加し、 インターネットに関する研究をおこなう。 2006年より慶應義塾大学環境情報学部教授。 WIDEプロジェクトボードメンバー、W3Cサイトマネージャー。

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