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ニュースレターNo.63/2016年7月発行

インターネット重要資源の管理機能を監督する権限を、米国政府が手放します~ IANA機能の監督権限移管を取り巻く動向~

「米国が、インターネット重要資源の管理機能(IANA機能)の監督権限を手放す」、インターネット関係者に、そんなニュースが伝えられました。2014年3月14日のことです。米国商務省電気通信情報局(NTIA)が、自身が持つIANA機能の監督権限を「グローバルなマルチステークホルダーコミュニティ」に移管する意向を発表したのです。ここからすべてが始まり、どう移管するのか、できるのかを取り巻く議論はその後、約2年続きました。2年後の本稿執筆時点では、米国政府から権限が移管される「グローバルなマルチステークホルダーコミュニティ」が策定した移管に関する提案がNTIAへと提出され(2016年3月10日)、NTIAがそれで移管しても問題ないのか、提案を審査しているところです。

この監督権限は、さまざまなインターネットガバナンスの観点から、議論の端緒となるところであり、コミュニティへの移管が実現されれば、インターネットの根幹とも言うべきところの監督権限が米国政府から民間へ移管されるものとして、歴史的な動きでもあります。また、NTIAからの移管条件を満たす提案の策定に、果たして「グローバルなマルチステークホルダーコミュニティ」なるものが成功するのか着目している関係者もいます。一般紙を含めた世界中のメディアでも着目されており、国内では2016年3月30日に、ICANN (The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)のアジア太平洋地域拠点の責任者Jia-Rong Low氏の来日と合わせて、JPNICが報道陣向けイベントを開催し、国内のメディアでも紹介されました。

本稿では、コミュニティによる提案策定が完了し、移管に向けたプロセスが一区切りを迎えた今、本件に関する背景、検討経過、提案内容、最新動向を紹介し、これがどのような意味を持つのかあらためて確認します。

IANA機能監督権限の仕組み

まず、IANA機能とNTIAの役割を今一度確認します。

IANA機能とは、インターネットの通信時に「識別子」として利用される①ドメイン名、②番号資源(IPアドレス、AS番号)、③プロトコルパラメータの一意性を担保するため、これら三つの資源の源泉台帳管理を行っている機能(レジストリ機能)を指します。インターネットは無数のネットワークが相互接続された総体であり、自律・分散・協調を旨として機能していますが、IANA機能だけは、通信における識別子の一意性を担保するため、世界的に一元管理される必要があります。IANAのWebサイトより各資源の管理状況を確認可能です。

このIANA機能は、歴史的な経緯からNTIAからの委託によってICANNが実施する形を採っており、この委託契約に基づく業務監督権限(3年ごとに公募・委託先選定)をNTIAが有しています。監督権限の中で特筆するべきは、DNSルートゾーンの内容変更に関して、NTIAが承認権を持っていることです(ただし、NTIAは事務的な手順であるとしています)(図1)。

図1:権威ルートゾーンの管理プロセス
図1:権威ルートゾーンの管理プロセス

移管の背景

インターネットが世界中に広がり社会基盤となっていく中で、その重要な機能に関する監督権限を、歴史的な経緯とはいえ米国政府が担っていることへは、継続的に疑問が表明されてきました。その中でもDNSルートゾーンの内容変更の承認権に関しては、ccTLDの安定運用を左右しかねないとして、懸念を示す声もありました。

NTIAは2014年3月の声明の中で、監督権限移管の意向を「米国政府が1997年に示したDNS民営化の最終段階」と位置づけ、1998年のICANN設立当初から目標であったとしています。その一方で一部には、2013年に発覚したスノーデン事件によって失墜した、米国や米国インターネット業界に対する信頼を取り戻すために、上述した懸念を解消する方向に米国政府が動いたのではないか、との観測もあります。

いずれにしても、NTIAの意向表明で示された提案に求められる要件には、「米国政府に代わる政府主導または政府間機関による体制につながる提案は認めない」ことをはじめとして、インターネットのグローバルな性質と親和性がある要件が並んでおり、ICANN設立の契機となったホワイトペーパーに示された、「グローバルなコミュニティによるIANAの運営」という方針を支持するものと言えます。

コミュニティによる移管後体制の検討

NTIAの意向表明で指定された通り、移管後の体制を検討する呼びかけ人となったICANNは、検討の取りまとめに責任を持つICG (IANA Stewardship Transition Coordination Group)というグループを、さまざまな立場の代表者30名によって組成し、検討を開始しました。ICGは、IANA機能の三つの資源に密接に関連した各コミュニティ(①ドメイン名:ICANN、②番号資源:地域インターネットレジストリ(RIR)、③プロトコルパラメータ:IETF)に、各資源の立場からの提案策定を依頼し、それらを統合することで一つの提案にまとめました。各資源コミュニティはそれぞれ、提案検討のためのチーム編成を行いました。例えば番号資源では、CRISP (Consolidated RIR IANA Stewardship Proposal)チームという検討チームを、五つのRIRコミュニティからの代表者で構成し、筆者はそのチェアとして番号資源提案の策定にあたりました。図2に、検討体制を図示します。

図2:コミュニティによる提案策定プロセス
図2:コミュニティによる提案策定プロセス

これらの資源コミュニティは、今日までそれぞれの資源に対する標準化やポリシー策定を、専門性を持ちながらも、参加を誰にでも開いた形で、責任を持って担ってきました。また、これらのコミュニティは基本的にはそれぞれ独立しています。そのため、IETF、RIR、ICANNに関わるコミュニティと、より広義での関係者が力を合わせて同じ目的に向けてIANAの移管後体制を検討し、提案策定作業を行ったことは、今回が初めてのことです。今回の検討は、提示された課題に対して、トップダウンではなく、それぞれ異なる立場のコミュニティがボトムアップで自律的に取り組んで解決することが可能であるということを、提案という具体的な成果で示すことに成功しました。関係者自身が体制や政策の検討を進めるというインターネットコミュニティのあり方と、その有効性を、そうした進め方に対して懐疑的な方々にも指し示すことにつながったとも言えるでしょう。

IANA機能監督権限移管提案の概略

各資源コミュニティの提案をICGが取りまとめるという形で進めた移管後体制の検討は、2015年10月に完了しました。図3に図示します。

図3:IANA監督権限移管前と移管後の比較
図3:IANA監督権限移管前と移管後の比較

一見複雑ですが、NTIAに代わり、IANA各資源の方針検討に責任を持つコミュニティが、IANA機能運営者であるICANNとの契約に基づいて、その資源に対するIANA機能の監督を行うというのが特徴です。ドメイン名に関しては、「方針検討」と「IANA機能運営」という切り離すべき役割が同組織の中にあることになるため、IANA機能を運営する部局を完全子会社として別会社(PTI: Post Transition IANAと呼ばれています)に分離し、他の資源と同様、契約に基づく監督権限を実現することになっています。また、ゾーンファイル内容変更の承認は、NTIAに替わる役割は設けられません。こうして、IANA機能の監督に関して特別な機関に頼ることなく、関係者自身によって、オープンでボトムアップなコミュニティによる、グローバルインターネットの運営が実現することになります(図4)。

図4:移管後の監督体制
図4:移管後の監督体制

移管後体制の検討から浮かび上がった、ICANN説明責任強化

移管後体制の検討が始まって間もなく、別の観点での問題が浮かび上がってきました。ドメイン名コミュニティから、ドメイン名に関する移管後体制検討の途上で、IANA機能の運用に関わるICANNが、監督権限移管後も信頼に足る組織であることが重要であるという観点から、ICANNの説明責任機構強化の必要性が叫ばれ始めたのです。これに関して米国政府も同意し、NTIAに代わる移管後のIANA監督体制に加え、「ICANNの説明責任機構強化に関する提案」も提出が求められることになりました。ICANNではこの検討のために、「ICANN説明責任強化に関するコミュニティ間作業部会」(Cross-Community Working Group on Enhancing ICANN Accountability, 以降CCWG)が組成され検討を行い、2016年3月に機構を強化する提案が完成、ICGの移管後体制提案とともにNTIAに提出されました。今までICANN運営に掛かるすべての重要事項を決定していたICANN理事会を優越する権限を持つコミュニティ代表体を設けることで、機構を強化することを旨としています。提案概要は次の囲みをご確認ください。

ICANN説明強化に向けた提案:

  • 現在、ICANNに関わる重要な理事会の決議にコミュニティとして意義を唱える仕組みはないため、意義申し立ての仕組みを提案(定款変更の棄却、ICANNの戦略・運用計画・予算案の棄却、理事会メンバーの退任、理事会全体の解任)。
  • 想定自体へのシミュレーション(ストレステスト)をし、移管後のICANNがそれらの事態に対応できることをNTIAおよび米国議会へ示す。
  • 提案の施行として、ICANNの付属定款(Bylaws)の変更と、独立評価プロセス(IRP)・決議再考プロセス強化を伴う。

提案提出以降移管完了までのプロセス

上述のように、現在コミュニティによる提案提出が完了し、米国政府および議会による確認作業が進んでいるところです。今後、この確認を経て提案された体制の実装と移行という流れになりますが、プロセスが長引き、2016年末の米国大統領選後に新政権を迎えた場合、その政権で方針が変わる可能性も見越して、多くの関係者はNTIAとICANN間のIANA業務委託契約満了のタイミング(2016年9月30日)までの移行完了をめざしています。既に、NTIAによる確認完了を待たずに、着手できるものから実装・移行準備は進んでおり、例えば番号資源提案部分の実装は、ほぼ完了しています。

米国の動向

2016年9月までに移行完了するには、米国政府および議会における確認作業が円滑に進むのかが鍵を握ります。

まず、当事者であるNTIAはかなりのコミットを示しています。NTIA長官Lawrence Strickling氏は移管の意向発表後、すべてのICANN会議に出席、議論を追い、関係者と交流し、2014年10月のICANNロサンゼルス会議にはPenny Pritzker商務省長官も出席し、移管の意義について演説を行いました(本稿執筆後、6月10日に米国政府(NTIA)が提案を受け入れる旨の審査報告書を公開しています)。

一方の米国議会では、2015年に、上院の通商科学交通委員会に「オープンなインターネット保護のためにIANA機能の監督権限移管を阻止する」とするDOTCOM法案と呼ばれる法案が上程されましたが、廃案となりました。2015年以降、上院および下院委員会の公聴会が複数回実施され、ICANN事務総長、NTIA長官、その他関係者が証人として招致され、議員による状況ヒアリングが行われています。米国の主要な業界企業は、議会への影響力も及ぼしうる立場にありますが、グローバルビジネスを行う上で米国に対する信頼回復の観点から、移管への支持を共同で表明しています。このように、全体的には不安材料が少ないとは言え、予断を許さない状況です。

おわりに

ここまでIANA監督権限の移管に関して、2014年3月から現時点までの状況をまとめてきました。米国の動向を注視しながら、移管が円滑に進むことを願っている、というのが執筆時点の状況です。本稿には収めませんでしたが、CRISPチームチェア、CCWGメンバーとして、細かな調整や実装に向けた作業も進んでいることが見えています。

提案内容のところで述べた通り、歴史的経緯によって米国がIANA機能の監督権限を持つという建て付けから、本来のインターネットが指向する、関係者自身が運営に関与し責任を持つという体制への移行が完了すると、まさに歴史的な出来事だと言えます。

それだけでなく、移管後体制の検討やそのプロセスにも、非常に大きな意義がありました。グローバルなインターネットコミュニティは、このような歴史的な体制変更に関して、今までに構築してきた方針検討体制をもって臨み、三つの資源コミュニティが一丸となって一つの提案を完成させました。これにより、現状のコミュニティの体制がインターネット基盤運営の最重要課題に対しても、十分に機能することを証明し、このこと自体が、IANA機能監督という新たな責務の遂行能力を示す結果になったと思います。

また、この検討プロセスに多くの方々が関わったことも、素晴らしい成果と言えます。ICGの提案に対するパブリックコメント募集の際には150件以上の意見が寄せられましたが、アジア太平洋地域から、特に日本からも積極的な意見表明が行われ、日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)の呼びかけによる表明意見への賛同92名の他に、産業界、政府などからの意見も提出されました。こういった寄せられる高い関心を、今後インターネット基盤運営に対するさまざまな議論の盛り上がりにつなげていきたいと考えています。

(JPNICインターネット推進部 奥谷泉)

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