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ニュースレターNo.64/2016年11月発行

インターネット史に残る歴史的な第一歩 ~ IANA監督権限の移管がついに実現 ~

はじめに

2016年10月1日は、インターネットにとって歴史的な日付となりました。ドメイン名、IPアドレス、プロトコル番号のいわゆる「インターネット資源」の台帳管理を行うIANA (Internet Assigned Numbers Authority)機能に関して、インターネットの黎明以来一貫して持っていた米国政府の監督権限が、ついにグローバルなインターネットコミュニティに移管されたのです。

JPNICではこれまで、このニュースレター、メールマガジン「News & Views」、ブログなどのチャンネルや、日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)会合をはじめとするさまざまなイベント開催を通じて、このIANA監督権限移管に関して情報提供を行ってまいりました。本稿ではその総まとめとして、IANAとその監督権限、そして、今回の移管に関する背景や流れをご説明します。

なお、これまでのIANAの歴史を振り返りつつまとめた、移管実現までに関連団体各所から公開された報告書や声明文などへのリンクを含むより詳しい情報を、JPNIC Webの下記のページにまとめています。本誌面には限りがあるため、こちらも併せてご参照ください。

IANA監督権限の移管について
https://www.nic.ad.jp/ja/governance/iana.html

IANA監督権限とは何か

インターネットは、世界中のさまざまな人々によって運営されるネットワークが相互接続された総体であり、その総体を単一の組織ではなくさまざまな人々が分散、協調して運営管理するというのが特徴です。その中で例外的なものが、インターネット上で多対多の通信を実現するためのプロトコルの標準化と、インターネット上で通信主体を識別する識別子である、IPアドレスとドメイン名の資源管理です。IPアドレスは五つの地域インターネットレジストリ(RIRs)によって管理を分担し、ドメイン名は階層構造になっていることでルートゾーンとTLDそれぞれの管理を別々に分担できるようにするなど、できるだけ分散協調で管理されるようになっていますが、これらの大元の台帳を管理することだけは、単一の組織でしかできません。他にも多数の要素がなければ決して動かないインターネットの中で、一つだけある集中管理機能がIANAということです。

インターネットは米国が発祥であり、研究ネットワークの開発、相互接続に端を発しています。これら黎明期の開発やネットワーク運用には米国の予算がつぎ込まれており、NIC (Network Information Center)機能と呼ばれる識別子管理に関しても例外ではありませんでした。これに動きがあったのは、1990年代半ばのことです。商用化するインターネットにおけるドメイン名管理の問題について、グローバルな広がりで議論が行われる中で、1998年に米国はIANA機能全体を民間に移管することを提案します。つまり、それまでのIANA機能は米国政府からの委託により運営されていたという立場を採った上で、民間の新会社による運営に移行されることが好ましいとしました。この新会社がICANNで、1998年に設立されました。

米国政府は民間への移管を見守りつつ、それまでは共同で運営を行うためとして、ICANNとの間でIANA契約を結び、米国政府からの委託という形で、IANA機能をICANNが運営する形を採りました。この見守りの期間は当初「最長で2000年9月30日まで」とされていましたが、結局、当初の想定を16年間先伸ばしにしたということになります。米国政府側の担当部局、商務省電気通信情報局(NTIA)は、こういった委託契約の常として、IANA機能の業務遂行に関しては報告義務をICANNに課し、NTIAはこれを承認する立場にありました。このように契約に基づいた関係が、IANA監督権限と呼ばれるものの実態です。

インターネットに対する米国の特別な地位への不満

他にも多数の要素がなければ動かないとはいえ、インターネットの中で一つだけしかない集中管理機能であるIANAに対して監督権限を持つ米国は、インターネットに対して特別な地位を占めることになりました。これは、2000年以降の全世界的なインターネットの広がりの中で、他の国々から度々批判されることになり、「インターネットガバナンス」という言葉でさらに大きな議論を呼んでいくことになります。2003年と2005年の2度開催された世界情報社会サミット(World Summit on Information Society, WSIS)では、ICANNを監督する新たな組織の創設も俎上に載せられました。しかしながら、結局そのような監督組織の創設は実現せず、替わりにインターネット政策に関する非拘束の対話の場として、インターネットガバナンスフォーラム(IGF)が創設されました。つまり、インターネットに対して米国が占めていた特別な地位は、結果として1998年以降一切変わらず、本件に関する米国への不満は一部の国でくすぶり続けました。

そのような状況の中、2014年3月14日、NTIAはIANA機能に関する監督権限を手放す意向を表明しました。なぜNTIAがこのタイミングでこういう意向を表明したかに関して、客観的に示すことはできないのですが、一説には2013年に発生した、いわゆるスノーデン事件が引き金になったのではないかと言われています。スノーデン事件とは、米国国家安全保障局(NSA)の職員であったエドワード・スノーデン氏が、NSAが広範に通信傍受を行っていたとする資料を暴露した事件です。これによって、「情報の自由流通」を国家的な政策として掲げる米国と、その米国のインターネット業界に対する世界からの信用が失墜し、これを挽回するための一つの方策として、各国からの不満がくすぶっていたIANA監督権限を返上したのではないか、という見方です。

このNTIAによるIANA監督権限移管の意向表明から、実際に移管が完了するまでの動きを、年表としてまとめると次のようになります。以降、この年表に沿って、時系列順に振り返ってみたいと思います。

※右端の数字は本文中の記述に対応
2014.3 NTIAがIANA機能に関する監督権限を手放す意向を表明 【1】
2014.7 ICG設立。移管後体制の提案策定に向けた検討を開始 【2】
2015.10 ICGが移管後体制の検討を完了 【3】
2016.3 ICANNの説明責任強化に関する検討が完了。移管後体制と併せて統合提案としてNTIAに提出 【4】
2016.6 NTIAが移管後体制の提案に対する審査報告書を公開 【5】
2016.8 ICANNが移管実施準備に関する進捗報告書をNTIAに提出 【6】
NTIAが移管実施に向けたIANA契約終了の意向を発表 【7】
2016.10 IANA監督権限の移管実施 【8】

インターネットコミュニティによる提案策定の取り組み

2014年3月14日のNTIAの声明【1】を受け、コミュニティによる移管後体制検討の呼びかけ人に指名されたICANNは、ICANN会議の機会も活用してコミュニティの意向を聞きつつ、検討体制固めを急ぎました。結果的に、IANAに関連するあらゆるステークホルダーを含む30人からなる IANA Stewardship Transition Coordination Group (ICG)を2014年7月に組成し【2】、このICGが提案の取りまとめを行うこととしました。取りまとめと書いたように、ICGは自身で検討を進めるのではなく、IANAが管理する3資源の方針策定を行うそれぞれの運用コミュニティに、それぞれの資源に関する提案を検討するように依頼しました。三つの運用コミュニティとは、IPアドレスをはじめとする番号資源に関する五つの地域インターネットレジストリ(RIR)、ドメイン名に関するICANN、プロトコルパラメータに関するIETFです。依頼は2014年8月に行われ、2015年1月15日が締め切りとされました。IANA契約はもともと2015年9月30日が満了日であり、2015年1月15日という締め切りは、同年9月30日には新たな体制の実施準備も含め完了することを想定した上でのものです。

三つの運用コミュニティはその後、それぞれの提案策定に取り掛かりました。

RIRsは、5地域からの代表15人からなるCRISPチーム(Consolidated RIR IANA Stewardship Proposal Team)を組成し、番号資源に関する提案の取りまとめを行うことになりました。このCRISPチームに対して、JPNICインターネット推進部の奥谷泉はアジア太平洋地域の代表として指名され、なおかつCRISPチームのチェアに選出され、その任に当たりました。

IETFは技術標準の策定と同じ要領で、ianaplanというワーキンググループを組成し、インターネットドラフトの形で提案を起草し、検討を行いました。

ドメイン名に関しては、ICANNの中にある支持組織と諮問委員会の代表からなるコミュニティ横断ワーキンググループ(CCWG)を本件に関して組成して、検討を行いました(CWG-Stewardshipと呼ばれました)。ドメイン名に関する議論の中では、コミュニティメンバーから、ICANN自身の説明責任機構を整備する必要があるとの声が高まり、NTIAも説明責任機構整備に関する提案も移管後体制提案に含めるように求めました。ICANNはこれに関して別のCCWGを組成し(CCWG-Accountabilityと呼ばれました)、それぞれが検討を進めました。

番号資源とプロトコルパラメータの提案は、ICGが設定した締め切りの2015年1月15日までに提出されましたが、ドメイン名の提案は、多岐にわたる関係者の間での意見集約に時間が掛かったため、完成が2015年6月にまでずれ込みました。このため、2015年9月30日のIANA契約満了日までに移管実施準備が整うめどが立たなくなり、IANA契約は1年間延長することになりました。

ドメイン名提案の提出を待ってICGが統合した移管後体制の提案は、2015年10月29日に完成しました【3】。この時点で、同時に提出する必要があるICANNの説明責任強化提案に関しては、CCWG-Accountabilityの作業完了を待つという状態でした。ICANN説明責任強化の提案は、最終的に2016年3月までに出来上がり、同月に開催されたICANNマラケシュ会議の会期中2016年3月10日に、ICGによる移管後体制提案とともにICANN理事会の承認を受け、同日、NTIAに二つ揃って提出されました【4】

移管後体制の要旨

移管後体制の要旨を簡潔に示すと、次のようになります。

プロトコルパラメータ:IETFとICANNの間で移管前からあった覚書の枠組みを用い、規定された業務の実施をIABが監督する体制

番号資源:RIRsとICANNの間でサービスレベル合意書(SLA)を新たに締結して実施業務を明確にし、RIRコミュニティに新設するレビューコミッティが業務実施を監督する体制

ドメイン名:ICANN法人の中にあったIANA部局を分社化して、ICANNから新会社への業務委託契約の中で業務内容を規定し、業務を監督する体制

なお、このうち番号資源に関するレビューコミッティは、各RIRからの代表3人ずつで構成されることになっています。APNICでは、NRO番号評議会(NC)のコミュニティ選出評議員が兼務すると定めたので、JPNIC理事でもある、日本電信電話株式会社(NTT)の藤崎智宏氏が務めることになっています。

また、ICANNの説明責任強化に関しては、支持組織や諮問委員会の代表からなるコミュニティ代表体に対して、理事の任免や重要事項の承認権、理事会決定の拒否権など、ICANN理事会に対して優越する権利を付託することがベースとなっています。

図:移管後の監督体制
図:移管後の監督体制

提案提出から移管実施まで

2016年3月10日に完成した提案がNTIAに提出された後、NTIAは同年6月9日に、「提案は移管要件を満たす」とする審査報告書を公開しました【5】。さらに8月16日には、進捗良好とするICANNからの実施準備進捗報告書を受けて【6】、「今後大きな障壁がなければ、9月30日に現状のIANA契約を終了し、移管を実施する」意向を発表していました【7】。ここまでは、インターネットコミュニティ側の準備、NTIAの反応ともに、9月30日の移管に向けて順調に進んでいました。

ここで「大きな障壁」として強く懸念されたのは、米国内の政治的状況でした。米国議会ではIANA監督権限移管に関して、共和党を中心とする移管反対派の活動が続きました。米国会計年度末となる9月に入ると、次年度予算未成立の場合には、10月以降の予算執行継続に決議が必要となります。そこでその仕組みを利用し、ここに喫緊に対応したい政策事項を決議案に対する付随事項として紛れ込ませることで対処するため、この付随事項の取捨選択をめぐって政治的な攻防が繰り広げられるようです。IANA監督権限移管は、この決議の付随事項候補の一つとなりましたが、結果的には付随事項に含まれない状態で、予算執行継続決議が上院下院で可決されました。9月28日のことでした。

しかしながら、これで話は終わりませんでした。同日9月28日に商務省とNTIAを相手取って、IANA契約を満了させず延長させることを求める暫定差し止め命令要求が4州から連邦裁判所に提出され、この審理結果によっては移管が差し止められる可能性が残りました。結果的に、要求は9月30日に却下されました。それを受けNTIAは、米国東部時間10月1日となった日本時間同日13時過ぎに、それまで16年間結んできたIANA契約の延長を行わなかった旨を伝える、短い声明を発表しました【8】

Statement of Assistant Secretary Strickling on IANA functions contract(IANA機能の契約についてのStrickling長官の声明)
http://www.ntia.doc.gov/press-release/2016/statement-assistant-secretary-strickling-iana-functions-contract

この声明が、ようやくIANA監督権限移管が成立したことを明確に知らせ、また米国が長らく有してきた権限を手放したことを明示的にした発表となりました。IANA監督権限移管提案に盛り込まれた機構を定める契約や覚書の多くは、IANA契約の終了によって効力を発するように定められていますので、この契約終了とともに、IANAの監督権限がグローバルなインターネットコミュニティによる機構に移管されることとなりました。この移管実現を受け、IANA契約の受託者であるICANNからも次の声明が発表されています。

Stewardship of IANA Functions Transitions to Global Internet Community as Contract with U.S. Government Ends(米国との契約終了に伴い、IANA機能の監督権限がグローバルなインターネットコミュニティに移管される)
https://www.icann.org/news/announcement-2016-10-01-en

「歴史的な第一歩」の意味

冒頭に述べた通り、NTIAが民間に移管するべきとしたIANA機能は、当初の想定であった2000年9月30日から実に16年の歳月を経て、ついに米国政府が監督権限を手放し、グローバルなインターネットコミュニティのものとなりました。当初、1998年から2年の想定であったものが、都合18年掛かったわけですが、その間のグローバルなインターネットコミュニティの取り組みは実にさまざまで、コミュニティによる資源管理の運営体制は、18年前とは比べ物にならないくらい進化しました。

APNICでアドレスポリシーSIGを通じたポリシー策定が始まったのが2000年で、その後コミュニティがボトムアップなアドレスポリシーの制定に取り組み、自分のものにしていきました。LACNIC、AFRINICが設立されたのはそれぞれ2002年と2005年です。ICANNは、2002年頃の大掛かりな組織改革に加え、定期的な組織改正を行い、さらにNTIAの移管意向表明後にも、説明責任機構の検討にたくさんの労力を費やして、2年半の期間を掛けてようやく移管後体制の検討が完了したのです。これらを踏まえると、結局、移管までの16年間は、必要な時間だったと考えることもできます。

体制検討と実施準備に費やした2年半は、番号資源、ドメイン名、プロトコルパラメータそれぞれのコミュニティが、今まで取り組んで整備してきた方針検討機構を活用した上で、さらに三つの性質の異なるコミュニティが協働した期間でした。前述した通り、CRISPチームチェアとなったJPNICの奥谷は、他のコミュニティとの調整や折衝にも当たりました。このように、三つのコミュニティが協力し合って、IANAの全体像を形作るということも、かつてないことでした。

このようなプロセスを通じて、NTIAの要件に合致する提案を作り上げ、さらに実施準備を円滑に進めることができたことは、関係者自身が方針検討や管理に関与するという、インターネットの運営精神に則ったプロセスの有効性を証明するものと言ってよいと思います。

そして、10月1日をもって、米国政府がIANA監督権限を手放したことで、これからはコミュニティ自身がIANA機能を監督する役目を担うだけでなく、その他一切の資源管理に関する責任を、コミュニティが負うことになりました。これが、本件が歴史的である理由です。「監督する人がいなくなった」というところから、「大人になった」と表現する人もいます。今までは、親とまでは言わないまでも、第三者が監督しているということで、何か安心感のようなものがあったかもしれません。これからは、大人ですから、すべて自分たちで責任を取っていく必要がある、ということです。この2年半の大仕事には大きな賞賛が寄せられ、コミュニティプロセスの有効性が証明されたと先ほども書きましたが、これからは作った機構を、万一不備があれば修正することも含めて、運用していかねばなりません。真価が問われるのはこれから、ということが言えるのではないでしょうか。

写真: 移管をお祝いするケーキ
● 会期中に移管当日を迎えたAPNICカンファレンスの会場では、移管をお祝いするケーキが用意されました

(JPNIC インターネット推進部 前村昌紀)


※IAB (Internet Architecture Board)
インターネットの技術コミュニティ全体の方向性やインターネット全体のアーキテクチャについての議論を行う技術者の集団で、ISOCの技術理事会としても機能し、インターネットを支える多くの重要な活動を監督しています

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