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ニュースレターNo.64/2016年11月発行

JANOG38ミーティングレポート 〜ゼロレーティングとネット中立性を考える〜

2016年7月6日(水)から7月8日(金)に、沖縄県那覇市でJANOG38ミーティングが開催されました。
筆者が一参加者として注目したJANOG38ミーティングの模様をご紹介します。

JANOG38ミーティングについて

JANOG38ミーティングは、株式会社オキットをホストとし、「“斬”新なプログラム」や「“斬”れ味鋭いディスカッション」の実現をめざして、「斬」をミーティングテーマとして掲げ開催されていました。ミーティングは大変盛況で、本会議の参加者は586名と最終日に発表がありました。非常に多様なセッションに加え、併設された34の企業展示ブースをスタンプラリーの形式で回る催しや、個々のセッションの結果を5段階で評価して投票するチケットが配布されるなど、趣向の凝らされた運営となっていました。

今回は、これらの多彩なセッションから一部をピックアップして、簡単にご紹介します。JANOGのWebサイトでは、ここに挙げたセッション以外にも、大変多くのセッションの資料が公開されていますので、次のWebページも併せてご参照ください。

JANOG38 プログラム
http://www.janog.gr.jp/meeting/janog38/program.html

ゼロレーティングを支える技術とローカルレギュレーション

JPNICの岡田雅之、奥谷泉がコーディネーターを務め、「ゼロレーティングを支える技術とローカルレギュレーション」と題して、日本ネットワークイネーブラー株式会社の石田慶樹氏、ノキアソリューションズ&ネットワークス株式会社の幡谷一哲氏、株式会社企のクロサカタツヤ氏によるセッションを行いました。

ゼロレーティングとは、モバイルなどの事業者で実施されていた、特定のアプリやサービスについては課金の対象としないという、サービス提供形態を指していましたが、転じて、インターネットアクセスサービスが提供される際に、通常の利用には課金が行われるが、一部のアプリ、サービスはアクセス料金が無料で提供されるといった、提供形態について用いられるようになりました。

ゼロレーティングを取り巻くもの

新興国などで、このような一部のサービスが無料という形態でインターネットが提供されることについて、その構築や利用の拡大が進むよい施策だという主張があります。一方反対派からは、利用コンテンツの偏りが起こり得ることから、インターネットが一部の利用に限定された形で提供されてしまうといった主張があります。ネットワークの中立性といった観点や、特に日本においては、これを実現する上で利用されうるDPI(Deep Packet Inspection)技術と、その利用に対する「通信の秘密」をどう保護するのかといった観点が、議論にて重視されるポイントと考えられると紹介されました。

通信の秘密については非常に長い議論が行われており、「当事者の個別かつ明確な同意があるか」「オプトアウトの用意があるか」「法令に基づく行為であるか」「正当業務行為であるか」などの要件を満たすかどうかが、重要なポイントとして挙げられました。

DPI技術と通信の秘密について

DPI技術の概要と、どのようなケースでゼロレーティングと関係するかという紹介がありました。DPI技術には、通信の秘密と絡めた否定的なイメージがあります。しかしながら、DPIは元々セキュリティの技術として開発されたもので、どの通信が安全なのか、セキュリティ的に危険なものかという判断を可能とする技術です。現在最も多いDPIの使われ方はマーケティングであり、トレンドをビッグデータと絡めて分析することにも利用されているという紹介がありました。

ゼロレーティングに類するエンドユーザーへの料金施策を実施する際に、何をトリガーとするのかを考えると、例えば電話では、0120から始まる番号により無料であると判断します。この場合、DPIは不要です。また、使うアプリケーションによって値段を変えるといった対応を取る場合、DPIでは経路上で通信には不要な領域のデータを見ています。しかしながら、これは通信内容そのものは見なくても実現可能ですので、これだけで通信の内容を見ているということになるわけではありません。DPIが通信の内容を見る必要がある例としては、会社の携帯電話で連絡を取る際、業務の連絡であれば無料、私用の連絡であれば有料、といった場合が挙げられます。

ゼロレーティングと中立性

産業構造の変化があり、ネットワークのオペレーターとプラットフォーマーが、それぞれ相手と連携する、またはその機能を取り込もうとする動きがあります。今回のセッションでは、LINE社が提供を予定している、最近話題のLINEモバイルをプラットフォーマーの例として取り上げていました。変化のポイントとなるプラットフォーマーの特徴として、自身もサービスを行う一方、サードパーティーのコンテンツ、事業者をどんどんと取り込み、「このプラットフォームの世界を利用すればどれだけ幸せになれるか」を消費者に語り、また、顧客接点をプラットフォーマーが持ち、顧客の認知やロイヤリティがプラットフォームにあることを宣言し、もはやただのオペレーターにはとどまらず、構造化されていると述べられました。ネット中立性ということ、垂直統合モデルがよいものであるのか、このようなモデルが消費者の利益を守ることになるのかということが、主に海外で議論されてきました。

最も活発に議論がされているのは米国で、米国連邦通信委員会(FCC)では、ネット中立性原則というものが三つ掲げられています。これは「ブロックの禁止」「差別的扱いの禁止」「透明性の確保」です。透明性の確保は、今まさに米国上院で議論がされている状態で、大統領選の行方によっても左右されると考えられています。米国では具体的な手段であるDPIについて、明確な規制はない状態です。他の国での例としては、新興国ではかなりゼロレーティングに積極的ですが、インドはゼロレーティングを制限し、ネット中立性を守る方針を打ち出しています。

日本では通信の秘密というポイントはありますが、最近話題となっているLINEモバイルの例ではその点はクリアされるのではないかということ、また、そうなると今後広く他の事業者が追従していくことも考えられることから、まさに議論が始まっている状況であるという紹介がなされました。

セッションは、登壇者それぞれの私見の提示から、会場参加者を交えた議論へと移り、非常に多くの意見が挙げられました。プログラムの概要および発表資料は、下記をご参照いただければと思います。

ゼロレーティングを支える技術とローカルレギュレーション
http://www.janog.gr.jp/meeting/janog38/program/zr
写真:会場の様子
● 今回のミーティングは“斬”がテーマでした

セキュリティオペレーション:みんなどんなの使ってるの?

ここからは、筆者が注目したその他のセッションを二つご紹介します。

セキュリティと一口に言っても、広範な作業、分野がありますので、それぞれの分野で多様なツールが利用されています。このセッションでは、セキュリティオペレーションの要素、人材育成に関連するトピックスの紹介と、チームメンバーに求められるスキルセットの整理、そしてセキュリティオペレーションで利用されるツールについて紹介され、議論を求めていくというものでした。セキュリティの実践的なツールとして、実行用の隔離環境を整備することや、リバースエンジニアリングなど含めたマルウェア解析が実施されることもあると紹介がありました。

また、その後に続いたBoF(Birds of a Feather)では、さらなるセキュリティ関係ツールの話題として、Vulsという注目されている脆弱性チェックツールについて、製作者を招いた紹介がありました。

セキュリティオペレーション: みんなどんなの使ってるの?
http://www.janog.gr.jp/meeting/janog38/program/sox

Root DNS anycast performance in South Asia & Japan

ルートDNSは、13のルートサーバのIPアドレスが、Anycast技術を利用して世界中に伝播されることで実現されていて、実際には数百のDNSサーバで構成されています。

そのAnycastのパフォーマンスについて、RIPE Atlasを利用して南アジア、および日本で実際にどのように動作しているかという調査の、結果報告がありました。レポートでは、ルートDNSサーバが存在する国であっても、リージョン内や海外のサーバを利用して通信を行うケースがあること、その割合の紹介がありました。

Root DNS anycast performance in South Asia & Japan
http://www.janog.gr.jp/meeting/janog38/program/ripe

おわりに

今回取り上げたゼロレーティングにまつわる議論に関しては、さまざまな意見がありました。
意見の中では、「現実を直視し、抗うというよりもどのように受け止めていけばよいのかを考える必要がある」ということや、「今までのビジネスモデルが本当によいのか、トラフィックに対するコストの負担について変えていく必要があるのではないか」という意見が挙がりました。また、「ゼロレーティングという枠組みですべてを議論するのではなく、通信の秘密とは分けて整理をした方がよいのではないか」など、多くのコメントがありました。

議論を受け、アクセス回線、バックボーン回線それぞれにキャパシティがある中、一部のトラフィックが優先制御されるということに不安があることが理解できました。利用者として多くの選択肢があり、また限定された利用目的向けの回線として用意することも可能である、MVNOなどのモバイルインフラでは問題は少ないかもしれません。しかし、地域や集合住宅の状況によっては選択肢が限定される、固定アクセス回線にもこのような動きが広まる可能性を考えると、個人として不安もあります。今後、一層動向の情報収集を行いたいと思いました。

最後になりましたが、ホストをはじめ運営に携わった方々には、沖縄という絶好のロケーションであることもありましたが、素晴らしいホスピタリティのご提供、大変ありがとうございました。少し降雨もありましたが、心配されていた台風の直撃もなく、沖縄のよさを実感する滞在となりました。

次回のJANOG39は、2017年1月18日(水)から20日(金)に、DMM.comラボ社のホストにて、金沢で開催ということで紹介がありました。冬の金沢ということで魅力の紹介がありましたが、どのようなセッションがなされるのか、今から楽しみです。

写真:会場の様子
● 懇親会には多くの方が参加していました

(JPNIC 技術部 佐藤秀樹)

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