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ニュースレターNo.74/2020年3月発行

次世代無線LAN規格Wi-Fi 6/IEEE802.11axとは~その特徴と利点~

1 無線LANとWi-Fi

無線LANとは、ケーブル無しでネットワークに接続する技術の一つです。 本稿では、無線LAN技術であるIEEE802.11シリーズを取り上げます。

Wi-Fiとは、IEEE802.11(以下802.11)シリーズの機器のうち、 業界団体Wi-Fi Allianceによって相互接続性試験にパスした認証機器に対して用いられる名称です。 無線LAN機器として一般向けに販売されているもののほとんどにはWi-Fiロゴが付いており、 消費者としての側面からは「802.11シリーズの無線LAN = Wi-Fi」と考えて差し支えありません。

無線LANは、現代のスマートデバイスにとって欠かせないものになりました。 一方で、セルラー網のように電波リソースが厳しく管理されている技術とは違い、 免許不要でカジュアルに設置できてしまう無線LANは、 根本的に安定運用が難しい面もあります。 次世代規格Wi-Fi 6(802.11ax)では、 過密化するデバイスやIoT機器に対応するために、 ネットワーク効率を重視した、 インフラとしてのネットワーク技術へと進化させる改善が盛り込まれています。

802.11シリーズといっても、電波の周波数帯や変調方式の低レイヤから、 認証や暗号などの比較的高いレイヤまでにわたる規格であり、 下位互換性を持って進化していることもあって複雑になっています。 図1

消費者にとって、 無線LANは唯一の「Wi-Fi」という分かりやすいブランドでしたが、 一方でどの802.11シリーズか分かりづらいということで、 Wi-Fi Allianceは802.11axに対して「Wi-Fi 6」という名称を策定しました。 Wi-Fi Allianceによる認証とIEEEによる標準化は、 技術的要件は若干異なる部分があります。

2014年に制定された802.11ac以前の課題が「Wi-Fiは有線より速度が出ない」だとすれば、 802.11axには速度競争よりも「Wi-Fiは不安定」「Wi-Fiは混雑する」といった課題に対応する内容が色濃く見受けられます。

図:無線LAN規格の推移
図1 無線LANに関する規格の推移

2 Wi-Fi 6/IEEE802.11axの特徴

802.11axでは、大量の無線LAN機器が密集するようなスタジアムや空港での、 スループット低下を改善する技術が盛り込まれています。

従来の無線LAN規格では、例えば干渉のない1対1の通信のような、 理想的な環境においての通信速度向上を主眼とした改善が行われてきました。 しかし、802.11axの標準化に向けた議論では、 クライアントが密集するような一般的なネットワーク全体のパフォーマンス向上が議題に登りました。 理想的な条件下での最大速度向上より、 一般的な条件下でのパフォーマンスを底上げした方がユーザー体験の向上につながるという考え方です。

大量の無線LAN機器といっても、 1台のアクセスポイントに多数のクライアントが接続されている場合、 スタジアムのように多数のアクセスポイントが集中コントローラにて管理されている場合、 また繁華街のように大量のアクセスポイントがバラバラに点在する場合など、 さまざまなケースが考えられます。 802.11axはいずれのケースでも、 パフォーマンス向上につながる技術が盛り込まれています。 802.11acでは混雑した2.4GHz帯はサポートから外されていましたが、 802.11axでは混雑していてもうまく通信できることを目標としたこともあり、 2.4GHz帯は再度サポートされました。

1台のクライアントのピーク速度よりも、 全体の伝送効率を重視するアプローチとなった802.11axは、 無線LANが単なる有線LANの代替ではなくインフラとして定着した証であり、 大きな転換ポイントと言えるでしょう。

3 OFDMA(直交周波数分割多元接続)

図:OFDMとOFDMA
図2 OFDMとOFDMAの違い

2009年制定の802.11nまでの無線LANにおいては、 1台のアクセスポイントに対して複数のクライアントが接続している場合、 順番待ちのように1台ずつ通信をしていました。 あたかも複数のクライアントが同時に通信できているように見えていても、 あくまでも無線リソースを時間で区切って割り当てているということです。 802.11acが普及した今日でも、この基本は変わっていません。 802.11axでは、これが大きく変わります。

従来の802.11シリーズでは、 無線の占有帯域幅を最小20MHz単位でチャネルを割り当てます。 無線機器はこのチャネルを1対1で利用し、 他のクライアントが通信中は待ち時間になります。 802.11axで採用されたOFDMAでは、 この一つのチャネルをさらに分割して複数のクライアントが同時に通信可能とし、 一つのチャネルで1対多の通信を実現します。

もう少し詳しく説明すると、802.11acと違うのは、 この20MHz幅の1チャネルを最大で8個のクライアントに対して分割して割り当てることです。 必要に応じてクライアントごとに使用する帯域幅を変更できるので、 無駄な空きも抑えられます。 もちろん、分割の必要が無い時には、 従来のように一つのチャネルすべての帯域を1台のクライアントに割り当てることも可能です。

従来の802.11シリーズは、待ち時間によるオーバーヘッドが大きく、 クライアントが高密度になればなるほど待ち時間が長くなるため、 周波数利用効率が低下していました(BSSカラーリングの項で後述)。 一般的な無線LAN通信におけるトラフィックでは小さなサイズのIPパケットがかなりの割合を占め、 小さなサイズのパケットを大量にやりとりする際の待ち時間が無視できなくなっていました。 OFDMAで複数のクライアントにチャネルを細分化して割り当てるということは、 当然クライアント1台あたりで利用できる帯域は減少します。 しかし、待ち時間の方がはるかに悪影響があるため、 このOFDMAにより大幅な低遅延化、混雑時のパフォーマンス向上が期待できます。 低遅延を要求するトラフィックには、 なるべく多くの送信機会を割り当てることも容易になります。 遅延が問題になりやすい音声トラフィックなどでの信頼性向上にもつながるでしょう。

一つのチャネルで同時に複数のクライアントと通信すると言えば、 802.11acで採用されたMU-MIMOを連想するかもしれません。 MU-MIMOは複数のアンテナと複数の伝搬経路を使い、 周波数としては同じものを使います。 対してOFDMAはあくまでもチャネル内の帯域を分割しており、 同じ周波数を同時に使うわけではありません。 空間の状況や電波信号品質に大きく依存するMU-MIMOと比較しても、 OFDMAは安定した高い実効性が見込めます。

4 アップリンクMU-MIMO

前述のようにMU-MIMO(Multi User MIMO)とは、 一つのチャネルで1対多の通信を実現する技術です。 ビームフォーミングで空いた場所に位置する無線機器には複数同時に送信しても干渉しにくいことを利用して、 空いたMIMOストリームのアンテナを使って同時に複数のクライアントへ送信します。 802.11acではダウンリンクMU-MIMO(アクセスポイントからクライアント)のみのサポートでしたが、 802.11ax Wave2では、アップリンク方向もサポートされます。 クライアントが応答する制御フレームも同時に送信できるようになります。

OFDMAと比較した場合、MU-MIMOはより帯域を稼ぐことができます。

5 BSSカラー

図:BSSカラーによる空き判定
図3 BSSカラーによる空き判定

802.11シリーズは一つのチャネルを共有する半二重通信であるため、 衝突回避のためのプロトコル「CSMA/CA(Carrier Sense MultipleAccess/Collision Avoidance)」が存在します。 まず「私の端末」自身が送信する前にはCCA(Clear Channel Assessment)と呼ばれる空きチャネル判定を行います。 他の通信中の電波が存在すれば待機し、 その電波の通信終了を検知後さらに一定時間待機して、 ようやく自身が送信できるようになります。 この送信機会の獲得は、高密度環境であるほど難しくなっていきます。

802.11axでは「他の通信中の電波が存在する」と判断するCCA閾値を柔軟に制御します。 多数のアクセスポイントが設置される環境では、 クライアントからは同一チャネルに複数のアクセスポイントが観測されることがあります。 そのクライアントにとっての通信相手は1台のアクセスポイントだけにもかかわらず、 無関係な「隣接アクセスポイント」の電波が送信されている時間も待たなければなりません。 さらに、アクセスポイント同士が十分に離れていて、 アクセスポイント同士では干渉が問題にならないケースでは、 この待ち時間は不必要かもしれません。

比較的遠くの無関係な隣接アクセスポイントの弱い電波であれば、 「他の電波が出ていない」として扱っても衝突にならないケースもあるでしょう。 自身が通信しようとしている相手との電波信号品質が高ければなおさらです。 BSSカラーと呼ばれる技術では、 物理層のフレームにカラーコードと呼ばれる識別子を持たせます。 通信中の電波を検出したら、フレーム全体を受信することなく直ちに、 その電波が自身と関係あるものか否かを識別するためにカラーコードを利用します。 自身と無関係な電波であればCCA閾値を高くし、 弱い電波が検出されていても待機せずに送信します。 その際、自身の送信出力も下げ、 自身と無関係なセルへの妨害をなるべく抑制します。 こうすることで、アクセスポイントが高密度に配置された環境でも、 待ち時間を少なくして遅延の改善が見込まれます。

6 チャネルボンディング

図:チャネルボンディング

従来の無線LANでは、無線の占有帯域幅を20MHz単位で割り当てており、 802.11n以降ではこれを複数束ねてスループットを向上させる、 チャネルボンディングと呼ばれる技術が使用されています。

802.11axでは最大8チャネル(計160MHz幅)を束ねることができます。 広大だと考えられていた5GHz帯も、 チャネルボンディングによって同時利用できるチャネルが減少し、 多数のAPが設置されるケースではチャネルが不足するようになりました。 さらに、ボンディングによってチャネル幅が広がれば、 干渉を受ける幅も広がってしまうことになり、 隣接アクセスポイントの影響を受けやすくなります。

従来このようなケースでは、 チャネルボンディングで束ねる帯域を減らして全体のチャネル数を稼ぐことが行われていますが、 せっかくのチャネルボンディングのメリットを捨てることになってしまいます。 BSSカラーによって、 高密度環境でのチャネルボンディング利用が促進される可能性があります。

7 高速化技術

これまで紹介してきた技術は主に高密度環境での速度を底上げするものでしたが、 高速化技術も盛り込まれています。

まずOFDMシンボル長(≒最小通信時間)を従来の4倍(3.2μs→12.8μs)とし、 長いガードインターバル(0.8μs~3.2μs)もサポートします。 ガードインターバルのオーバーヘッド減少によるスループット向上、 屋外環境での長いマルチパスへの耐性向上、 OFDMAサブチャネルの効率的な割り当てのために変更されました。

さらに変調方式として、 新たに1024QAM(802.11acでは256QAM)が追加されました。 最大データレートは9.6Gbps(802.11acでは6.8Gbps)となっています。

8 バンドの拡大

Wi-Fi Allianceは、 新しい6GHz帯を利用したWi-Fi 6の拡張規格である「Wi-Fi 6E」を発表しました。 Wi-Fi 6Eでは5935MHz~7125MHzを利用するとされ、 今後まもなく世界各国の規制当局が利用を承認すると言われています。 新しい6GHz帯にはレガシーな無線LANが存在せず、 それらの干渉による性能低下がありません。 後方互換性の悩みもないでしょう。 もちろん、新しい帯域はクリーンで広大です。 Wi-Fi 6Eが一般消費者の手に行き渡るにはまだ時間が必要かと思われますが、 非常に楽しみな拡張です。

9 新しいセキュリティWPA3

Wi-Fi 6では「WPA3」と呼ばれる新しいセキュリティ規格がサポートされます。 WPA3-Personalでは、 PSKに代わってSAE(Simultaneous Authentication of Equals; 同等性同時認証)によって保護されます。 WPA3 SAEでは、辞書攻撃への耐性、比較的弱いパスワードでの安全性向上、 前方秘匿性(もしパスワードが解読された場合でもそれ以前にパケットキャプチャされたパケットは復号不可能)が実現されます。 このSAEはWPA2を前提とした従来の端末との互換性はありませんが、WPA3-Transition modeによりWPA2相当のセキュリティでの接続は可能です。

PMF(Protected Management Frames)は必須となり、 管理フレームは簡単に覗き見されなくなります。 WPA3-Enterpriseでは新たに192bit CNSA(Commercial National Security Algorithm)セキュリティモードが定義されました。

WPA3からは最終的に外されましたが、 新たにEnhanced Openと呼ばれるセキュリティ規格が定義されたので、 トピックとして紹介しておきます。 従来、公衆無線LANなどで不特定多数へサービスを提供する場合は、 PSKや暗号化なしでの実装が多くみられ、 第三者による傍受の可能性がありました。 Enhanced Openでは、 現在のパスワードなしのOpenと同様に利用者がSSIDを選ぶだけで、 端末ごとに独立した鍵を生成し第三者による傍受から保護します。 このモードでは端末もEnhanced Openに対応していなければ接続できませんが、 Transition modeにより従来のOpenと共存させることが可能です。

10 終わりに

2015年11月発行の61号で、 私は「環境によっては干渉を抑えることが難しいこともありますが(中略)無線LANでも近隣のアクセスポイントや端末同士が互いに協調してリソースを制御するような、 そんな時代が来るかもしれません」と書きましたが、 まさにその時代が到来しようとしていると思います。

近い将来、 Wi-Fi 6に対応した端末が普及し、 Wi-Fi 5(802.11ac)の端末が減ってきた頃、 私達は高密度でも快適な無線LAN環境を手にすることができるでしょう。

Wi-Fi 6関係では他にも、 TWTによる省電力化や狭帯域利用でのIoT対応などの機能がありますので、 もしご興味があれば調べてみてください。

(株式会社 KADOKAWA Connected 熊谷 暁)

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