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ニュースレターNo.84/2023年8月発行

地方の未来と情報技術

岩手大学 情報基盤センター 准教授 中西 貴裕

私は岩手大学情報基盤センターに勤めており、 専任教員としての業務や研究活動、 東北学術研究インターネットコミュニティ(TOPIC)の活動などを通して、 約20年間、岩手県や東北地域の方々と交流してきており、 地方の課題についてお話をうかがう機会に恵まれています。

岩手県には、高齢化や人口減少といった他の地方と同様の問題に加え、 第一次産業(農林水産業)の比率が高いという特徴があります。 研究活動の中でご協力いただいている養鶏業を営まれている方や、 畑作・稲作をされている知人の話をうかがっていると、 この第一次産業比率の高さが高齢化や人口減少の原因の一つになっていると感じます。 第一次産業は生産したものを販売することで利益を得ており、 生産量が収入に大きく影響します。 生産量を増やせば収入も増やせるのですが、生産量を増やすためには、 より広い土地・田畑で、より多くの動物・作物を飼育・栽培しなければならず、 より多くの労働力が必要となることから、個人では規模の拡大に限界があります。 加えて、天候不順や鳥インフルエンザなどの伝染病の影響で計画通りに生産できないなど、 安定した収入を得ることが難しい面もあり、 若い世代が後を継がず他の職業に就くために地元を離れ、 人口の流出につながっています。

人口の流出がある程度あっても、 それと同等以上の流入があれば人口は減少しないのですが、農林水産業には、 外部からの新規参入が難しいという問題もあります。 養鶏業では、鶏舎の環境(温度・湿度・二酸化炭素濃度)が鶏の健康に大きく影響しますが、 冬季など外気温が低い場合、換気を行うと鶏舎内の温度が下がり、 それを補うために暖房を使用すると燃料費が多くかかり二酸化炭素濃度も上昇するなど、 単純なものではありません。 実際お話をうかがうと、鶏の動きや呼吸の様子、 鶏舎内の空気の様子(かすみ具合)などを見て暖房や換気、 鶏を立ち上がらせて腹の部分の温度を下げるなどされています。 田畑を営まれている方は、毎年変化する気温や湿度、降水量などの気候を予測し、 苗の育成や耕起、田植、種まきなどの時期を調整されています。 農林水産業を営まれている方々は、 経験に基づく勘とも言える多くの知識(暗黙知)を駆使して動物・作物を育てられていますが、 これらをマニュアルのような形式知とすることが難しいことが、 まったく経験のない方が新規に参入するのが難しい一因となっています。

私は、農林水産業を営まれている方々と共に行ってきた研究等活動の中で、 情報技術には、このような地方の厳しい状況を打開し、 むしろ有利な条件に転換する力があると強く感じるようになりました。 近年は、 気象モデルの改善や気象状況の観測・収集技術の向上により長期的・短期的な気象予測の精度が向上し、 山や谷、河川など地形の影響を考慮したピンポイントでの予測も行われ、 これらの気象情報を誰でも容易に得られるようになってきています。 また、養鶏でも、温度・湿度・二酸化炭素濃度など、鶏舎内の環境をセンサーで取得し、 それを収集・蓄積・解析することで鶏を健康に育成できる環境を明らかにできれば、 暖房や換気のタイミングといった暗黙知に基づいて行われていた作業を形式知にし、 外部からの新規参入が容易になります。 また、遠隔地からの様子の確認やセンサーによる生育・健康状態・環境の把握などにより、 動物・作物の世話や環境の調整にかかる労力を削減・自動化できれば、 少ない労働力でより大きな規模の鶏舎・田畑を運営することで生産量を増やせ、 土地に対する人口が少ないという現在の問題点が、 むしろ有利な条件にもなりえます。

このように、情報技術は地方の未来を担う大きな力ではありますが、これも、 安心して使用できる安定した通信インフラの存在が前提となります。 2022年、大規模な通信障害によって物流やATMに大きな影響があったことは記憶に新しいですが、 センサーなどから得られた情報に基づいて環境を維持・調整する場合、 センサーからの情報が途絶えることは、多くの動物や作物の死亡や枯死につながり、 運営者にとって致命的な損失になりかねません。 こういった観点でも、インターネットリソースの管理、 インターネットの透明性・安定性・開放性の確保に関わるインターネットガバナンスに取り組んでいるJPNICの活動の重要性を再認識し、 より一層の発展を期待しています。


執筆者近影
プロフィール●中西 貴裕(なかにし たかひろ)
名古屋工業大学工学研究科博士課程を経て1998年に名古屋工業大学に教員として着任後、 私立大学での勤務を経て、 2003年に岩手大学総合情報処理センター(現情報基盤センター)に着任。 情報システム、ネットワーク技術の教育・研究、学内の情報基盤整備に従事。 2005年より東北学術研究インターネットコミュニティ(TOPIC)幹事、 2016年より技術部主査。 2022年よりJPNIC理事(地域・非営利分野担当)。

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