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ニュースレターNo.89/2025年3月発行

世界情報サミットの20周年評価(WSIS+20 Review)

2025年に20周年を迎え、 その評価を行う世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society, WSIS(※1について解説します。 WSISは、1998年にチュニジアが国際電気通信連合(ITU)の全権委員会議で初めて提案し、 国連総会決議56/183 (2001年12月21日)にて2回に分けての開催が承認されました。 第1フェーズは2003年12月10日から12日までジュネーブで開催され、 第2フェーズは2005年11月16日から18日までチュニスで開催されました。 WSIS+20 Review(以降、WSIS+20と略します)とは、 WSISの20周年評価のことを意味します。

01 背景

WSISのジュネーブ会合では、 成果文書として「基本宣言」※2と「行動計画」※3が策定されました。

基本宣言では、 すべての人が情報通信技術(ICT)の提供する機会から利益を得られることを保証するよう努力すること、 そのためにすべての関係者が次の目標のために協力することを謳っています。

  • 情報通信インフラ・技術、情報・知識へのアクセスの向上
  • 能力開発
  • ICTの利用における信頼とセキュリティの向上
  • あらゆる場面での環境整備
  • ICTアプリケーションの開発および展開
  • 文化の多様性の促進
  • メディアの役割の認識
  • 情報社会の倫理的側面への言及
  • 国際的・地域的連携の奨励

チュニス会合で策定されたのは「チュニスコミットメント」と「チュニスアジェンダ」です。 チュニスアジェンダ中で設立について記載されたインターネットガバナンスフォーラム(IGF)は、 WSISの主要な成果の一つです。

02 WSISアクションライン

行動計画に含まれた11の行動方針は、 WSISアクションライン※4と呼ばれます。 以下に列挙します。

  • C1. 開発のためのICT利活用における政府およびすべての関係者の役割
  • C2. 情報インフラ:あらゆる人々が参加する情報社会のために不可欠な基盤
  • C3. 情報・知識へのアクセス
  • C4. 人材開発
  • C5. ICTの利用における信頼性とセキュリティの確立
  • C6. 環境整備
  • C7. ICTアプリケーション:生活のすべての面における利益
    • 電子政府
    • e-ビジネス
    • e-ラーニング
    • e-ヘルス
    • e-雇用
    • e-環境
    • e-農業
    • e-サイエンス
  • C8. 文化的多様性と独自性(アイデンティティ)、言語の多様性、ローカルコンテンツ
  • C9. メディア
  • C10. 情報社会の倫理的側面
  • C11. 国際的および地域的協力

WSISアクションラインの実施状況については、 2006~2008年は個別のWSISアクションラインに関する会合が複数開催されました。 2009年以降は、 ITU他の国連機関※5が毎年開催するWSISフォーラムで実施状況がまとめて評価されています。 WSISフォーラムは、2024年と2025年はWSIS+20 High-Level Eventと名付けられています。 WSIS+20 High-Level Event 2025は、 2025年7月7日から11日までスイス・ジュネーブで開催され、 マルチステークホルダーによる議論の場を提供し、 2003年のジュネーブ行動計画以降の成果と主要な傾向、 課題、機会を評価するプラットフォームとなる予定です。

03 WSIS+10

前述のようにWSISチュニス会合では、 成果文書として「チュニスコミットメント」※6と「チュニスアジェンダ」※7が作成・公表されました。 チュニスアジェンダの111項では、 「2015年までにWSISの成果実施の全般的な見直しを行う」となっており、 これに従って2015年にWSISの10周年評価(WSIS+10)が行われました。

WSIS+10のプロセスは、次の通りでした。

  • 国連総会(GA)は2014年8月に決議68/302※8を採択し、 全体的な見直しは2015年12月の国連総会における2日間のハイレベル会合で締めくくられることを決定
  • 国連総会議長は2015年6月1日、 全体的な見直しを担当する2人の共同進行役としてラトビアとアラブ首長国連邦の常駐代表を任命
  • 6ヶ月間にわたるプロセスにおいて、 国際連合経済社会局(DESA)はGAによる過去10年間におけるWSISの進捗状況レビュー作業を支援し、 2015年以降の将来について検討。 このプロセスはWSIS+10レビューとも呼ばれた
  • 2015年12月15日~16日にニューヨークの国連本部でハイレベルイベント※9が開催され、 すべてのプロセスが締めくくられた

WSIS+10ハイレベルイベントの最終日、 2015年12月16日に行われた国連総会決議70/125※10は、 WSISの成果の実施状況をレビューしたもの、 つまりWSIS+10の中心となる内容で、主な内容は以下の通りです。

  1. コミットメントの再確認
    • 国連憲章および人権に基づく、人々中心で包摂的、開発志向の情報社会の構築を支持
    • ジュネーブ宣言、チュニス・アジェンダ、2030アジェンダ(ほぼSDGsに相当)の再確認
  2. デジタル包摂
    • ジェンダーや地理的格差を含むデジタル格差の解消を強調
    • 情報通信技術(ICT)が持続可能な開発、経済成長、社会包摂に果たす役割を認識
  3. 人権
    • オンラインでの人権保護(表現の自由やプライバシー)へのコミットメント
    • サイバー犯罪やテロリズムなどの有害な技術利用を防ぐための呼びかけ
  4. インターネットガバナンス
    • マルチステークホルダー型のインターネットガバナンスを支持し、IGFの10年間の延長(2016年から2025年まで)を決定
    • 開発途上国からの参加促進の必要性を認識
  5. 開発とイノベーション
    • ICTが災害管理、文化の保護、持続可能なエネルギーに果たす役割を認識
    • イノベーション促進、電子廃棄物削減、新たなICT課題への対応を強調
  6. 事後追跡
    • WSISの実施状況と2030アジェンダとの整合性の継続的な監視
    • 2025年にWSIS成果のレビューを行うためのハイレベル会議を推奨

WSIS+10で開催されたコンサルテーションには、 JPNICからも職員が参加しました※11

04 WSIS+20

上に挙げたように、国連総会決議70/125にて、「2025年に、 WSISの成果の実施状況を全体的に見直すハイレベル会合を国連総会が開催し、 その準備プロセスを含め、すべてのステークホルダーの意見や参加を得て、 世界サミットの成果の進捗状況を評価し、 継続的な重点分野と課題を特定するよう求め、また、 ハイレベル会合の結果を、 持続可能な開発のための2030アジェンダ見直しプロセスへのインプットとして考慮することを推奨」しており、 これがWSIS+20実施の根拠となっています。

2025年のWSIS+20レビューは、 WSIS+10以来10年間の進捗状況を評価し、 情報社会における新たな課題と機会を特定するものです。 WSISから20周年を迎えるにあたり、 ジュネーブ行動計画以降の成果や主要な傾向、課題、 機会を評価するため、包括的な見直しを行うことになります。 また、開催期限が切れるIGFの今後についても検討が行われることになります。

国連総会は2024年12月19日に持続可能な開発における情報通信技術(ICT)の役割を強調する内容の、 決議79/194※12を採択しました。 この決議は、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」※13、 WSISおよび「アディスアベバ行動アジェンダ」※14に基づいています。 この中で、IGFおよびWSISに関連する主な個所は以下の通りです。

  • IGFの現行の権限を認め、 2025年の情報社会に関する世界サミット成果の実施に関する全体的な見直しを期待(33項)
  • 地域および国際レベルでの情報社会に関する世界サミットの成果の実施とフォローアップの進捗状況に関する年次報告の一部として、 インターネット・ガバナンス・フォーラム改善作業部会の報告書※15に盛り込まれた勧告の実施状況に関する情報を提出するよう、 事務総長に要請(34項)
  • 政府が他のステークホルダーと対等な立場でインターネットに関する国際公共政策問題において役割と責任を果たすことを可能にするため、 将来における拡大協力(enhanced cooperation)※16の重要性を認識し、 チュニスアジェンダで想定された、 拡大協力の実施に関する継続的な対話と作業の必要性を指摘(40項)
  • 開発のための科学技術委員会(CSTD)は2025年4月の第28回会合後に経済社会理事会を通じて、 WSISに関する過去20年の成果実施における進捗状況のレビューに関する報告書を国連総会に提出(60項)
  • 決議70/125に従い、 2025年にWSIS成果の実施を評価するハイレベル会合を開催し、 サミット成果の進捗状況を評価し、 引き続き重点を置くべき分野と課題を特定(61項)
  • WSIS成果の実施に関する総会による全体的な見直しの方式を、 総会決議70/125の71項に従い、2025年3月末までに最終決定し、 そのために、 見直しのプロセスにおけるすべての利害関係者の意見と参加を得て、 公開の政府間協議を開催する2人の共同進行役を任命するよう総会議長に要請する準備プロセスを含め、 レビュープロセスにおけるすべての利害関係者の意見と参加を求める(62項)

なお、共同進行役にはケニア政府のErastus Lokaale氏およびリトアニア政府のRytis Paulauskas氏が、2025年1月20日に第79回国連総会議長により指名されました※17

その他全般的に重要だと思われる点は、デジタル包摂、AI倫理、 持続可能なデジタル変革への国際的な取り組みを再確認し、 「誰一人取り残さない」デジタル社会の実現をめざしていることです。

05 関連議論プロセス

図:2025年のWSIS+20関連プロセス

WSIS+20に関しては、 さまざまな国連機関およびIGFで検討・議論され、 国連総会の場で最終的に結論が下されることになります。 ITUによれば※18、 これまでにもさまざまな国連機関および会議で議論されてきたとのことです。 この中には2023年に京都で開かれたIGF 2023も日本フェーズとして含まれています。 本項執筆後2025年に開催される予定の会議のうち最も関連すると筆者が考えるものを右図に示します。

図中の各会合について、それぞれ説明します。

CSTD第28回会合

2025年4月7日~11日にジュネーブ、 スイスで開催されるCSTDの第28回会合は、 次の二つの優先テーマに取り組むことになっています※19

  • デジタル化が加速する世界における経済の多様化
  • 持続可能な開発のための技術予測と技術評価

委員会はまた、先に記したように、国連総会決議79/194を受け、 世界情報社会サミット(WSIS)の成果の地域レベルおよび国際レベルでの実施とフォローアップの進捗状況、 20周年レビューを含むレビューを行い、委員会の成果を受けて科学、 技術、イノベーションにおける技術協力活動に関する報告を聞く、となっています。 参加者には、政府、国際機関、市民社会、民間部門の代表者が含まれる、 とあります。

UNESCO Global Forum on AI and Digital Transformation in the Public Sector

2025年6月4日~5日にフランス・パリのユネスコ本部で開催される、 本フォーラムで掲げられている目標は次の通りです※20。 特に3番目がWSIS+20に関連すると思われます。

  • 行政機関にデジタル変革を推進する権限の付与:AIとデジタル変革のための公共部門の能力構築に関する行動計画を提案し、 デジタル能力構築に関するダイナミック連合を立ち上げ
  • 包括的かつ公平なデータガバナンスの推進:データガバナンス・ツールキット - デジタル時代を乗り切るためのロードマップに関する関係者協議を開催し、 責任ある相互運用可能なアプローチを推進するための国際協力を促進
  • グローバルデジタル協力の促進:グローバルデジタルコンパクト(GDC)を含むグローバルフレームワークとプロセスを推進し、 活性化されたWSIS 2.0ビジョンに向けたWSIS+20レビューに情報を提供
  • 知識の交換とパートナーシップの促進:デジタル変革リポジトリと学習ハブを立ち上げ、 ベストプラクティスを共有し、 関係者間の相互学習とコラボレーションを促進

IGF 2025

IGF 2025は2025年6月23日から27日にかけて、 ノルウェーのリレストレムで開催されます。 通常は11月または12月に開催されることが多いですが、 後述の会議に議論の内容をフィードバックするためと思われます。 開催が早まったことに伴い、 マルチステークホルダー諮問委員会(MAG)※21メンバー選定方法も通常と異なり、 候補者となり得るのは過去のMAGメンバー経験者のみとなり、 推薦者となり得るのは過去のMAGメンバーおよびインターネットガバナンスに関する作業部会(WGIG)※22メンバー経験者のみとなりました※23。 大規模でないセッションの多くは今後(スケジュール案では2025年2月12日から3月16日にかけて※24)公募されることになるため、 どのようなセッションが提案されるかは本稿執筆時点では分かりませんが、 WSIS+20に関するセッションが提案され、 それについての内容が議論されることは確実だと思われます。

大規模なセッション(メインセッション等)は事務局と開催国が話し合って準備すると思われますが、 こちらについては決まってスケジュールとして公開されるまでわかりません。 こちらもWSIS+20に関して議論するものが含まれる可能性は高いと思われます。

WSIS+20 High-Level Event 2025

WSIS+20 High-Level Event 2025は2025年7月7日から11日にかけて、 スイスのジュネーブで開催されます。 主催はITUで、準備はITU、 UNESCO、UNDPおよびUNCTADが行います。 WSISアクションラインの項に記載したとおり、 同アクションラインの実施状況の評価もなされると思われますが、 会議のアジェンダは同年3月14日まで行われている意見募集※25に基づいて決定されるとなっています。

目的は、WSIS発足以来の進捗状況について、 20年間の成果/成功を評価し、現在および2025年以降もデジタルデバイドを解消し、 有意義な接続性を促進するためのマルチステークホルダーで議論するプラットフォームとなることです。

本イベントにおけるマルチステークホルダーによる議論の成果は、 2025年の第80回国連総会の全体評価に向けて提出されます。

第80回国連総会

ニューヨークの国連本部で開催される第80回国連総会は、 2025年9月9日に開会し、 9月23日から一般討議が始まることになっています※26。 ITUによれば、9月から12月の間※27、 もしくは12月に※28WSISの包括的な評価を行うとなっており、 それ以上の詳細な予定は発表されていません。

06 今後

国連総会までの各イベントでWSIS開催後の20年における進捗状況の評価が行われ、 併せてIGFの今後について勧告が出されるものと思われます。 IGF 2024での論調では、IGFを止めるべきと主張した人はいなかった模様で、 かつITUのWSISおよびSDGsに関する作業部会(CWG-WSIS&SDGs)にロシアおよび旧ソ連諸国が連名で提出した意見書※29中においてさえも、 IGFは継続すべきと記載されているため、継続されると思われます。 それが10年などの時限付きなのか、 恒久的なものとなるのかが議論となると筆者は想像します。 もう1点は、IGFの名称が維持されるのか、 または近年議論の範囲が広がってきておりデジタルガバナンスという呼ばれ方もされてきているため、 名称が例えばデジタルガバナンスフォーラムなどに変更となるのかについても興味あるところです。

最後に、WSIS+20プロセスに、 どの程度民間のステークホルダーが関わることができるのかが筆者としては気になります。 WSIS+10の際には、 「非公式双方向ステークホルダーコンサルテーション」には参加できました。 GDCの策定時には、「ステークホルダーセッション」が開催され、 非政府ステークホルダーは意見を提出しセッションでは1組織2分または3分発言して終わり、 となっていました。「非公式」と付かないだけまだいい、とも言えますが、 実質的に民間が意見を言う機会がどれだけあるか、 国連および国連機関が民間の意見をどれだけ取り入れるか、 今後注視したいと思います。

JPNICインターネット推進部 山﨑信


※1 インターネット用語1分解説「WSISとは」 https://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/wsis.html
インターネット用語1分解説「チュニスアジェンダとは」 https://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/tunis-agenda.html
ニュースレターNo.47/インターネット10分講座「IGFとは」 https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No47/0800.html
世界情報社会サミット(WSIS)(外務省) https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/it/wsis.html
世界情報社会サミット(WSIS)チュニス会合の結果(総務省ページのアーカイブ) https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/997626/www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/2005/051119_1.html
世界情報社会サミット(WSIS)(総務省ページ) https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/wsis/index.html
※5 国連教育科学文化機関(UNESCO)、国連開発計画(UNDP)、 国連貿易開発会議(UNCTAD)、国際連合経済社会局(UN DESA)、 国連「開発のための科学技術委員会」(UN CSTD)
※15 A/66/67‒E/2011/79 Working Group on Improvements to the Internet Governance Forum https://digitallibrary.un.org/record/713816?v=pdf
※16 インターネットの国際公共政策問題に対する、政府の関与の在り方を示す言葉です。 「強化された協力」「協力強化」「拡張された協力」などとも呼ばれます。 チュニスアジェンダ69、70、71項に含まれます。 IW2013での総務省市川氏による発表資料: https://www.nic.ad.jp/ja/materials/iw/2013/proceedings/d3/d3-ichikawa.pdf

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