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ニュースレターNo.90/2025年7月発行

中年エンジニアの真実 ~分散システムの尊い歯車たち~

長崎県立大学 情報システム学部 教授
岡田 雅之

皆さん、こんにちは。今回は少し趣向を変えて、 我々中年エンジニア世代について語ってみたいと思います。

先日、学生に授業でHTTPSの仕組みを説明していた時、 「TLS 1.3の話は詳しいのに、 なぜTikTokのトレンドがわからないんですか?」と言われました。 その瞬間、ふと気づいたのです。 私はいつの間にか「最新技術を追いかける側」から「基盤技術を守る側」になっていたのだと。 頭の上はIPv4アドレスのように枯渇し散らかっている、 お腹はパケットのようにふくらみ、深夜の障害対応で目が赤くなる。 そんな自分を画面に映る顔で見て苦笑いする毎日が、 実はインターネットの大黒柱としての証なのかもしれません。

中年の我々は、 まさにインターネットの「自律・分散・協調」を体現しています。 上司からは「もっとクラウドネイティブに」と言われ、 部下からは「コンテナ化が遅い」と思われ、 家では「またサーバーダウンで帰れないの?」と言われ、 子どもからは「お父さんのWi-Fi、遅いよ」と一蹴される。 まさに多重障害の状況です。

しかし、よく考えてみてください。 深夜にサーバーが落ちた時、 誰が駆けつけるでしょうか(最近は駆けつけなくて済むように運用設計するだろう、 というツッコミはご容赦)。 セキュリティインシデントが発生した時、 誰が陣頭指揮を執るのでしょうか。 レガシーシステムの仕様を覚えているのは誰でしょうか。 そう、我々中年エンジニアなのです。 まるで分散システムのノードのように、 それぞれが自律的に動きながらも、 全体として協調してインターネットを支えているのです。

若者のようにDockerを秒で起動することはできませんが、 なぜそのサービスが落ちるのかを見抜く経験があります。 ベテランのように豊富な開発経験はありませんが、 まだまだ新しい技術を学ぶ意欲があります。 この「中途半端さ」こそが、 実は現代のIT社会にとって最も必要な存在であることを、 我々は誇りに思うべきです。

最近、「技術的負債」という言葉をよく耳にします。 確かに、古いシステムのメンテナンスで悩むことも多いでしょう。 しかし、 それはまさにインターネットの「協調」の精神を実践していることでもあります。 新しいサービスと古いシステムの橋渡しをし、 全体が協調して動くように調整する。 これこそが我々の使命なのです。

思えば、我々はダイヤルアップから常時接続、 ナローバンドからブロードバンド、 ポケベル・PHS・ガラケーからスマートフォン、 オンプレからクラウドと、 IT革命の波を生き抜いてきました。 その中で培った「とりあえず動かす」精神と「でも監視は必要」という運用感覚は、 まさに今の分散型インターネット社会に求められているものではないでしょうか。

若い頃のような最新技術への飛びつきはありませんが、 中年エンジニアには中年エンジニアの魅力があります。 少し疲れた表情にも深みがあり、 Enterキーを叩く手にも重みがあります。 完璧なコードは書けないかもしれませんが、 動くコードは書けます。 最新フレームワークは使えないかもしれませんが、 なぜそのシステムが必要なのかは理解しています。

インターネットの素晴らしさは、 中央集権的な管理者がいないことです。 世界中の技術者が自律的に、それぞれの持ち場で、 協調しながらネットワークを維持している。 我々中年エンジニアも、 まさにそのノードの一つとして、 地味だけれど重要な歯車の役割を果たしているのです。

中年エンジニアの皆さんにお伝えしたいことがあります。 我々は確実にインターネットの中核を担っています。 GitHubのスターは少ないかもしれませんが、 稼働率99.9...%の安定したサービスを提供しているのです。 それは決して恥ずかしいことではなく、誇るべきことなのです。 今日も一日、インターネットの自律・分散・協調の精神を胸に、 中年エンジニアの意地と誇りで、頑張ってまいりましょう。 そして時々は、家のWi-Fiの速度も上げてあげましょう。

最後に、若手からベテランまで、 すべての世代の皆さんにお伝えしたいことがあります。 インターネットの美しさは、 まさに世代を超えた協調にあります。 若手エンジニアの新鮮なアイデアと最新技術への情熱、 中年エンジニアの安定した運用力と橋渡し役としての経験、 そしてベテラン技術者の深い洞察と長期的視点。 これらすべてが有機的に結びついて、 今日のインターネット社会を支えているのです。

若い皆さんには声を大にして言いたい。 あなた方の革新的な発想こそが、 インターネットの進化を牽引しています。 我々中年世代の「それは昔試してダメだった。 それ本当に動くの?」という言葉に負けず、 ぜひ新しい挑戦を続けてください。 ただし、たまには我々の失敗談にも耳を傾けてください。

ベテランの皆さんには感謝を込めて。 あなた方が築いてきた基盤技術があるからこそ、 我々は安心して新しいことにチャレンジできます。 その豊富な経験と知恵を、ぜひ次の世代に伝承してください。

そして中年の我々は、引き続き両世代の架け橋として、 インターネットの「協調」を実践していきましょう。 時には新しい技術を学び、時には古い知恵を活かし、 常に全体最適を考えながら。

インターネットのように、私たちも世代を超えて自律し、 分散し、そして協調していく。 それが、持続可能で豊かな社会を築く鍵なのです。 皆で力を合わせて、 素晴らしいインターネットの未来を作っていきましょう。


執筆者近影
プロフィール●岡田 雅之
2004年~2020年 JPNIC職員、 2020年~長崎県立大学教授、 2025年からZEN大学教授を兼務。 JANOG運営委員、dnsops.jp幹事、他

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