GNSO動向紹介
第3版:2025年8月18日
第2版:2023年11月29日
初版:2023年9月15日
GNSOにおける進行中のPDPなどの状況(2025年8月現在)
GNSOでは新gTLD次期ラウンドの実施準備が進む間にも、いくつかのポリシー策定プロセス(PDP)が進行しています。 ここではICANNから発行される以下のドキュメントを元に、GNSOにおけるPDPの現況を示します。
- ICANN GNSO Policy Briefing;毎ICANN会議前に準備される文書1
- GNSO Project List:GNSO Webサイト2はGNSOのさまざまな検討に関する資料が提供されていますが、 PDP(ポリシー策定プロセス)や IRT(実施準備レビューチーム)などのGNSOの検討活動をプロジェクトとして列挙して、その進捗状況を一覧しています3。
https://gnso.icann.org/sites/default/files/policy/2025/briefing/gnso-policy-briefing-icann83-16may25-en.pdf
2 https://gnso.icann.org/
3 Project Listページから、2025年8月14日版 GNSO_Council_Project-List_20250814.pdf
https://icann-community.atlassian.net/wiki/spaces/gnsocouncilmeetings/pages/111086692/Project+List
登録データ正確性(Registration Data Accuracy)(スコーピングチーム)4
【概要】
GDPRが登録データ正確性要件などに与える影響を検討するため、PDP開始に向けてスコーピングチームが2021年7月に正式に結成されましたが、2022年8月に課題の一部を提出した上で活動を休止、評議会が組成した「スモールチーム」で善後策が検討されていました。
【進捗】
正確性要件に関する検討を進めるうえで、実際の登録データを用いた分析が計画されていたところ、これはプライバシー権を上回る正当な利益ないと事務局が判断し、欧州データ保護会議(EDPB)に見解を求めていましたが、これに回答が得られなかったのが、スコーピングチーム活動休止の理由の一つでした。善後策を検討するために2025年5月に組成されたスモールチームでは、2024年版レジストラ認定契約における登録データ検証の時間構成を精査すること、データ正確性に関する教育資料の制作、Whois2レビューの勧告CC.1(不正確なデータを理由に停止されたドメイン名の登録データ精査など)を検討結果として評議会に示し、スコーピングチームの活動終了を勧告する報告書を提出し、GNSO評議会はこれを2025年8月14日の評議会で承認しました。
4 https://icann-community.atlassian.net/wiki/spaces/AST/overviewラテン文字ダイアクリティカル記号(Latin Script Diacritics)PDP5
【概要】
このPDPは、ラテン文字を用いたgTLDにおいて、ASCIIベースのTLDラベルと、ダイアクリティカル(アクセントなどの補助記号)のついたTLDラベルが、現在制定されているトップレベルドメイン名のラベル生成ルール(LGR)においては異なるラベルとして扱われるため、現状では同一のレジストリ運用者が両者を同時に運用できないという技術的・制度的制限に対処することを目的としています。
【進捗】
GNSO評議会は2024年11月13日に正式にPDPを開始し、ワーキンググループ(WG)が設置されました。WGは現在、チャーターで定義された課題群(Charter Questions)に基づき、問題の本質と影響範囲を精査しています。2025年4月10日にGNSO評議会が承認したプロジェクト計画に基づき、同月24日までにSG/C(ステークホルダーグループ/部会)およびSO/AC(支持組織/諮問委員会)からのインプットが提出されました。WGでは、既存のIDN異体字ルールとの整合性、レジストリ運用上の影響、審査基準との関係性などについて、多様なユースケースとリスク評価を踏まえた議論が始まっており、初期的な文書作成に向けた作業が進行中です。初期報告書は2026年2月に向けて取りまとめ、パブリックコメント募集を経て最終報告書の作成に進む見通しです。
5 https://www.nic.ad.jphttps://gnso.icann.org/en/group-activities/active/latin-script-diacriticsドメイン名移管ポリシー見直し(Transfer Policy Review)PDP6
【概要】
このPDPは、gTLDの他のレジストラに対する移管に関する手続きを包括的に見直し、セキュリティと利便性を両立させた新たなポリシー体系を確立することを目的としています。従来の移転ポリシーでは、登録者確認、承認フロー、認証コード(AuthInfo)の取り扱いなどにおいて、不正移管や運用上の非効率が指摘されてきました。特に、レジストラ間移管と登録者変更が複雑に絡む状況や、管理対象となるデータの信頼性確保が課題となっており、それらを解消するための多段階的な見直しが進められてきました。
【進捗】
本PDPはフェーズ1からフェーズ2へと段階的に展開され、2025年3月のGNSO評議会において、最終報告書が承認されました。これに先立ち、2年以上にわたるWGでの検討が行われ、登録者承認手続きの合理化や、移管コードの一元管理、異議申し立て手続きの整備など、複数の実務的勧告が取りまとめられました。ICANN理事会による承認プロセスが進行中で、パブリックコメント募集は2025年7月2日に締切を迎えました。コメントの集約と分析の後、正式な理事会採択を経て、IRT(Implementation Review Team)が設置される予定です。このPDPは、gTLD移管の基盤となる制度の再構築を進めるものであり、レジストラ間の運用慣行にも大きな影響を与えることが見込まれます。
6 https://gnso.icann.org/en/group-activities/active/transfer-policy-review国際化ドメイン名(IDNs)EPDP(フェーズ 2)7
【概要】
本EPDPは、トップレベルおよびセカンドレベルにおける国際化ドメイン名(IDN)の運用において、言語・スクリプトごとの異体字管理を制度的に整備することを目的としています。特に、アラビア文字、デーヴァナーガリー文字、漢字など、多様な文字体系における意味的・視覚的に類似するTLDの運用に一貫性と予測可能性を持たせることが重視されています。
【進捗】
EPDPはフェーズ1で策定されたポリシー勧告を受けて、現在はフェーズ2においてレジストリ実装モデル、運用ポリシー、審査基準の具体化に焦点を当てています。2025年初頭には、GNSO評議会がフェーズ2の最終報告書をICANN理事会に提出し、現在はICANN事務局による影響分析と理事会審議が並行して行われている段階です。特に異体字管理に関しては、文字列衝突、ユーザー混乱回避、レジストリ選定の公平性など多面的課題が含まれ、技術・ポリシー両面からの検討が継続中です。今後は、勧告内容の採択後にIRTが組成され、次回gTLD申請ラウンドでのIDN関連要件に具体的に反映される予定です。
7 https://gnso.icann.org/en/group-activities/active/idn-epdpSSAD関連:登録データ開示システム(RDRS)とEPDPフェーズ 28
【概要】
本取り組みは、gTLD登録データの非公開情報へのアクセスに関する標準化された申請プロセスの実現を目的としたもので、かつてのEPDPフェーズ2で提案されたSSAD(Standardized Systemfor Access/Disclosure)に関連します。SSADの実装可否を評価する実験的枠組みとして、Registration Data Request Service(RDRS)というパイロットシステムが構築され、ICANN組織がその運用を2023年11月から開始しました。これにより、第三者がレジストラに対して合法的な開示請求を行う際の実効性・実用性が検証されています。
【進捗】
RDRSの運用結果を元に、SSADの可否を判断する材料とすることが目的であり、現在はRDRS常設委員会において、実績評価と最終報告書のとりまとめが進められています。GNSO理事会への提出に向け、システムの利用実態(リクエスト件数、応答時間、否認率など)とユーザビリティ改善の余地について分析中です。ICANN83では、プライバシー・プロキシ登録やLEA(法執行機関)アクセスなどの要素を含めた意見交換が行われる予定であり、開示申請の円滑化とコスト・リスク分担のバランスに焦点が当てられています。SSAD本体のポリシー実装判断は、RDRSレポートに基づいてGNSO評議会が改めて検討する予定です。
8 https://gnso.icann.org/en/group-activities/active/gtld-registration-data-epdp-phase-2