メインコンテンツへジャンプする

JPNICはインターネットの円滑な運営を支えるための組織です

ロゴ:JPNIC

WHOIS 検索 サイト内検索 WHOISとは? JPNIC WHOIS Gateway
WHOIS検索 サイト内検索

※「JPNIC News & Views vol.167【臨時号】2004.4.23」と一部重複する箇所があります。

パネルディスカッション
「日本のインターネット、これまでの20年とこれから」

2004年4月10日

モデレータ:牧兼充(JPNIC ng-tf Chair / 慶應義塾大学)
パネリスト:高橋徹(IAjapan副理事長 / RIIS代表取締役会長)
      滝田誠一郎(ノンフィクションライター)
      中村修(慶應義塾大学環境情報学部助教授 / WIDE Project)
      前村昌紀(JPNIC理事 / JANOG運営委員)

(1) パネリストによる、これまでの活動を交えた自己紹介

中村修(慶應義塾大学環境情報学部助教授 / WIDE Project )

大学に入った頃、UNIXが日本に来て、 触り始めたのがネットワークとの関わりの最初です。 その後、東京工業大学のマシンと慶應義塾大学のマシンをUUCP(*1)でつなぎメールやファイル転送を始めました。 これがJUNET(*2)の始まりです。

UUCPではなくて、 IP(*3)で繋ぎたいという動機でWIDEプロジェクト(*4)を始めました。 最初の合宿は1988年5月に開催されました。 「友達があそこにいるので繋ぎたい」という理由で専用線を引き、 NOC(*5)をつくるという形でネットワークを発展させてきました

学術系のネットワークと当時スタートした商用のネットワーク(IIJ、 Infoweb、SPIN)をアメリカ回りではなく、 国内で直接つなげたいという理由で始めたのがNSPIXP(*6)です。

神戸で開かれたINET92(*7)で日本のインターネットが世界にデビューしたと思います。 日本で国際的なイベントをやると日本の現状が良く見えます。 INET92は日本のインターネットの現状がいかにすごいかを伝える場でした。

これまで「まずやって見る。 走りながら考える」というスタンスでいろいろなことに取り組んできました。 例えば、 「電話とFaxがあれば、 電子メールなんかいらない」という人に対しても、 電子メールが使える環境を整えてあげると、 ほとんどの人が使い始めます。 そして、一度使い始めるとやめられなれなくなるのです。

高橋徹(IAjapan副理事長 / RIIS代表取締役会長)

1989年から村井純さんと「Interop(*8)視察ツアー」を始めました。 そのうち、 日本にInteropをもってくるという話が出てくるようになり、 神戸で開かれたINET92で話が進展し、 1994年に「Networld + Interop Tokyo」という形で開催となりました。 InteropNetは中村修さん、 山口英さんの2人を中心に準備が行われました。

これまで、インターネット協会(*9)の発足やINET2000(*10)の誘致などに関わってきました。 また、 1994年に東京インターネット(*11)の社長に就任し、 安い価格でインターネット接続サービスを提供する事業を手がけました。

アジア太平洋地域のインターネット関連組織の立ち上げと運営にも大きく関与しました。 色々な組織の母体となってきたAPNG(*12)から、 APNIC(*13)APIA(*14)が立ち上がりました。 また、APRICOT(*15)を1996年に第1回をシンガポールで開催しました。 ちなみに、2005年のAPRICOTは京都での開催予定となっています。

前村昌紀(JPNIC理事 / JANOG運営委員)

NECのインターネットサービス(MESH)の立ち上げに参画したのが最初の関わりです。 それまではインターネットは研究者のためのネットワークで、 「商用」になんかならないというような認識しか持っていませんでした。

NSPIXP1への接続に関わり、 日本のインターネットを動かしてるような気分になり、 その中で「自分のやりたいことをやる」「走りながら考える」というインターネット的思考の素晴らしさに触れました。

なんとかして役に立ちたいという気持ちから、 IPアドレス管理に関するドキュメントの和訳をボランティアで行うようになり、 これがJPNICとの最初の接点です。

自分は第2世代の人間だと思います。 WIDEプロジェクトを「最先端の技術者集団」という捉え方をしていました。 そして「何かが足りない。 日本にはNANOG(*16)に相当する組織がない」という意識からJANOG(*17)を1997年に始め、 現在に至っています。

滝田誠一郎(ノンフィクション・ライター)

「JN 実業の日本」に「インターネット創世記」を連載し、 日本のインターネットを牽引してきた多くの方々を取材しました。 その後、 連載を加筆するかたちで2002年に『電網創世記・インターネットにかけた男たちの軌跡』を出版しました。

ネットワークの仕事は大勢でやることに意味があります。 「20年」というのは1984年のJUNETを起点とする考え方ですが、 「TCP/IPでつなぐ」という観点では1988年のWIDEプロジェクトをスタートにした方が良いかもしれません。 一方で、 ネットワーク型のネットワーク研究組織によるオペレーションという意味では1984年のJUNETを起点に考えても良いようにも思っています。

(左から)パネリストの中村修氏(慶應義塾大学)、高橋徹氏(IAjapan 副理事長)
(左から)パネリストの中村修氏(慶應義塾大学)、 高橋徹氏(IAjapan 副理事長)
(左から)パネリストの前村昌紀(JPNIC理事)、滝田誠一郎氏(フリーライター)、モデレータの牧 兼充(JPNIC ng-tf Chair)
(左から)パネリストの前村昌紀(JPNIC理事)、 滝田誠一郎氏(フリーライター)、 モデレータの牧 兼充(JPNIC ng-tf Chair)

(2) 日本のインターネットのこれまでの20年を振り返る

様々な組織の立ち上げ

WIDEプロジェクトに発足時から関わり、 現在はボードメンバーである中村氏から「インターネットの組織を作るとはどういうことか」という観点で発言がありました。

なぜ組織をつくるのかと言えば、 きちんとしたサービスを提供するためです。 例えば、JPNICはIPアドレスのマネジメントをやるためで、性質上、 国にもある程度関わってもらった方がよいということで、 4省庁共管の社団法人となりました。 INETクラブ(*18)は、 当時KDD研究所の国際回線にJUNETが乗っかっている形では法律に抵触するので、 その問題を解決するため任意団体として組織化されました。 また、IIJ(*19)は商用のサービスを提供するために作られました。 だから株式会社という形態を取っています。

これに対して、 フロアからは最初のWIDE合宿の参加メンバと議題について知りたい旨の質問があり、 中村氏からは次のような回答がありました。

篠田陽一さん、加藤朗さん、村井純さん、砂原秀樹さん、 山口英さんらが第1回の合宿の参加者です。 Agendaは、「どうやってネットワークをつなぐか」でした。 「専用線にIPでつなぐってどういうことなの?」「離れたところを専用線でつなぐには?」「デジタル専用線って?」「DSUって」「CSUって」というところから手探りで当時はやっていました。

また、JANOGの立ち上げに関わり、 現在も運営委員として活動を牽引する前村氏に、 JANOGが始まったきっかけや組織運営の難しさなどをお話いただきました。

NANOGのような場が日本にはないので作ろうというのがきっかけで1997年にスタートしました。 ボランティア、非営利で運営しています。 例えば、古いマシンをチューニングしてサーバにしたり、 ドメイン名維持料を飲み会のおつりから捻出するなどしています。 最初のメーリングリスト登録者は10人くらいでしたが、現在、 4,000人が参加するコミュニティになっており、 「JANOGって誰なの?」など、いろいろと課題が出てきています。 運営委員の中でも「NANOGのようにテクノロジーを重きをおいて最先端のことをやる」「すそ野を広げ、新しく来た人にもいろいろ勉強してもらえる場」「Japanのグループとして日本のオペレーターを代表する集団であるべき」などJANOGに対しての思いに差があるのが現状でいろいろと議論を重ねています。

商用プロバイダの誕生

日本では1993年にインターネットの接続を行う商用サービスがスタートしました。 当時の雰囲気について、 東京インターネットで社長としてプロバイダ事業に携わった高橋氏から発言がありました。

神戸で開かれたINET92で「これからのインターネットで何が面白い?」 とロータスの創業者のMitchell Kaporに尋ねたところ、 「商用インターネットのプロバイダは20世紀に残された最大のビジネス。 絶対間違いない」と言われました。 さらに、この発言にInteropの創始者であるDan Lynchも同意したのです。 1992年頃、 新日鉄と電力中央研究所から「マルチクライアント調査」を委託されました。 テーマは商用インターネット(プロバイダ事業)です。 アメリカ中を回り、Vint Cerf、Rick Adamsらインターネットを作ってきた方々と会い、 プロバイダ事業の可能性についての調査をし、報告を行いました。 「電力会社と新日鉄が持つバックボーンを活用すれば商用プロバイダができる」と報告をしましたが、 あまりにも早すぎ、 その時点では取り上げられずに終わってしまいました。

また、 中村氏からはパソコン通信の相互接続を行った際の苦労話やIIJ設立に至る経緯についての発言がありました。

NIFTY-Serve、PCVAN、 アスキーネットなどのパソコン通信の相互接続に対して、 「通信事業者が相互に接続する時は届け出が必要。 メールを相互に交換ることを勝手にやってもらっては困ります」として、 当初クレームも来ました。 これに対しては「WIDEプロジェクトにつなげて実験をしています」と答えました。 「実験」という枠でいろいろなことがやれる時代でした。

WIDEも最初は一生懸命プロモーションを行い「ぜひ、 共同研究しましょう」と言って、 ボランティアで接続先を増やしていきました。 そのうちに「うちでもつなぎたい」と皆が言ってくる事態になり、 「研究」という名の元では手に負えなくなってきました。 「このままでは自分達がつぶされる」という危機感もあって商用のインターネットを立ち上げようという認識を持つようになりました。 郵政省での研究会では大手が商用インターネットに参入する「夢」は描くことができませんでした。 仕方がないので、WIDEのメンバーが金を出しあって、 IIJを設立するための資本金を集めたのです。

日本のインターネットコミュニティの課題

2002年に出版された『電網創世記・インターネットにかけた男たちの軌跡』の取材などを通じて、 コミュニティを外から見てきた滝田氏から「インターネットコミュニティの課題」ということで発言がありました。

日本のインターネットの普及発展は、 WIDEに代表されるようなネットワーク型組織の力で広がりを見せてきたと思います。 一方で、結果としてみると、 ある一つのネットワークの中に関係者が固まってしまっているのではないか、 という感じが外から見るとあります。 WIDEプロジェクトの功績がそれだけ大きいということですが、 裏返しとして、WIDEの中ににいろいろな人が集まって、 WIDEの中を見てやっている部分があるのかなと感じを受けることが時々あります。

課題ということで言えば、 「インターネット」としてフォーカスしてきたものをインターネットの中にいる人は、 インターネットの外へ向けていろいろなことを発信していくことが大事になってくると思いますし、それが、 インターネットのビジネスとかサービスとか技術を考える上でこれから一番大事なポイントになってくるのではないでしょうか。

ネットの問題をネットの中だけで考えるのではなく、 ネットの外との関係性の中でいろいろ物事を考えていくことが大事で、 そういういことの橋渡しをできる人がもっと沢山出てくる良いのかなと思っています。

発表を行う遠藤淳(JPNIC ng-tf Vice-Chair)
発表を行う遠藤淳(JPNIC ng-tf Vice-Chair)
パネルディスカッションの風景
パネルディスカッションの風景

(3) Next Generation(若い人材)に期待することとこれからのインターネットコミュニティで自分が取り組んでいきたいこと

最後のパートでは、 研究会参加者とng-tfのメンバへのメッセージと、 これからの抱負について、パネリストの皆様から発言を頂きました。

滝田誠一郎

次の世代のインターネットの「全体像」を描ける人がいないように思っています。 そういう人が出てくることを期待しています。 現在、「フォーブス日本版」で『電網創世記』の続編とも言うべき、 「ブロードバンド創世記」を連載をしています。 この取材、連載に取り組んでいきたいと考えています。

前村昌紀

例えば、WIDEをスタートさせた方々は「フロンティア」なので、 やってもやっても仕事はあるし、 やればやるほど仕事が出てきます。 実際に「作ってきた」人達は問題意識があり、 いろいろとやることを思いつきますが、その次の人達は、 そこまでの経験もなければ、経験する機会もありません。 これはやむを得ないところです。 その分、後になればなるほど、経験によって失敗の歴史を知る、 どれが最適なのかを知るという、 どんどん良くなっていく部分もあるのも確かだと思います。 10年後には10年後なりのすごく良い世界もあるのではないでしょうか。

「自分のやりたいことをやる」「走りながら考える」というインターネット的思考に触れた時はカルチャーショックでした。 「実験」ということで、 とにかく動かしてそれから考えるというカルチャーです。 このインターネットのマインドは多分正しいですし、 動いていくアーキテクチャだと思います。 これと「社会インフラ」をどう結び付けていくのか、 というのがこれからのインターネット全体のテーマだと思います。 このテーマで、自分も今後10年活動できるように思っています。

高橋徹

次の世代に、 自分で預かってきたことをどうやって手渡ししていくかというのがテーマです。 例えば、ISOC(*20)日本支部のPresidentを誰に渡すか、 ISOCの活動をどういうふうに活性化するかなどです。 あるいは、IAjapanの理事長を誰にお願いするかなどもあります。

IAjapanが「年寄りの話し合いの場所」になったのではしょうがないと思っています。 若手の世代が活動の中心になっていく方向をちゃんと定着させていきたいと考えています。

中村修

ng-tfを見ていると、第三者的な感じを受けます。 「○○に興味があります」では優等生になりすぎていてつまらないと思います。 「これがしたい」という欲求を前面に打ち出して欲しいですね。 例えば 「スパムがいっぱい来て嫌なのでなんとかしたい」でも良いのではないでしょうか。

「全体を見る」ということも大事ですし、 全体のバランスの中でというのも重要ですが、 何でも幅広く知って、 その中から自分の興味のあるものを選ぶというスタンスでは、 今のインターネットの加速度を考えると、 間に合わないように思います。 自分でまず問題意識をつかんで、 「これやろう、これだよ、これ」と突き進んで、 それから回りを見るというやり方の方が、 うまく行くような気がします。

今、Auto-IDに取り組んでいます。 世の中から様々な課題を突きつけられているのも事実ですが、 まず「ほら、楽しいでしょ」といってみんなに使ってもらうところから取り組んでいきたいと思っています。


(*1)UUCP
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-kz.html#03-UUCP
(*2)JUNET
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ij.html#02-JUNET
(*3)IP
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ij.html#02-IP
(*4)WIDEプロジェクト
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-kz.html#03-WIDE
(*5)NOC
Network Operations Center。ネットワークを管理する施設。
(*6)NSPIXP
Network Service Provider Internet eXchange Point。
WIDEプロジェクトが中心となり、1994年に3月に東京に設置された。 商用インターネットを相互に接続する場合の問題点について、 実証的な手法で研究を行っている。
(*7)INET92
1991年から始まったISOC(Internet Society)主催のインターネットに関する国際学会。1992年は神戸で開催。
(*8)Interop
相互接続性の検証とデモンストレーションを行う、ネットワーク技術に特化した展示会・カンファレンス。
(*9)インターネット協会
現在の財団法人インターネット協会(IAjapan)
http://www.iajapan.org/
(*10)INET2000
2000年のINETは横浜で開催。
(*11)東京インターネット
東京インターネット(株)。1994年12月に設立され、翌年4月にサービス開始。
(*12)APNG
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ah.html#01-APNG
(*13)APNIC
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ah.html#01-APNIC
(*14)APIA
Asia & Pacific Internet Association
http://www.apia.org/
(*15)APRICOT
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ah.html#01-APRICOT
(*16)NANOG
NANOG:The North American Network Operators' Group
http://www.nanog.org/
(*17)JANOG
JApan Network Operators' Group
http://www.janog.gr.jp/
(*18)INETクラブ
「国際科学技術通信網利用クラブ」。日本のネットワークを効率よく国際接続するために1987年に作られた非営利の会員組織。1994年に解散。
(*19)IIJ
(株)インターネットイニシアティブ。1992年12月にインターネットイニシアティブ企画として設立。国内初のプロバイダ事業会社。
(*20)ISOC
http://www.nic.ad.jp/ja/tech/glos-ij.html#02-ISOC

このページを評価してください

このWebページは役に立ちましたか?
よろしければ回答の理由をご記入ください

それ以外にも、ページの改良点等がございましたら自由にご記入ください。

回答が必要な場合は、お問い合わせ先をご利用ください。

ロゴ:JPNIC

Copyright© 1996-2024 Japan Network Information Center. All Rights Reserved.