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ニュースレターNo.36/2007年7月発行

JP-DRP改訂の背景

「JPドメイン名紛争処理方針(以下「JP-DRP」と略記)」と「JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」と略記)」が改訂され、2007年6月1日から実施されました。この機会にJP-DRPの基本的な考え方と、今回改訂の概要を、できるだけ解りやすく説明してみたいと思います。

ドメイン名紛争の出現

JPドメイン名(.jpで終わるドメイン名)を含めて、インターネットのドメイン名は、基本的には先願主義で登録されます。つまり、あるドメイン名を希望する人が複数いる場合には、「早い者勝ち」で登録者が決まります。現在では、新しい会社を設立、あるいは新製品を発売する時、無関係の他人に社名や製品名を使ったドメイン名を取られないように配慮しますが、インターネットがまだ世の中にそれほど知られていなかった時代には、先願主義をよいことに、全く関係ない人が有名会社の社名や商品名が入ったドメイン名を登録して、その会社に高額での買い取りを迫る事例が多く発生しました。このような事例は1993年頃から主にアメリカにおいてCOMドメイン名(.comで終わるドメイン名)で発生し、サイバースクワッター(Cyber Squatter)と呼ばれるようになりました。アメリカでは、この種の事例を巡って多くの裁判も起こりました。中にはドメイン名の登録機関を巻き込んだ裁判も起こり、ドメイン名登録の仕組みがどうあるべきか、問われる事態になりました。

UDRP(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy)の成立

サイバースクワッターの出現とともに、NSI(Network Solutions Inc.)の独占問題が議論を呼んでいました。NSIは、1993年4月以降、.com、.net、.orgなどのトップレベルドメインの登録事業を一手に引き受けていて、莫大な利益を上げ始めており、これが批判を浴びていました。「二匹目のドジョウ」を目論み、新しいトップレベルドメインの登録事業に意欲を示す者も数多く現れました。

このような状況に答えるために、 1996年秋には米国バージニア州に本拠を置く非営利法人 ISOC(Internet Society)の呼び掛けにより、 IAHC(International AdHoc Committee:国際特別委員会※1) が組織され、解決策の検討を始めました。 このIAHCで始まった検討は、 紆余曲折を経て1998年10月の ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers※2) の設立へと繋がります。 ICANNはカリフォルニア州法に基づく非営利民間法人ですが、 米国政府との覚書を締結してインターネットのドメイン名とアドレスの管理を委託されます。 そして1999年10月にICANNが制定した UDRP(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy:統一ドメイン名紛争処理方針※3)が、 IAHCで始まったサイバースクワッター対策に関する一連の議論が挙げた成果と見なすことができます。 ※4 ※5 その歴史的経緯の説明は付録に譲りますが、現在、UDRPは、.com、.net、 .orgをはじめとする分野別トップレベルドメイン (Generic Top Level Domain:gTLD)に対して適用されており、 さらに多くの国コードトップレベルドメイン (country Code Top Level Domain:ccTLD)の紛争解決方針に採用され、 あるいは影響を与えています。

JP-DRP(JPドメイン名紛争処理方針)の成立

日本においても、裁判にはならなかったものの、サイバースクワッター的事例は多くあり、JPNICは長い間その対処策を模索していましたが、有効な答えを見つけられないでいました。ICANN UDRPの施行を見た直後から、JPNICではUDRPを参考として、JPドメイン名のための紛争解決手続を作ることを検討しました。その結果2000年7月に、JP-DRP(JPドメイン名紛争処理方針)およびその処理手続について定めたJP-DRP手続規則(JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則)を制定し、同年10月から施行しました。これらはそれぞれ、UDRP(統一ドメイン名紛争処理方針)とUDRP Rules(統一ドメイン名紛争処理方針のための手続規則)を日本の実情に合うように変更を加えるという考え方で作られました。このため、JP-DRPはUDRPの基本的な思想をそのまま受け継いでいます。

UDRP、JP-DRPの仕組みと基本的な考え方

UDRPやJP-DRPの下では、他人のドメイン名登録に不服を持つ商標権者は決められた紛争処理機関に申立てを行います。紛争処理機関は、JP-DRPの場合は日本知的財産仲裁センターが指定されており、UDRPの場合はWIPO(World Intellectual Property Organization:世界知的所有権機関)、NAF(The National Arbitration Forum:全米仲裁協会)、ADNDRC(Asian Domain Name Dispute Resolution Centre:アジアドメイン名紛争処理センター)の三つの機関が指定されています。

申立てを受けた紛争処理機関では、申立書と登録者が出す答弁書に述べられている主張をもとに、当該ドメイン名を申立てを行った人に移転するか、あるいは登録抹消するか、あるいは何も変更しないかを判断します。この判断を下す人あるいは人達を「パネル」と呼び、紛争処理機関がそれぞれの申立て毎に任命します。パネルが判断を下すための基準が、UDRPやJP-DRPに書かれています。何だか裁判の仕組みに似ている、と感じられる方も多いと思います。紛争処理機関を裁判所、パネルを裁判官と置き換えると裁判の仕組みとそっくりですが、UDRPやJP-DRPは法律ではなく、ICANNやJPNICなどの民間組織が決めたルールに過ぎません。その点が裁判とは違っており、裁判外紛争解決手続と呼ばれるものの一種です。この仕組みがうまく働くために、登録機関や登録者はパネルが下した判断には必ず従うと契約で決められており、紛争処理機関もまた、ドメイン名登録機関との直接的、あるいは間接的な契約関係に基づいてこの業務を行っています。

「なぜUDRPやJP-DRPに基づく判断を裁判所にやってもらえないのか?」という疑問を持つ方がいるかもしれません。民間組織であるICANNやJPNICが裁判所と紛争処理に関する契約を結ぶことはできませんので、残念ながら裁判所にお願いすることはできません。

では、「UDRPやJP-DRPなどいっそ無しにして、全て裁判所で法律だけに基づく判断をしてもらってはどうか?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。この疑問は確かに一理あるのですが、その場合、元来登録者と商標権者の間の1対1の対決であるはずの争いに登録機関までもが被告として巻き込まれる可能性があること、.comのように国を越えて登録者が分布するドメイン名の場合にはどの裁判所に訴えるべきか不明確なこと、そして何よりも、既存の商標法等に基づく裁判よりも簡単にサイバースクワッターを排除する手続を多くの著名商標権者が望んだこと、などの理由によりUDRPやJP-DRPが作られたのです。このため、商標権者の側からは、それぞれの不審あるドメイン名登録について裁判に訴えるか、UDRPやJP-DRPに訴えるのか、選択することができます。さらに、現行のUDRPおよびJP-DRPの仕組みでは、UDRPやJP-DRPの結論に不満がある場合には裁判所の判断を求めることができます。

JP-DRPおよびその手本となったUDRPの起草時の理念は、概略を以下のようにまとめることができます。

  1. 登録上の利害対立について、登録機関が従うべき判断を適切な日数で下す
  2. 先願主義を基本とするドメイン名登録の仕組みにおいて生じた悪質な登録を事後的に排除する
  3. 知的財産権とドメイン名が社会にもたらし得る利便性、有益性のバランスを取る
  4. 悪質性の高いドメイン名登録を簡易、迅速な手続によって排除する
  5. 悪質性が微妙なものに関しては、本格的な証拠調べ、異議申立ての仕組みを備えている裁判に委ねる(UDRP、JP-DRPとしてはドメイン名登録の現状を変更しない)

はじめに述べたように、UDRP、JP-DRPはサイバースクワッターの跋扈という状況に対応するために考案されました。著名な商標を持つ大きな企業が主に苦情を述べたわけですが、はじめのうちは苦情はドメイン名の登録機関に直接持ち込まれました。.comを扱っていたNSIは、「商標登録の証明書を提示すれば該当する.comのドメイン名を停止する」という“NSI Dispute Resolution Policy”を作り実行しましたが、すると聞いたこともないような開発途上国の商標登録の証明書が持ち込まれたり、米国特許庁に○○.com という形の商標登録申請が殺到するようになりました。NSIのアイデアが良い解決策であるとは考えにくい状況でした。ドメイン名登録の帰趨を裁判で決めてもらうという考え方もありますが、登録機関に対して「当該登録ドメイン名を移転せよ」というような判決をもらうためには、登録機関が被告になっていなければならず、それは登録機関にとって大きな負担でした。登録機関を被告とせずに商標権者とドメイン名登録者の間で争われた裁判の判決を基にドメイン名の行く末を決めようとすると、判決文を何らかの意味で解釈する必要が生じます。その解釈を誰がするのか、という問題があります。登録機関を当事者とはせず、しかしながら、登録機関が従うべき判断を直接的な文言で明示してくれる第三者的な判断機関を必要としていたのは、誰よりも登録機関自身だったのです。これがaの意味です。

また、「ドメイン名登録も商標登録と同様に一定の公示期間を設けて事前審査を行え」という意見も出ました。しかし、インターネットの利便性は敏速性にあるということで、時間がかかる事前審査制は支持されませんでした。その代わりとして、事後に発覚した悪質な登録を排除する仕組みを、裁判とは別に用意するということで妥協が図られたわけです。これがbです。

サイバースクワッターの排除が問題の発端でしたから、申立て側が商標権を持っていることを基本的な条件として据えています。しかし商標権を持っていれば常に勝てるというわけではありません。商標法では一つの商標でも複数の権利者が存在し得ますが、一方、ドメイン名の登録は一意的である必要がある、というような性質の違いもあります。またドメイン名は商業目的以外に使う場合もあります。種々の事情を考慮して、UDRPやJP-DRPでは、申立て側が持つ商標権の役割を一定限度に制限しています。登録者が当該ドメイン名を使う「正当な理由」がある場合には、たとえ商標権を有していても申立て側は勝てません。ここで登録者側の「正当な理由」は商標法やその他知的財産権上の理由には限定されていません。言い換えれば、UDRPやJP-DRPは商標権という土俵の上で申立て側と登録者を戦わせる仕組みではなく、ドメイン名登録という土俵の上で商標権とそれ以外の権利の対立を調整する仕組みであると言えます。これはドメイン名が、さらにはインターネットという新しい技術が、商標法や知的財産権の枠を越えて社会に利益をもたらし得る、との考えが根底にあるためと考えられます。これがcの実質的な意味です。

d、eは、時間がかかる複雑な判断は扱わないことを意味します。このため、悪質性があってもいわば知能犯的な巧妙な手口に対しては、UDRP、JP-DRPには当然限界があります。しかし、UDRPの処理件数の実績を見る限り、それでも十分に役に立っていると言えるでしょう。

なお、ドメイン名登録を巡る利害対立にあたっては、損害賠償などの問題も発生する可能性がありますが、UDRP、JP-DRPでは損害賠償などは扱わず、ドメイン名登録の帰趨に限って判断を下します。これもパネルにaの観点に集中してもらうための考え方です。

JP-DRPの再検討から改訂へ

JP-DRPの実施から4年を過ぎた2004年11月から、JPNICではそれまでの26件のJP-DRP裁定を法学的な見地から検討するために、「JP-DRP裁定例検討専門家チーム」を発足させました。4年の間には、JPドメイン名登録事業がJPNICからJPRSへ移管されたことに伴う改訂が2002年にありましたが、実質的な改訂はありませんでした。裁定の検討はJP-DRP改良の可能性を探るためで、結果次第では改訂することを視野に入れたものでした。1年4ヶ月に及ぶ検討の結果を「JP-DRP裁定例検討最終報告書」※6としてまとめ、2006年3月に公開しました。これを受けて、2006年度にはDRP検討委員会が理事会からの諮問によりJP-DRPの改訂について審議することになりました。委員会は審議の結果、3点の改訂内容からなる「JPドメイン名紛争処理方針・同手続規則改訂に関する答申」※7を2007年2月21日にJPNIC理事会に提出し、同年3月9日に理事会は答申通り改訂を決議、同年6月1日からの実施としました。

改訂の趣旨

今回の改訂での条文の変更箇所は9ページの「JP-DRP改訂新旧対照表」の通りです。この改訂は内容的には次の三つの点から成り立っています。

  • (1) 登録者の正当事由を明確化
  • (2) 立証責任を明確化
  • (3) 裁定文の公表および保管の主体に関する変更

新旧対照表では、それぞれの変更箇所がこの3点のうちのどれに対応するかを右の覧に示しました。

改訂点(1)の対象とする「登録者の正当事由」は、前述したJP-DRPの理念cに関係する事項です。裁定例の検討から、今回改訂した部分が手本としたはずのUDRPの意図とは違った解釈の余地を持つことが窺われるため、解釈の明確化を図る意味で該当部分の改訂を行うことにしました。

改訂点(2)は、当事者の立証責任や立証の成否について、パネルの判断が取り得る幅がUDRPよりも広いと考えられるため、起草時の意図に戻り、解釈の明確化を図る意味で該当部分の改訂を行うことにしました。

以上(1)、(2)ともにパネルの判断が取り得る幅を狭める方向での改訂です。これはパネルの労力を減らしますが、パネルの判断権限を狭めるという意味になり、否定的に解釈する見方もあり得ます。しかし、当事者から見れば裁定結果の予測可能性が向上するため、証拠の準備等に費やす手間が大幅に軽減されることが期待されます。これは、JP-DRPの理念dに沿う方向性です。なお、詳しくは「JPドメイン名紛争処理方針・同手続規則改訂に関する答申」※7をご覧ください。

改訂点(3)は判断基準に関係する改訂ではなく、事務手続に関するものです。紛争処理機関およびパネルの事務負担を軽減し、また紛争処理機関が将来複数となった場合でも、裁定文の公表をJPNICで一元的に行い、参照の便を図る意味です。

結び

今回の改訂に至るまでに、多くの方々のお世話になりました。改訂案の答申作りにご努力いただいた2006年度DRP検討委員会は、JPNICが委員を委嘱した外部の法律専門家の方々で構成されています。また答申作りの過程で、公開のシンポジウムを開催し、多くの方々に熱心な議論をしていただきました。一連の活動には、紛争処理機関である日本知的財産仲裁センターからもご参加をいただきました。これら全ての方々に、ここに心から感謝の意を表します。

今回の改訂により、JP-DRPはドメイン名の紛争処理手続として、さらに有効性を高めたと考えております。サイバースクワッターの被害に遭っている方々が今後躊躇なくJP-DRPを利用することを願って止みません。

[付録]IAHCからUDRPに至る歴史

1. IAHCからgTLD-MoUへ

サイバースクワッターの出現や、NSIのドメイン名登録事業独占問題などに対する解決策を模索するために、1996年秋には米国バージニア州に本拠を置く非営利法人ISOC(Internet Society)の呼び掛けにより、IAHC(International AdHoc Committee:国際特別委員会)が組織され、検討を始めました。NSIは米国政府の一部門であるNSF(National Science Foundation:全米科学財団)との間の契約(“Cooperative Agreement”)※8に基づき、これらトップレベルドメインの登録事業を行っていましたが、この契約の事実上の立役者はISOCでした。ISOCには、Jon Postel氏等インターネットの技術的な基礎を作った人達が参加しており、一方NSFは古くからインターネットの技術に研究資金を援助していましたが、「金は出すが口はあまり出さない」という態度で、そのため当時のインターネット運営に関する多くの事柄は、NSFからの強い制約は受けずに、ISOCに集まったインターネットの創始者達が自主的に決めていました。このような事情があったため、ISOCが問題の解決策を検討するための動き出したわけです。

IAHCは1997年2月に最終報告書を出し、七つのトップレベルドメイン名の創設、これらトップレベルドメインでの分散登録システム(Shared registry system)の採用、ADNCP(Administrative Domain Name Challenge Panel:ドメイン名異議申立委員会)の設立、の三つを勧告しました。この三つの勧告のうちの最後が、後のUDRPの原型となった提案です。勧告の実現のために、gTLD-MoU(Generic Top Level Domain Memorandum of Understanding)という合意文書が作られ、賛同者が同年5月ジュネーブで署名式典を行いました。民間有志の多数の署名による権威をもって、インターネットドメイン名管理の新しい仕組みを運営しよう、という試みがこれによって動き出しました。

2. 米国政府の介入

しかし、この試みは米国政府の介入により頓挫します。米国政府は1998年1月に、通称グリーンペーパーと呼ばれる文書(A PROPOSAL TO IMPROVE TECHNICAL MANAGEMENT OF INTERNET NAMES AND ADDRESSES:インターネットの名前およびアドレスの技術的管理の改善についての提案※9)を、続いて1998年6月には、通称ホワイトペーパー(Management of Internet Names and Addresses:インターネットの名前およびアドレスの管理※10)を出しました。後者は前者を出した後、世界各地から寄せられたさまざまな意見を反映して書き直されたものですが、両文書を通じて、「インターネットは米国政府の投資によってできたものであり、米国政府に最終的な管理権限がある」とする主張は変わりませんでした。これによって、IAHC最終報告書を受けたgTLD-MoUの試みの正当性は完全に否定されてしまいました。その一方で、ホワイトペーパーは、インターネットの発展に世界各国からの草の根的な貢献が重要な役割を果たしたことを認め、インターネットのドメイン名とアドレスの管理を民間主導によって行うべきであるとする意見に対しては支持を与えました。またサイバースクワッター対策を含めて、ドメイン名と商標の衝突に関しては、WIPO(World Intellectual Property Organization:世界知的所有権機関)に問題解決のための勧告案作成を依頼する、としました。

3. ICANN設立と UDRP採択

これを受けてWIPOは、1998年7月よりドメイン名を巡る紛争処理手続、ドメイン名における周知著名商標の保護等の課題についての検討を開始する、と発表しました。これは「WIPOドメイン名プロセス」と呼ばれています。また、インターネットのドメイン名とアドレスの管理は、Jon Postel氏とその協力者の努力により、1998年10月に米国カリフォルニア州に設立された民間非営利法人ICANNが米国政府と覚書を交わし、請け負うことになりました※11

このような経緯を経て、一度は葬り去られたかと思われたIHAC最終報告書の勧告が、米国政府の監督下という形を取りながらも、事実上ICANNに引き継がれていきます。実際ICANNは、設立当初からトップレベルドメイン名の創設、分散登録システムの実現、ドメイン名と商標の衝突への対処、という三つの課題に取り組みました。三つ目の課題に関しては、WIPOに検討を依頼する、という決議がICANN理事会でも出され、このために1999年4月に出されたWIPOドメイン名プロセスの報告書は、ICANNでの検討を経て1999年10月にUDRPとなって実を結びます。gTLD-MoUの枠組みの下でドメイン名の運営に関する責任を負うとされていたPOC(Policy Oversight Committee:ポリシー管理委員会)が作成したADNCPのGuidelines案第3版※12の影響を、現行UDRPの中に明確に見ることができます※4

(JPNIC インターネットガバナンス・DRP分野担当理事 丸山直昌)


※1 IAHC(International Ad Hoc Committee)
gTLDの運営管理を改善することを目的として1996年11月に発足した国際臨時特別委員会で、ISOC、IANA、ITU、WIPO等のメンバーによって構成され、1997年2月に七つのgTLD追加などを含むIAHC最終報告書を発表しました。1997年5月にはその役割を終え、解散しています。
http://www.iahc.org/
※2 ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)
インターネットの各種資源を全世界的に調整することを目的として、1998年10月に設立された民間の非営利法人です。(本拠地は米国カリフォルニア州マリナ・デル・レイ)その主な役割は以下の通りです。
(1)ドメイン名やIPアドレスといったインターネットの識別子の割り振り・割り当てをグローバルかつ一意に行うシステムの調整
(2)DNSルートネームサーバー・システムの運用および展開の調整
(3)これらの技術的業務に関連するポリシー策定の調整
http://www.icann.org/
※3 統一ドメイン名紛争処理方針(UDRP:Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy)
不正の目的によるドメイン名の登録・使用(例えば、ドメイン名を先取りして、商標権を持つ人に対して高額で転売しようとする行為など)を権利者の申立てに基づいて速やかに取消または移転をしようとするもので、ICANN理事会が1999年8月26日に採択しました。
□Uniform Domain-Name Dispute-Resolution Policy
 http://www.icann.org/dndr/udrp/
※4 The UDRP: The Globalization of Trademark Rights, David W. Maher, Max Planck Institute for Intellectual Property, Competition and Tax Law
http://dmaher.org/Publications/globaliz.pdf
※5 JP-DRP 裁定例検討最終報告書
第2章「UDRP とJP-DRP の起草過程」で触れられています。
http://www.nic.ad.jp/ja/drp/JP-DRP_team_finalreport.pdf
※6 JP-DRP 裁定例検討最終報告書
2006年の3月にJP-DRP裁定例検討専門家チームの検討結果が最終報告書として公開されました。
http://www.nic.ad.jp/ja/drp/JP-DRP_team_finalreport.pdf
※7 JPドメイン名紛争処理方針・同手続規則改訂に関する答申
答申の作成にあたっては、2007年1月23日に改訂案を公開するとともにパブリックコメントの募集を行い、そこで寄せられた意見を考慮した上で最終答申がまとめられました。
http://www.nic.ad.jp/ja/drp/20070123/JP-DRP-report.pdf
※8 “Cooperative Agreement Between NSI and U.S. Government”
http://www.icann.org/nsi/coopagmt-01jan93.htm
※9 インターネットの名前およびアドレスの技術的管理の改善についての提案
“A PROPOSAL TO IMPROVE TECHNICAL MANAGEMENT OF INTERNET NAMES AND ADDRESSES”
1998年1月30日に発表された、通称「グリーンペーパー」と呼ばれる文書です。
http://www.ntia.doc.gov/ntiahome/domainname/dnsdrft.htm
日本語参考訳: http://www.nic.ad.jp/ja/translation/icann/bunsho-green.html
※10 米国商務省:インターネットの名前およびアドレスの管理
“Management of Internet Names and Addresses”
1998年6月5日に発表された、通称「ホワイトペーパー」と呼ばれる文書です。
http://www.ntia.doc.gov/ntiahome/domainname/6_5_98dns.htm
日本語参考訳: http://www.nic.ad.jp/ja/translation/icann/bunsho-white.html
※11 Jon Postel氏は、その直後1998年10月16日に、ICANNの成果を見ることなく死去しました。
※12 “SUBSTANTIVE GUIDELINES CONCERNING ADMINISTRATIVE DOMAIN NAME CHALLENGE PANELS[THIRD REVISED DRAFT], Policy Oversight Committee, January 16, 1998”
http://www.gtld-mou.org/docs/tracps.htm

JP-DRP 改訂新旧対照表

改訂前 改訂後 改訂点

JPドメイン名紛争処理方針

(中略)

第4条 JP ドメイン名紛争処理手続

(中略)

a.適用対象となる紛争

第三者(以下「申立人」という)から、手続規則に従って紛争処理機関に対し、以下の申立があったときには、登録者はこの JP ドメイン名紛争処理手続に従うものとする。

(i)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること

JPドメイン名紛争処理方針

(中略)

第4条 JP ドメイン名紛争処理手続

(中略)

a.適用対象となる紛争

第三者(以下「申立人」という)から、手続規則に従って紛争処理機関に対し、以下の申立があったときには、登録者はこの JP ドメイン名紛争処理手続に従うものとする。

(i)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること

(ii)登録者が、当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと

(ii)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

改訂点(1)

(iii)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

(iii)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

このJPドメイン名紛争処理手続において、申立人はこれら三項目のすべてを申立書において主張しなければならない。

このJPドメイン名紛争処理手続において、申立人はこれら三項目のすべてを立証しなければならない。

改訂点(2)

b.不正の目的で登録または使用していることの証明

b.不正の目的で登録または使用していることの証明

紛争処理機関のパネルが、本条a項(iii)号の事実の存否を認定するに際し、特に以下のような事情がある場合には、当該ドメイン名の登録または使用は、不正の目的であると認めることができる。ただし、これらの事情に限定されない。

紛争処理機関のパネルが、本条a項(iii)号の事実の存否を認定するに際し、特に以下のような事情がある場合には、当該ドメイン名の登録または使用は、不正の目的であると認めなければならない。ただし、これらの事情に限定されない。

改訂点(2)

(中略)

(中略)

c.登録者がドメイン名に関する権利または正当な利益を有していることの証明

c.登録者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していることの証明

改訂点(1)

申立書を受領した登録者は、手続規則第5条を参照し、答弁書を紛争処理機関に対して提出しなければならない。パネルが、申立人および登録者の双方から提出されたすべての証拠を検討し、本条a項(ii)号の事実の存否を認定するに際し、特に以下のような事情がある場合には、登録者は当該ドメイン名についての権利または正当な利益を有していると認めることができる。ただし、これらの事情に限定されない。

申立書を受領した登録者は、手続規則第5条を参照し、答弁書を紛争処理機関に対して提出しなければならない。パネルが、申立人および登録者の双方から提出されたすべての証拠を検討し、本条a項(ii)号の事実の存否を認定するに際し、特に以下のような事情がある場合には、登録者は当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していると認めなければならない。ただし、これらの事情に限定されない。

改訂点(1)
改訂点(2)

(i)登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、何ら不正の目的を有することなく、商品またはサービスの提供を行うために、当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、または明らかにその使用の準備をしていたとき

(中略)

(i)登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、または明らかにその使用の準備をしていたとき

(中略)

改訂点(1)

j.通知と公表

紛争処理機関は JPNIC および JPRS に対し、当該ドメイン名に関するパネルのすべての裁定を通知しなければならない。すべての裁定は、パネルが例外的な事件として部分的に変更修正して公表すると決定した場合を除き、その全文を紛争処理機関がインターネットで公表するものとする。

(後略)

j.通知と公表

紛争処理機関は JPNIC および JPRS に対し、当該ドメイン名に関するパネルのすべての裁定を通知しなければならない。すべての裁定は、JPNICにより保管され、インターネットで公表するものとする。ただし、JPNICが必要と認めるときは、JPNICは公表する範囲を制限することができる。紛争処理機関はJPNICによる保管と公表に同意する。

(後略)

改訂点(3)

JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則

(中略)

第16条 当事者への裁定の通知

(中略)

JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則

(中略)

第16条 当事者への裁定の通知

(中略)

(b)パネルによる別段の定めがある場合(処理方針第4条j項を参照)を除き、紛争処理機関は裁定の全文と裁定結果の実施日をウェブサイトにて公表する。いかなる場合であっても、申立が不正の目的によるものである(第15条(e)を参照)との裁定が下されたときには、その裁定部分は公表されなければならない。

(後略)

(b)JPNICは裁定と裁定結果の実施日をウェブサイトにて公表する(処理方針第4条j項を参照)。いかなる場合であっても、申立が不正の目的によるものである(第15条(e)を参照)との裁定が下されたときには、その裁定部分は公表されなければならない。

(後略)

改訂点(3)

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