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/P▲ ◆ JPNIC News & Views vol.1195【臨時号】2014.5.15 ◆
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◆ News & Views vol.1195 です
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2014年3月23日(日)から27日(木)にかけて開催された、第49回ICANNシンガポー
ル会議の模様を、前後編の2回に分けてご報告していますが、後編となる本号
では、インターネットガバナンス関連のトピックについてご紹介します。
なお、ICANNシンガポール会議における全体的な概要については、前編で取り
上げていますので、以下のURLからバックナンバーをご覧ください。
□第49回ICANNシンガポール会議報告 [前編] 全体概要報告(vol.1194)
https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2014/vol1194.html
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◆ 第49回ICANNシンガポール会議報告 [後編]
インターネットガバナンス関連の話題
JPNIC インターネット推進部/IP事業部 奥谷泉
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ICANNシンガポール会議の報告を2部に分けてご報告していますが、後半とな
る本号では、今回の会議で最も着目された「インターネットガバナンス関連
の話題」をまとめてお送りします。
■ 米国商務省による発表
インターネットガバナンスの話題が盛り上がる大きなきっかけの一つとなっ
た、2014年3月14日の米国商務省電気通信情報局(NTIA)による発表内容を、こ
こで簡単におさらいします。
IANA機能は、NTIAが、ICANNにその運用を委託しているという形をとってお
り、一部政府からは、インターネットの基盤に関わる重要な機能を米国1国の
みが管理している状況に対して、長年強い懸念が表明されてきました。
この度の米国政府の発表は、このIANA機能に関する監督権限を、米国政府が
ICANNへと移管する意向を発表したものです。移管するにあたっての原則は以
下の5点であり、移管案を策定する上での調整はICANNに委ねられています。
・マルチステークホルダーモデルの支持および強化
・インターネットにおけるDNSの安全性、安定性、および回復力の維持
・IANAサービスに対する全世界のカスタマーおよびパートナーの要求と期
待を満たす
・インターネットのオープン性の維持
・国や政府間組織を主体とした仕組みは受け入れない
なお、声明で挙げられている移管提案における原則に加え、会期中に米国商
務省次官のLarry Strickling氏により、以下の点が強調されていました。
・今回、移管の対象となっているのはIANA機能に関する部分のみであり、
米国政府とICANNそれぞれの責務を定めた「責務の確認(AoC)(*1)」につ
いては、これまで通り継続される。ただし、AoCに代わる他の枠組みの可
能性についてコミュニティが議論を進めることは自由であり、その場合
は政府や政府間組織によってではなく、マルチステークホルダーで形成
される枠組みであることが重要。
・米国政府に「代わる」機能/役割を提供することは必須条件ではない。コ
ミュニティとして、そのような機能/役割が不要と判断すれば、それでも
よい。
・米国政府が別途意図を有しており、それを満たすことを期待しているわ
けではなく、マルチステークホルダーで、コミュニティが合意した案を
提示することを求める。
・2015年9月の契約更新時にコミュニティとして合意ができなかった場合、
米国政府が契約を更新することになる。従って、その時点までに合意で
きなくとも現状が維持されるだけであり、現在のIANA機能を維持できな
くなるということではない。
Strickling氏は、AoCに代わる枠組みの可能性についても言及していますが、
これはすなわち、AoCにおける米国政府の関わりについても「より良い仕組み
が提案されれば検討する用意はある」という姿勢だと解釈できます。
(*1) インターネット用語1分解説「AoCとは」
https://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/aoc.html
■ ICANNシンガポール会議における、米国商務省とICANN CEOの発言
NTIAからは、前述の米国商務省次官Larry Strickling氏および担当者1名が、
ICANN本会議前に開催されたイベントを含めて、数日にわたって参加していま
した。個別のGNSO関係者部会単位での会議にも出席して、参加者からの疑問
に答えていたことからも、彼らのコミットメントの度合いがうかがえます。
参加者にとっては、商務省担当者と直接意見交換を行える貴重な機会であり
ました。
NTIAの発表を受けた今後の対応について、CEOのFadi Chehade氏は、「適切な
移管の提案を策定することができるか、世界中が着目している」として、IANA
移管に向けた提案の策定に向けてコミュニティが団結して議論を進めること
の重要性を、オープニングセレモニーで語りました。これはすなわち、政府
主導ではなく、あらゆる関係者がオープンに議論をすることのできる「マル
チステークホルダーモデル」に基づき、適切な案をまとめあげることができ
るのか着目されているということでもあります。
同様の趣旨の発言はStrickling氏も行っており、後述の非商用ユーザー関係
者部会(NCUC)企画イベントでのスピーチでは、「米国政府も一枚岩ではない。
商務省の判断に疑問を挟む声もある中、インターネットコミュニティがNTIA
の発表を受けて前向きに議論を進めていることが示されると、NTIAにとって
も大きなサポートにもなる。みなさんが協力して検討を進めることを期待し
ている。」といった趣旨のコメントを述べていました。
■ NTIAの声明に対するICANNコミュニティの反応
一方、ICANNコミュニティの多くは政府諮問委員会(GAC)も含め、NTIAの声明
を歓迎する姿勢をとっていましたが、全員が支持しているわけではない模様
です。
特に米国をベースにしている企業の一部は、ICANNの方針に対して懸念があれ
ば米国の議院に表明するという手段が失われることを、歓迎しない意見もあ
るようです。実際、ICANNコミュニティとして、NTIAの発表への支持を表明す
る案がICANNのメーリングリストで出ていましたが、企業を代表するICANN内
の検討グループであるビジネスユーザー関係者部会が支持せず、実現に至っ
ていない状況です。
また、ICANNが十分に参加者の意見を取り入れず、ボトムアップに物ごとを進
めていないといった不満も一部の参加者には見受けられ、こういった参加者
は、IANA機能を監督する権限を移管することについて具体的な議論に入る前
に、ICANNの透明性やボトムアップの意思決定が本当にされているかを、まず
は検証するべきという考えを持っているようでした。
■ 会議での議論の特筆点
こういった状況において、シンガポール会議では、移管提案を今後検討する
上で「IANA機能の今後」と「ICANNの説明責任(Accountability)」の二つのト
ピックスに分けて議論が行われました。特に「IANA機能を提供する上での
ICANNの説明責任」、具体的には中立性、透明性などの観点でICANNが信頼に
足る組織であるのかについて、問題提起や疑問の表明を中心として多くの議
論が行われました。特筆点としては以下が挙げられます。
・IANA機能の現状と関係機関が整理して共有されたこと
・米国政府管理下ではなくなる場合、ICANNのAccountabilityも重視され、
これに特化した議論が行われたこと
・ICANN会議中に今後の検討プロセスについて参加者の意見を募集し、この
意見を取りまとめて、ICANNより今後の進め方の案が提示されることが示
されたこと
また、2014年4月後半にブラジルで開催された「NETmundial」に向けても、
ICANNの非商用ユーザー関係者部会(NCUC)が企画したイベントが開催されまし
た。セッションでは「インターネットガバナンスの原則」「インターネット
ガバナンスのさらなる進化に向けたロードマップ」のテーマに基づき、ICANN
本会議でのセッションよりも踏み込んだ議論が行われ、JPNICからは筆者も登
壇しました。
・「ICANN & Global Internet Governance: The Road to Sao Paulo &
Beyond」
http://singapore49.icann.org/en/schedule/fri-ncuc-ig
さらに本会議では、ICANNコミュニティとして提出した寄書の紹介が
「Cross-Community Working Group on Internet Governance at NETmundial」
セッションで行われ、その後も4月29日まで寄書に対するパブリックコメント
を実施していました。
・ICANN Cross Community Working Group on Internet Governance's
Submission to NETMundial
http://www.icann.org/en/news/public-comment/ccwg-ig-netmundial-08apr14-en.htm
■ 今後のIANA機能に関する議論の動向
上記の背景を受け、シンガポール会議ではまず現状を整理し、検討プロセス
を定義することからスタートするとし、今回の会議では監督権限の具体的な
移管に向けた提案に関する議論はありませんでした。しかし、「IANA
Accountability Transition」セッションで、IANA機能と関わりのあるすべて
の機関の責任者、すなわち、IANA機能のVice President (VP)、NROの代表者、
IETFチェア、IABチェア、GNSOチェア、ccNSOチェア、ASOチェアが登壇し、そ
れぞれの立場からIANAとの関わりが語られたことは、ICANNセッション以外に
なかなか実現しない機会であり、参加者の現状の理解も深まったのではない
かと思います。今後議論を進める上で、現状を正しく参加者が認識すること
が必要という点では、重要なセッションでした。
冒頭でIANAのVP、すなわちIANA機能の責任者であるElise Gerich氏が「IANA
の今後を検討するために議論に参加してくださりありがとうございます」と
感謝の意を示した上でスピーチを始め、IANA機能の説明が行われました。
セッションではIANAの持つ機能において、それぞれの機能に対してポリシー
を策定している機関と、処理を行っている機関、監督(Oversight)を行ってい
る機関が図で示され、米国政府がどの部分に関わっているかも示されました。
IANA機能についておさらいをしたい方は、ビデオや資料が公開されています
ので、一度ご覧になってみてください。
「プロトコルパラメータ番号の割り当て」
(ポリシー策定:IETF、 Oversight:IAB、米国政府)
「IPアドレスおよびAS番号の割り当て」
(ポリシー策定:ASO、 Oversight:RIR、米国政府)
「ccTLD/gTLD(ゾーン更新の申請処理)」
(ポリシー策定:GNSO、ccNSO、 Oversight:GNSO/gTLDレジストリ、ccNSO
/ccTLDレジストリ、米国政府)
http://singapore49.icann.org/en/schedule/mon-iana-accountability
現在は、これまでに提出された意見を取りまとめて、ICANNの各支援組織およ
びNRO、IETF、ISOCといったIANA機能における関係機関からの代表者から構成
されるSteering Committeeを設立し、議論の調整を行う案が出ています。ま
た、議論の場もICANN会議に限定せず、各RIRおよびIETF会議も、本件に関す
る意見聴取の場として明記されており、ICANN会議には参加しないけれど議論
に参加したい方は、これらの会議および専用のメーリングリストを通して議
論に参加することが可能です。
メーリングリスト:ianatransition@icann.org
メールアーカイブ:http://mm.icann.org/pipermail/ianatransition/
ICANNにおいては、ICANN会議での意見を取りまとめた上で、IANA機能に関す
る監督権限の移管を検討するにあたって重視すべき原則、および今後の進め
方の案が以下に掲載され、5月8日までコメントが募集されました。
・Call for Public Input:
Transition of NTIA's Stewardship of the IANA Functions
http://www.icann.org/en/news/announcements/announcement-09apr14-en.htm
このように議論はまだ始まったばかりであり、少なくともシンガポール会議
の時点では、根本的な姿勢から調整を必要とする部分も残されていました。
こういった意見をすり合わせていく上では1net (*2)やICANNのCross
Community Mailing list (*3)など、既存のメーリングリストを活用して、会
議の間にも議論を進めていくことが必要になりそうです。
(*2) インターネットガバナンスに関する協調のあり方を幅広い関係者で議論
することを目的としたWebサイトおよびメーリングリスト
http://1net.org/
(*3) ICANNの検討部会が連携して議論する作業部会
https://mm.icann.org/mailman/listinfo/ccwg-internet-governance
■ ICANNの説明責任(Accountability)
前述の通り、これまでIANA機能の監督権限については、米国政府との契約に
基づき、米国政府が監督する役割を果たしていました。しかし、米国政府に
よるそのような役割がなくなった後で、ICANNが適切な運営を行うことができ
るのかについては、IANA機能に関する監督権限の移管に向けた具体的な提案
と同じく重視され、別セッションが設けられてこれに特化した議論が行われ
ました。
特に一部の参加者にとっては、ICANNがボトムアップではない、参加者の意見
を十分に取り入れていないと感じている点があるらしく、会場では「これら
の点がクリアできないと、IANA機能に関する監督権限の移管についても議論
することができないと感じている」との意見も聞かれました。
「ICANN Accountability」セッションで、何を重視するべきかということが
コミュニティに問われ、政府だけではなく、幅広い関係者の意見を求めるこ
と、プロセスの透明性などが重視すべきポイントとして挙げられていました。
http://singapore49.icann.org/en/schedule/mon-icann-accountability
このセッション以外にも、会期中に挙げられた意見がICANNにより取りまとめ
られ、最終的には以下の原則が挙げられています。
・Inclusive (誰でも受け入れる)
・Transparent (透明性)
・Global (グローバル)
・Accountable (説明責任を持つ)
・Multistakeholder (マルチステークホルダー)
・Focused [in scope] ([対象の]絞込み)
・Pragmatic and evidence-based (実践および実証ベース)
・Open [to all voices] ([すべての意見に]耳を傾ける)
・Do no harm (害を与えない)
・Consensus-based (コンセンサスベース)
■ 今後のIANA機能についての議論
IANA機能の監督権限移管については、ICANNが提供しているフォーラム以外に
も、IABのメーリングリスト(internetgovtech@iab.org)で議論を行っており、
APNICでもこれに特化したメーリングリスト(ianaxfer@apnic.net)を立ち上げ
ています。
現時点では、今後の検討プロセスについて議論を行っている段階であり、
ICANNとしても、ICANNコミュニティ以外からの意見も取り入れる姿勢を示し
ていることから、JPNICから見ても大きく懸念すべき事項は確認されていませ
ん。
しかし今後、IANA機能に関する監督権限の移管に向けた枠組みについて具体
的な検討に入った段階で、IPアドレスおよびAS番号の円滑な分配への影響が
ないこと、そしてTLDの変更に伴い、正しいゾーン情報のルートDNSへの反映
に影響がないことに、特に注視が必要と考えられます。
国内における議論の機会としては、5月29日(木)に東京・シスコシステムズ合
同会社会議室で開催する、ICANN報告会で議論を行うことを予定しています。
報告会の詳細については下記のURLをご覧ください。また、その他イベントに
つきましても随時決定次第、JPNICのWebサイトなどでご案内いたします。
第39回ICANN報告会開催のご案内
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2014/20140512-01.html
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わからない用語については、【JPNIC用語集】をご参照ください。
https://www.nic.ad.jp/ja/tech/glossary.html
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