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ニュースレターNo.36/2007年7月発行

IPv4在庫枯渇期対応ポリシー提案活動
~ 5大陸RIR歴訪とその成果 ~

前回発行のJPNIC Newsletter Vol.35では、JPNICがIPv4アドレス在庫枯渇に向けた具体的な対処を開始したことと、その内容をご紹介いたしました※1。そこでの記述を一部引用しますが、その時点では「IPv4アドレス枯渇の問題はなかなか現実感を持って理解されない」ような状況でした。しかし、その後JPNICおよび専門家チームによって行った枯渇期ポリシー提案の提示をきっかけとして、この問題に対する全世界的な関心が高まりつつあります。本稿では、JPNICおよび専門家チームで行っているIPv4枯渇期対応ポリシー提案活動の内容とあわせて、IPv4アドレス枯渇に関して、現在どのような議論が行われているのかを紹介していきたいと思います。

JPNICが提案した「枯渇期対応ポリシー」

まず、2007年2月に開催された第23回APNICオープンポリシーミーティングで提案を行った、枯渇期対応ポリシーの内容※2を以下に簡単におさらいしておきます。

  1. IPv4アドレス枯渇対応は全世界において同時に進めるべき。
  2. 全てのIPv4アドレスを割り振ってしまわず、多少残して割り振りを終了する。
  3. 割り振り終了期日をあらかじめ決定し、十分な時間(2年間)を取って告知する。
  4. 最後の割り振りまで、特に延命のための割り振りルール変更は行わない。
  5. 割り振り(割り当て)済みアドレスの回収の方法等については別途議論する。

これは、ネットワーク事業者の皆様に、IPv4アドレスの割り振りが受けられなくなるタイミングを前もって(本提案では2年前に)お知らせして、それまでは確実にIPv4アドレスの割り振りが受けられることを保証しつつ、その間にIPv4アドレス割り振り終了以降必要となる、事業者側での対応についてご検討を促すことを目的としたものです。

JPNIC News & Views(メールマガジン)では既にご報告※3していますが、APNICでは前記(1)、(4)、(5)のポイントについては合意が得られたものの、(2)、(3)については慎重に検討すべきとの意見が出たこともあり、引き続きメーリングリスト上で議論することとなりました。

その後、JPNICと専門家チームでは、この提案をきっかけにIPv4アドレス枯渇に関する議論を世界的に深めていくことを目的として、他のRIRミーティングにも出席し、提案活動を行ってきました。APNICミーティング以降、2007年4月のARINミーティング、2007年5月のRIPEミーティング、LACNICミーティングでは実際にJPNICの職員が出席し、プレゼンテーションを行いました。同月に開催されたAfriNICミーティングには残念ながら出席できなかったものの、出席していたAPNIC事務局員に依頼し、本提案の紹介を行ってもらいました。

JPNIC提案に対する各RIRでの反応

このように各地域で提案活動を進め、各地域でさまざまな意見をうかがった結果、わかってきたことがいくつかあります。

当初、たとえばARINのメーリングリストでは、「IPv6への恣意的な誘導である」という声とともに、「IPv6を使わなくてもNATで解決できる」という声もありましたが、ミーティングに参加してみると、会場でNATを推す声が上がった地域はありませんでした。むしろ、IPv6をしかるべき解決策として、どのように移行を進めるべきなのか早急に検討すべきである、という意見が多く聞かれました。

また、「RIRにまだ割り振り可能なアドレスが残っている状況で割り振りを停止する」ことに関して、独占禁止法の観点から懸念があるということを、ARINおよびRIPE NCCの法律顧問から指摘されました。一方で、割り振りを停止するのではなく、一定の期日を境にポリシーを非常に厳しくする(しかし条件に合致すれば割り振りは行う)ということであれば問題ないという見解を得ました。ミーティングの出席者からも、アドレスは残さずに割り振ってしまうべきとする意見が多数を占めたと思います。

特に延命のためのポリシー変更は行わないという点については、ARINで一部反対意見が出たものの、今のところ概ね賛同を得ているようです。

2007年5月下旬現在で、全てのRIRで提案の提示を行いました。今後、JPNICおよび専門家チームでは、ここで得られた知見を基に検討を進め、2007年9月から始まる、RIRにおける一連の会議に向けて再提案の準備を進めていく予定です。

図:各RIRの反応
JPNIC提案のIPv4在庫枯渇期対応ポリシーに対する各RIRの反応

JPNICの提案で動き出した世界

こうした一連の議論の中、2007年5月以降さまざまな動きが出てきつつあります。

まず、2007年5月初旬のRIPEミーティングにおいて、Geoff Huston氏がIANA在庫枯渇予測について、従来は2011年5月~6月としていたものを、最近の需要増を考慮して見直した結果、新しい予測では2009年12月(2007年5月25日時点では2010年3月と予測されています)となることを発表しました。※4一気に1年半近くも予想枯渇時期が近づくのですから、大変なことです。RIPEミーティングでも、その後行われたLACNICミーティングでも、今からアドレスポリシーの調整をしても枯渇に間に合わないのではないかといった、悲観的な意見すら聞かれたほどです。

また、JPNICの提案とは別に、IPv4アドレス枯渇対応ポリシーの提案が2件出てきています。一つはIANAからRIRへのIPv4割り振りポリシーですが、IANAの/8の在庫が25個となった時点で、五つのRIRに/8を5個ずつ割り当てて、IANAからの割り振りを終了するといったもの※5です。この提案はグローバルポリシーとして提案されているため、全てのRIRミーティングでコンセンサスを得る必要があります。最初に議論されたLACNICミーティングでは、25個や5個といった個々の数字は今後の議論に委ねるとして、「IANAの/8の在庫がある時点に達した時点で全てのRIRに残りの/8を割り振りきってしまう」という内容についてコンセンサスとなりました。この提案は、今後APNICなど他のRIRでも提案、議論されることになります。

もう一つの提案は、IANAの/8の在庫が少なくなっていくに従って段階的にRIRからLIR/ISPへの割り振りポリシーを厳しくしていき、同時にLIR/ISPに対し、IPv6のサービス準備状況を確認するという提案※6です。JPNICの提案とは、「特に延命のためのポリシー変更は行わない」という点で相容れない部分が大きいものですが、既にARINではこの提案の議論がなされ、賛否両論乱れ飛んでいます。提案はかなり細かく段階分けを行ったものになっており、少し長くなりますが次ページで内容をご紹介します。

ARINで提案された枯渇期対応ポリシー

  • フェーズ0(現状)
    • IPv6のサービス提供状況は特に確認しない。
    • 既存割り振り空間の80%を利用していること。
    • 新規割り振り空間の25%を3ヶ月以内に、50%を1年以内に使うこと。
  • フェーズ1(IANAの/8の在庫が40を切る)
    • IPv6インフラの構築を6ヶ月以内に、IPv6接続サービスを12ヶ月以内に提供する文書上の計画があること。
    • 既存割り振り空間の85%を利用していること。
    • 新規割り振り空間の33%を3ヶ月以内に、66%を1年以内に使うこと。
  • フェーズ2(IANAの/8の在庫が30を切る)
    • IPv6インフラの構築を既に行っていること。
    • IPv6接続サービスを6ヶ月以内に提供する文書上の計画があること。
    • 既存割り振り空間の90%を利用していること。
    • 既存割り振り空間の利用に関し、第三者の監査レポートを提出すること。
    • 新規割り振り空間の50%を3ヶ月以内に、75%を1年以内に使うこと。
  • フェーズ3(IANAの/8の在庫が20を切る)
    • IPv6インフラの構築を既に行っていること。
    • IPv6接続サービスを既に提供していること。
    • 全ての内部インフラをIPv6もしくはプライベートアドレスに移行する計画があること。
    • 既存割り振り空間の92%を利用していること。
    • 既存割り振り空間の利用に関し、第三者の監査レポートを提出すること。
    • 新規割り振り空間の60%を3ヶ月以内に、80%を1年以内に使うこと。
  • フェーズ4(IANAの/8の在庫が15を切る)
    • IPv6接続サービスを既に提供していること。
    • 全ての内部インフラをIPv6もしくはプライベートアドレスに移行する作業に着手したこと。
    • 既存割り振り空間の94%を利用していること。
    • 既存割り振り空間の利用に関し、第三者の監査レポートを提出すること。
    • 新規割り振り空間の70%を3ヶ月以内に、85%を1年以内に使うこと。
    • 例外措置として、内部インフラ構成上の理由でIPv4の割り振りを受けることができる。
  • フェーズ5(IANAの/8の在庫が10を切る)
    • IPv6接続サービスを既に提供していること。
    • 以前に内部インフラで使用していたアドレスのうち25%を返却すること。
    • 既存割り振り空間の96%を利用していること。
    • 既存割り振り空間の利用に関し、第三者の監査レポートを提出すること。
    • 新規割り振り空間の75%を3ヶ月以内に、90%を1年以内に使うこと。
    • 内部インフラ構成上の理由があってもIPv4の割り振りを受けることはできない。
  • フェーズ6(IANAの/8の在庫が5を切る)
    • IPv6接続サービスを既に提供していること。
    • 以前に内部インフラで使用していたアドレスのうち75%を返却すること。
    • 既存割り振り空間の98%を利用していること。
    • 既存割り振り空間の利用に関し、第三者の監査レポートを提出すること。
    • 新規割り振り空間の80%を3ヶ月以内に、95%を1年以内に使うこと。
    • 内部インフラ構成上の理由があってもIPv4の割り振りを受けることはできない。

内容への賛否はともかく、ここまで具体的かつ詳細なポリシー提案が出てくるまでに、IPv4アドレス枯渇への危機感が高まっているということを認識していただけると幸いです。この提案は、ARINの諮問委員会(AC:Advisory Council)から「メーリングリストでの議論を反映し、提案を一部見直すこと」という勧告が下されました。今後の修正案が注目されます。

また、2007年5月22日には、ARINが歴史的とも言って良い理事会決議を発表※7しています。内容は概ね以下の通りです。

  • 現在行っているIPv4アドレス割り振りが、将来にわたってもなされることは保証できない。
  • 一方で、IPv6の割り振りは可能であり、既にさまざまなアプリケーションで利用可能である。
  • 従って、ARIN理事会は、これまで通りARINから番号資源の配分を受け続けたいのであれば、IPv6への移行が必要であることをコミュニティへこの機会に知らしめるものとする。
  • また、ARIN理事会は事務局に対し、IPv4アドレスの申請が適切に行われているか確認するためにあらゆる方策を取ることを指示する。
  • 同時に、ARIN理事会はAdvisory Councilに対して、IPv6への移行を促進するためのアドレスポリシー変更の勧告を検討するよう要請する。
  • ARINは今後、状況の報告をARINコミュニティのみならず、より広い意味での技術者や政府機関、メディアに対して適宜行う。また、今後はIPv6にフォーカスしたアウトリーチ活動を、展示会や講演会等の機会を捉えて行う。

2007年2月のAPNICミーティングでは、ARINをはじめとしたRIRの首脳陣と話し合う機会がありました。その時は「枯渇対応は基本的にコミュニティからの提案を待ちたい」という態度が色濃かったのですが、実際にJPNICが出した提案とその議論、その後の議論の盛り上がりを見て、コミュニティが枯渇対応の議論の道筋を付けるために、レジストリがある程度関与していく必要がある、と判断を変えたと言えるでしょう。

JPNICの考え方

時期は前後しますが、JPNICの理事会でも独自にIPv4アドレス枯渇への対応方針については議論を重ねています。2007年3月9日の理事会では、以下の暫定方針を元に今後議論を重ね、最終的な対応方針を適宜決定することが決議されました※8

  1. IPv4アドレスの枯渇に適切に対応するアドレス管理ルール(アドレスポリシー)の検討、策定及び国際的な調整を行う。
    • IPv4アドレスの延命を目的とした管理ルールの変更は原則として行わない。
    • IPv4アドレス割り振りを終了するために必要となる管理ルールを検討、提案し、全世界的な調整を行う。
  2. IPv4アドレスが枯渇することの周知啓発を行い、各関係者へ対応の検討、実施を促す。
    • 国内、海外の関係者に対し、IPv4アドレスが枯渇することを周知啓発する。
    • 上記関係者に対し、既存の技術的解決策などの適切な情報提供を始めとした必要なサポートを行う。
    • 上記関係者に対し、これらの活動を通じて、関連団体とも連携して対応の早期検討、実施を働きかける。
  3. IPv4アドレス枯渇に対応する技術の更なる改良を促す。
    • 事業者において技術的解決策の実装が進む中で出てくる可能性のある問題に関し、機器ベンダや研究開発プレイヤーの動向を注視する。
    • 必要に応じ、機器ベンダや研究開発プレイヤーが対話、協同する場の提供を行う。

JPNICでは、これまでのポリシー提案活動で得られた知見、関係者との意見調整、連携を生かし、早期に上記暫定案を元に最終的なJPNICとしての方針を定めたうえ、IPv4アドレス枯渇を円滑に乗り越えるための取り組みを進めて参ります。この取り組みを推進するにあたり、JPNIC NewsletterやJPNIC News & Views(メールマガジン)での広報、プレスリリース、講演会、展示会、各種会議、メディアとの連携等、あらゆる機会を通じて情報発信に取り組んでいきたいと思いますが、最終的にインターネットを安定的に運営できるかどうかは事業者の皆様にかかっています。この問題に対しぜひとも関心を持っていただき、議論への積極的な参加を通じて、IPv4アドレス枯渇を円滑に迎える方策を、皆様と一緒に検討していければと思う次第です。

(JPNIC IP事業部長 前村昌紀/IP事業部 穂坂俊之)


※1 JPNIC Newsletter Vol.35
特集1「IPv4アドレス枯渇 ~具体的な対処に向けて~」
http://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No35/0210.html
※2 “IPv4 countdown policy proposal”
第23回APNICオープンポリシーミーティングでJPNICが提案したポリシーの全文は、下記のAPNIC Webサイトで見ることができます
http://www.apnic.net/policy/discussions/prop-046-v001.txt
※3 “JPNIC News & Views vol.434【定期号】
特集「第23回APNICオープンポリシーミーティングレポート」
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2007/vol434.html
※4 “IPv4 Address Report”
Geoff Huston氏のWebサイトで、IPv4アドレス枯渇時期についての予測が掲載されています
http://www.potaroo.net/tools/ipv4/
※5 “Global Policy for the allocation of the remaining IPv4 address space in the Regional Internet Registrysystem”
Roque Gagliano氏、Francisco Obispo氏などによって提案されたグローバルポリシーです
http://lacnic.net/documentos/lacnicx/LAC-2007-07-en.pdf
※6 “Policy Proposal: IPv4 Soft Landing”
David Conrad氏によってARINに提案されたポリシーです
http://lists.arin.net/pipermail/ppml/2007-May/006895.html
※7 “ARIN Board Advises Internet Community on Migration to IPv6”
2007年5月22日に、ARIN理事会決議が発表されました
http://www.arin.net/announcements/20070521.html
※8 社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター
第60回理事会(臨時理事会)議事録(2007年3月9日開催)
http://www.nic.ad.jp/ja/materials/board/20070309/minutes.html
理事会資料5:「IPv4アドレス枯渇に対するJPNICの対応方針(案) 」
http://www.nic.ad.jp/ja/materials/board/20070309/shiryou5.html

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